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萌える水上

俺の不安を他所にして合コンという宴は始まっていく。俺はさながらドラゴン退治に向かうモブキャラの様にブルっていた。



「じゃあ、みんな自己紹介しようか?俺から行くね。俺は1年の神木リョウスケです。水無月先輩と共に今回の合コンの主催者でもあります。でも、あまりワァーッって騒ぐ性格じゃないので水無月先輩頼みになっちゃうかもしれませんけど、皆さん楽しみましょう!」

しかし、リョウスケは落ち着いた様子でそう告げると柔和そうな笑みを浮かべる。


かなり落ち着いていて合コン慣れしているように見えた。俺とは大違いだ。


リョウスケって俺の仲間かと思っていたが、まさかリア充だったのか?妙に裏切られた気分になるのは俺のココロが小さいからなのだろうか?



「じゃあ、次はウチいくねぇ。ウチは2年の水無月コトハってゆーの。気軽にコトハって呼んで。隣のアヤちゃんとは中学からの腐れ縁だよ。あと端のセツナちゃんは最近よく連るんでるぅ。あーっ、セツナちゃん最近彼氏出来たから、『従兄弟の結婚式に一緒に出てもらえるように誘うんだ』なんて言ってたんだけどちょっと修羅場でぇ、メンブレだからぁ〜、優しくしてあげてね。あはっ、ウチってもしかして優しい?」

コトハ先輩は気軽にそう告げるが、、、その中にいくつか重いワードが混ざっている。



その中でも危険ワードだが、『彼氏』ってのと『修羅場』ってのがマズイだろう。

完全に混ぜるな危険のNGワードだ。



もしかしたら、俺と毎日2人きりで帰っていたから彼氏と喧嘩になってしまったのだろうか?


だとしたら物凄く申し訳ないことをしてしまった。

場合によってはまた土下座するしかないのか?


ほんと、自分の鈍さがイヤになる。




そして、齋藤先輩、俺、レンヤの自己紹介が終わり、次はマリたんだ。


もしかして、あのマリたんキャラでいくのだろうか?

それとも、後日会ったあのちょっと毒舌キャラでいくのか?



「一年生特進課の水上マリです。よろしくお願いします。」

そう言って頭を下げていた。

その所作は優雅で氷結姫のように洗練されていた。


なんだ?また新キャラなのか?

マリたん、多重人格説は正しかったのかもしれない。

まぁ、冗談だけど‥たぶん、猫かぶってるだけだろう。




そして、次は真打ち登場。

氷結姫だった。


「2年神埼刹那です。よろしくお願いします。」

氷結姫はそれだけ言って俺を睨んでいる。

しかも、視線を俺にロックオンしっぱなしだ。


なんだか怒っていらっしゃる。


やはり、俺との下校が原因で彼氏とこじれてしまったのかもしれない。



しかし、こんな場で俺が土下座でもしようものなら、場がしらけるだろうし、俺は軽く会釈だけしておいた。



マズイな。

自業自得とはいえ、いきなり楽しめない展開に突入だ。もう、当初の目標である『彼女を作る』は諦めるしかないか。


いや、『俺たちの合コンはこれからだ。』なんて打ち切りっぽく言ってみたが希望は捨ててはいけない。

一発逆転で彼女ができるかもしれないしな。まぁ、、生まれてから一度も彼女出来たことねぇけど。



そして、次はいよいよあの不審な男の自己紹介が始まった。


「1年、水瀬アオだ。宜しく。」

意外とハイトーンボイスでそんなことを言うが、宜しくも何も胡散臭すぎるんだが。

リョウスケ。どんな人選してるんだよ?


「あの、水瀬君、その帽子ってレイハダの新作だよね?あとスエットはラゥェンドのじゃない?やっぱりシルエットがカッコイイよね?」

齋藤アヤ先輩がやけに饒舌に水瀬を褒め称える。


ウソだろ?

俺が馬鹿にして見ていた服装を齋藤先輩はキラキラした瞳で見ていた。


マズイ、まさか、あの男って結構なオシャレさんなのか?良さが全然わからないんだが。


「あれ?よく見ると神木君もレン君もスィングのアウターじゃない?それに‥はしも‥」

リョウスケ、レンと見渡して俺を見たところで齋藤先輩は目を逸らして黙ってしまった。


いや、、ダサいなら、いっそのことダサいと言ってくれた方がマシだってこれ。


『シ〜〜ン』という音が聞こえてきそうなほどの静寂が訪れる。


何故か皆の視線が俺に注がれている。

いや、待て待て、、、

齋藤先輩。なんてことしてくれてるんだよ?


俺がスベったみたいな空気になってるだろ?

完全に齋藤先輩に誤爆されただけなんだが。


えっ?引くほどダサい服装なのか?

いやぁな汗が腋から大量に吐き出す。


俺が耐えきれず帰ろうとしたところでようやくリョウスケが口を開いた。



「ところで、水上さんだけ一年生だけど、3人の先輩の誰かの後輩だったりするの?」

リョウスケはイケメンスマイルを浮かべて質問する。

強引にだが話題を変えてくれたようだ。


さすがリョウスケ。それにひきかえ俺はダメだ。

全く会話に参加できる気がしない。


それにさっきから自分の服装が気になって仕方がない。とりあえず、俺もスィングとやらのアウターに着替えてきてイイかな?



まぁ、それはともかくマリたんが何者かは俺も興味があるんだよな。


「いえ、私は神埼先輩の家にお世話になっていますのでそれで今回誘われたんです。」

マリたんは少し面倒くさそうにそう答えた。

付き合いで参加しているのが丸わかりな態度だ。

先輩方への配慮を考えて、もう少しオブラートに包んで話したほうがいいと思う。



「お世話になってるって、家でも燃えたんか?」

しかし、空気を読まずさらっと変な質問をかぶせるレンヤ。


「親が神埼先輩の所で使用人をしてまして、それでなんですよ。なんで燃えるなんて発想になるのですか?もしかして、バカなんですか?バカは黙ってて下さい」

マリたんは特に表情を変えずそう言い放つ。

そこに特に感情は読み取れない。



うん。まさかとは思うが彼女はマリたん系でも優雅系でもなく、クール系というか毒舌系だったのか?


あのマリたんを思い出すと今の彼女は信じられないなんて思ったがこう見てみるとこちらの彼女の方がしっくりくることに気付いた。



それでも、性格に多面性と言うか前回までの演技が凄すぎるのと、毒舌が過ぎるのでお近づきになりたいとは思えないけど。



「おうっ、眩しい。水上ちゃん、萌えるぜぃ」

どうやらドMらしいレンヤはそう言って少し照れていたのでものすごくキモかった。


もうイヤ、こんなの俺の思い浮かべてた合コンじゃない。俺の心はどんどん沈んでいくが、合コンは更に予想外な所に転がり落ちていくのだった。


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