神埼刹那の昔語り
合コンは続いて行くが、俺はまだまともに会話に参加できていなかった。だからと言って俺は合コン受けするような話題はない。
「そういえば、水上さん。前に見かけた時のあのメイドさんみたいな服装は親御さんの物を着てたの?」
だから、俺は質問をすることにした。
これなら俺が話さなくても盛り上がるからな。
それに、『話し上手は聞き上手』とか言うしな。
「いえ、あれは私用です。私もお手伝いの真似事のようなことをしておりますので。」
マリたんは俺とは目を合わせず事務口調で説明する。ものすごく距離を取られてるな‥
「えっ?何々?水上ちゃん、メイドさんなの?今日もその格好で来てくれたら良かったのに。」
またも、レンヤが話に食いつく。
やはり、マリたんがタイプなのか?
「いえ、あれは制服みたいなものなので業務時間外は着たりなんてしませんよ。そんなことしようものならお嬢様にお仕置きされてしまいます。」
そう言ってマリたんは今度は氷結姫にイタズラっぽく微笑む。
どうやら、マリたんは心を許した人にはそういう表情をするようだ。そういう表情をすると結構可愛いかったりするからちょっと困る。
「もうっ、どこに行ってもマリはマリなんですから。」
一方、氷結姫はからかわれているのになぜか嬉しそうに笑うのだった。
「ところで、神埼先輩は合コンに来て大丈夫だったの?」
リョウスケは今度は氷結姫に質問する。
あれこれ気を使ってもらって申し訳ないが、あまり盛り上がっていない気がする。
「合コン??何ですか?ソレ?」
氷結姫は本気でわかってないリアクションだ。
もしかして、水無月先輩は合コンだってこと言わずに氷結姫を連れてきたのか?
「まぁ、男女の出会いの場だから、あんまり相手の居る人はこないものなんだけど神埼先輩は大丈夫だったのかなぁ〜って。」
リョウスケが仕方なく補足する。
「えっ?けれども、あの?」
すると、氷結姫は何故か戸惑いながら俺を見ている。
あれ?俺は『彼女いますぜアピール』なんてした覚えはないのだが、何が言いたいんだ?
俺に被害が飛び火しそうな予感がする。
俺は我関せずをよそおう為、窓の外を見ていた。
あっ、カラオケボックスだから窓無いや。
「そう言えば、神埼先輩は彼氏のどこが好きか聞いてみたい。」
感情の乗らない声で口を挟んだのは例の怪しい‥いや、オシャレな男だ。
ナイスタイミングだ。
もう少しで俺に火の粉がかかりそうな気がしたしな。
「私って口下手で、結構人に言われっぱなしだったり、衝突を避けて自分を曲げたりすることが多かったんです。あれは小学5年の時…」
氷結姫が語り始めてしまい、皆がシンとしてしまった。おおよそ合コンの雰囲気ではない、、、気がする。
初めてだから実際はよくわからないけど、漫画とかで見る合コンならもうそろそろ王様ゲームが始まってもいい頃なのに。全然うまくいかないのは俺が合コン初心者だからなのか?
氷結姫の話はちょっと長いので要約するが、五年生当時の彼女は恥ずかしがり屋さんで皆の前で歌うのとかもダメだったらしい。
だから、学校の音楽の歌のテストに向けて、敢えて注目の集まる公園で練習してたら、ステキな男の子に会って『人前で歌えるようになる魔法』をかけてくれたんだって。
そんなキザな王子様なんてリアルに存在するんだな?
ほんと爆発してほしい。
あと、コトハ先輩曰く、氷結姫は『歌姫』と呼ばれる位が上手くて、聞いてると感情が揺さぶられて泣く人が続出するらしいし、生徒の父兄の中にも彼女のファンがいるようだ。
そして、その歌姫誕生は王子様の魔法のお陰みたいだ。俺は王子様がますます気に入らなかった。
話は氷結姫の自分語りにもどる。
それから、彼とは何回か会っていた。
しかし、もともと彼と会っていたのが氷結姫の家から近い公園ではなく、母親の得意先への仕事を済ませる間、たまたまその公園で待っていただけなので、公園に通ったのは合計で10日間。
それが終わると公園に通わなくなってしまった。
それでも、やっぱり男の子のことが頭から離れなかったようで使用人にお願いして公園に連れてきてもらったりした。しかし、彼に一度も会うことは出来なかったようだ。
そして、高校で再会し、彼から告白されて付き合うことになったらしい。
なんだよ、その運命の再会みたいなのは。
俺も似たようなことあったけど未だに再会の目処はたってないぞ。そうだな、あの黒髪美少女は可愛いかった。
可愛くて。頑張り屋さんで。笑顔がほんと幸せそうで、、、たぶん、あの娘が…俺の初恋だった。
まぁ、ステキエピソードはもう1つあり、5年生当時の氷結姫は自分の銀髪が嫌いになってしまっていた。
どうやら、周りに心無い中傷を受けてしまったようだ。恐らく氷結姫が圧倒的に可愛いから嫉妬由来の中傷だったのかもしれない。
そして、母親から貰った銀髪を嫌いになってしまう、そんな自分自身すら嫌いになってしまったらしい。
しかしある時、その王子様がまるで宝石でも見たかのようなキラキラした瞳をして言ったらしいのだ。
「うわぁ、すごい。こんなキレイなの見たことないよ」
そんなこと言われたの初めてだったのと、あまりにも純粋に感動したようなその少年の言葉で自分の銀髪がすっかり好きになってしまったようだ。
そして、気付くと彼の事も好きになっていたらしい。
途中、一瞬俺の過去の記憶とリンクしたのだが、そもそも銀髪の子と会った覚えも銀髪を褒めた覚えもない。
唯一覚えているのが、黒髪美少女のお母さんがとても美人だったのと、風に吹かれてそのお母さんのスカートの下のパンツがみえたことくらいだ。
うん、黒髪美少女の名前すら思い出せないのにどうでもいいことはよく覚えているもんだな。
そうして長々と話していた氷結姫は最後にはこう締めくくった。
「あらためて言わせて下さい。シンヤ君が私の事好きじゃなくなっても私は‥だ、大好きです。頑張って幸せにしてみせますから、もう一度付き合ってくれませんか?」
一瞬からかわれているのかと思ったが氷結姫の顔が真っ赤なのを見ると、そういうわけでもないらしい。
えっ?あっ?
あれ?
俺は完全に頭が真っ白になってしまい。
「えっ、えっ、そうなの?ほ、ほんとに?」
とリアクションするので精一杯だった。




