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バッドエンドを回避したくて【橋本シンヤの勘違い5】

珍しく、2日連続投稿です。

いよいよクライマックスです‥って書くとバッドエンドしか想像出来ないかもしれませんが、あと4話か5話で終わります。



その日の放課後、また俺たちは手を繋いで歩いていた。


「先輩。恋人じゃないんだから手を繋ぐのはやめませんか?」


「あぅ、ダメですか?それって恋人には絶対にしないということなのです?」

氷結姫は悲しいのかウルウル潤んだ瞳で俺を見上げる。その姿を見て俺は妙に庇護欲をそそられてしまう。


「いや、よく考えると迷子になったらいけないし繋ぐのはありだな。」

そして、女の子の涙に免疫のない俺はあっさり意見を翻してしまった。


というか反則だろ?

あんなのに抗える気がしない。


こんな妹が居たらお兄ちゃんなんでも買ってあげちゃう。なんなら妹の為に限度額までクレカ使っちゃうくらいはしてしまいそうだ。



その後しばらく無言で歩いていたが、氷結姫が口を開いた。

「それで、シンヤ君はやっぱり私なんかと付き合っても楽しくないと思っているんでしょうか?」

真っ直ぐ俺の目を見つめている彼女の眼差しは真剣そのものだ。だから、俺もはぐらかさずに正直に答える。


「いや、俺は好きでもないのに付き合うのはちょっと違うと思うんだよ。」


「‥‥そうなんですか。付き合ってみるとつまらない女の子だって失望してしまったんでしょうか。今度は私のこと好きになってくれるように頑張りますね。あっ、ここ右でしたよね。」

氷結姫はそんな健気なことを言いながらも、案内したこともない俺の家へ迷うことなく突き進んでいく。


正直ゾッとするのは仕方のないことだろう。


彼女に悪意も気後れした所も感じられないのだ。

マリたんに調べさせたとは思うのだが、俺の家への道、完璧に頭にはいりすぎだろ?


俺の知らない秘密の近道まで披露してくれたし。

本人より下校ルートに詳しいって頭がおかしいとしか思えないのだが。



とりあえず誤解をといてしまったほうがいい。

彼女の中ではまだ俺が告白して1週間付きあってからフったことになっているはずだからな。


そもそも俺たちは一度も付き合ってないし、俺はケガの付き添いのつもりだったと言わないと話が前に進まない。


「先輩、今から大事なことを言います。質問したいこともあるでしょうがまずは最後まで聞いてください」


それから俺は全てを話した。





「‥そうだったんですか?元々私のことなんて好きじゃなかったんですね。ものすごく気を使わせてしまってごめんなさい。でも、、、それでも、、、私と付き合ってもらえませんか?」

氷結姫はそれでも、俺の目を見つめてまた俺に告白する。そして、よく見ると彼女の足が震えている。


その健気さに思わず、首を縦に振りそうになったが、、情にほだされて付き合ってしまうわけにはいかないんだよな。



「そんなに即答出来ないって。先輩って大体俺のどこが好きなの?」


「かっ‥こ‥いい‥ところ?」

氷結姫は考えながらたどたどしい口調でそんなことを言うが、なんで疑問形?


「いや、もっとほかにないんですか?」

自慢じゃないが容姿にはあまり自信がない。

だから、カッコイイところに惚れたなんて信じられるわけがない。


「そうですね。真面目にバカなことをするところ。自分を持っているところ。自然に他人に優しくできるところ。責任感のあるところ。あとは「も、もういいです。先輩は俺を照れ死にさせるつもりですか?1週間しか付き合いがないのにそんなに挙げられますよね」

俺は耐えきれずに氷結姫の発言を遮ってしまった。


「1週間じゃないです。小学5年の時会ってからですから6年分の想いがつまってます。」

氷結姫は照れながらそんなことを言う。


‥もしかして、6年間、盗聴されたり盗撮されたりしてたんだろうか?彼女の情報網を甘くみていた。

6年間、シンヤ観察日記とかつけてたらどうしよう?


その前に、彼女は俺がその王子様だと勘違いしてるんだろな。いつ、俺と王子様は入れ替わってしまったのか?


その後は恐怖のあまり、核心の話題は避けて好きな食べ物の話をした。


彼女は某有名ホテルの朝食で出てくるフレンチトーストがお気に入りだそうだ。さすがセレブってとこなんだろうな。


そんなオシャレな食べ物を食べたことのない庶民の俺は卵焼きが好きなのでそう話した。


そういった食べ物の話の流れで、明日の昼を屋上で一緒に取ることとなってしまった。



俺は帰ると気を紛らわせるように携帯ゲーム機を取り出して、オンラインゲーム『アンノウン』を始める。


モニターを見つめてキャラを操作しながらも、氷結姫の事を考えていたら、街を出て3秒で死んでしまった。


またか、、、


全く集中できない俺は諦めてベッドに飛び込むとそのままねてしまった。




翌日の昼休み。

俺は先に屋上に来ていた。

少し曇っているが、それでも若干汗ばみそうな陽気で、外で昼飯を食べるにはちょうどいい天気だ。


しばらくすると、氷結姫が現れた。

こうしてみると相変わらずの可愛さだよな。

いつもこの場所で毎日のように告白をうけているのも納得できる。



そういえば、彼女はなぜか大きな包みを持っている。

もしかして、お弁当を作って来てくれたとか?



ベタだが、ポイントの高いことをしてくれるよな。

綺麗だし、健気だし、料理も出来るのか?これでヤンデレじゃなかったら惚れてしまうところだったよ。


俺って単純だからな。


「なんですか?それ?」

俺はお弁当だとわかっていながらそう尋ねると、


「ひ、み、つ、と言いたいところですが、散弾銃です。家に丁度いいサイズの物がなくて使用人から借りたんですよ。私も好きな人のために使ってみたくて」

ショ、ショ、ショットガンだと?

予想外の返事がかえってきた。


彼女は目にドス黒い光を浮かべて笑顔をつくる。


‥彼女がヤンデレだという予測はやはり外れていなかったのだ。付き合ってもらえないくらいなら無理心中して永遠に俺と一緒にいるつもりなんだろう。


というか、もうヤンデレとか通り越してただの猟奇殺人者な気もするのだけど。



これって俗に言うバッドエンドじゃねぇ?



俺の頭は得体の知れないものへの恐怖に支配され、、体が知らず知らずにガタガタと震え出す。


氷結姫が【死】という抽象的な存在を形取ったようにすら感じられて腰が抜けそうになったが、俺はまだこんな所で死ぬわけにはいかない。


しかし、俺の身体が動き出す前に死が俺に近づいてくる。寒くもないのに震えが止まらない俺は死を覚悟するが、彼女が包みを解くために視線を外した瞬間。


なんとか屋上から逃げ出すことに成功した。



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