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橋本シンヤの勘違い

3話目と一体で見比べてお読みください。


俺の名前は橋本シンヤ、年齢は15歳。


得意科目は物理。

中肉中背、顔は自称フツメン。

モノマネも出来なければ、取り立てて特技も持ちあわせていない。


強いて言うなら彼女いない歴15年の大ベテランということぐらいか。もちろん、年中彼女募集中だよ。



だけど、殆ど毎日神埼先輩と一緒に帰る俺は、側から見るとリア充なんかに見えるのかもしれない。


でも、実際は周りの人が想像するような楽しい出来事が起こっている訳ではないんだよな。



‥‥今、『リア充爆発しろ!』と思っただろ?



ち、違うんだ、これには深い訳があるんだからな。


そう、神崎先輩と初めて対面したのはちょうど一週間前、水曜日の放課後だった。





「シンヤ、この魔球が君に打てるかな?」

幼馴染のリョウスケは二段モーションで俺のタイミングをずらして投球する。


しかし、放たれた球は魔球どころか只のカーブだったので、俺は一瞬タメを作り、胸元に球を呼び込む。

そして、そのままフルスイングした。



バットの芯に深く食い込んだボールは茜色の空に高く舞い上がり、綺麗な弧を描く。


そして、そのまま特進クラスのある新棟の屋上に飛び込んだ。文句なしのホームランだ。



「フッ、この勝負、俺の勝ちだな。や、約束通り合コンを開催してもらうからな。」

俺はバットでリョウスケを指差して念を押す。


見れば見るほどリョウスケはイケメンだ。


そのせいなのだろうが、女子の知り合いも多い。


だから、俺は以前からリョウスケに女の子を紹介してくれるようにお願いしていた。しかし、残念ながら、なかなか色よい返事は貰えなかったのだ。



それなのに今日に限って『勝負に勝ったら合コンを設定してあげる』なんて言うのだ。



どういう風の吹き回しなのか。


まぁ、問題はリョウスケがイケメンってとこだな。


女子の側から見たら、『リョウスケが合コンに連れて来る男ももちろんイケメン。』なんて期待を胸に合コンに参加されても、もちろん期待に答えることは出来ないしな。


とはいえ、チャンスがあれば乗っからないと俺みたいな自称フツメンは彼女なんて出来やしないんだよ。


そう、イケメンとそれ以外。世の中には2種類の男が存在するが、両者にはマリアナ海溝よりも更に深い溝があるから困ったものだ。



「う、嘘だろ?罰ゲームたのしみにしてたのに。」

リョウスケはものすごく悔しそうにしている。



コイツは基本、この手のゲームは勝っても負けても楽しそうにしているので、俺は勝っても全然優越感に浸ることが出来ないんだよな。


それなのに、今日に限ってこんなに悔しがるなんて、、かなり珍しいんだけど。



「七瀬に告白ってやつだろ?リョウスケって普段はいい奴なのに、こんな罰ゲームを思い付くなんて意外と俺達のこと嫌ってたりすんの?」


意外過ぎるリョウスケの態度を不思議に思った俺は、疑問をリョウスケにぶつけてみることにした。



リョウスケも七瀬とは中学に入った位からは交流があるし、俺とリョウスケはホントに小さい時からの知り合いだ。



ちなみに七瀬だが、名前は葵という。

もちろん女子だよ。



俺と七瀬は小学四年からの友人だったりする。

男同士で告白とかならまだ冗談ですむかもしれないが相手は女の子だ。


しかも、七瀬は結構モテる。なので、当時は下心無しで近づく男子は全然居なかったようだ。


初恋もまだだった俺は彼女と純粋に友人関係となった。そして、男女という垣根なしに割とよくつるむようになって現在に至っている。


ぶっちゃけ、今となってはリョウスケの次の2番目に気の許せる友人なんだよな。



そう考えると彼女に対する罰ゲームの告白はフラれる俺とフる彼女の関係をズタズタにしてしまう可能性がある、一種の危険物だ。



ほら、 俺がリョウスケに皮肉を言った訳がわかっただろ?


ちなみに七瀬にも『彼氏とか欲しい友達を紹介してくれないか』と頼んだことがあったが、ゴミ虫を見るような目で見られたので、耐え切れずに撤回した。



「いや、俺も友人としてシンヤと七瀬の‥‥ってほんとにシンヤの為の合コンを開催するの?‥殺されるかも‥」


いつも穏やかなリョウスケには珍しく、しどろもどろになっていて何が言いたいのか分からないんだけど。



気になったのでリョウスケの話をもう一度聞いてみようと口を開いたが、その刹那クラスメイトの桐生君がいきなり会話に割って入った。


「屋上にはアイス様が今日も居るはずだけど、まさかアイス様にボールを当てたりしてなんてしていないだろうな?」


‥アイス様??‥‥‥氷結姫のことか?

屋上に??


あっ、今日もいつも通り告白を受けているのか?


そう。神埼先輩こと氷結姫は放課後はほぼ毎日告白を受けている。



ある意味日課と言っても差し支えない頻度だから驚きだ。そして、その告白を受ける場所というのが確か新棟の屋上だったよな。



なんで、まだ入学してそんなにたってていない1年生の俺がそんなことを知っているのか疑問に思うのだろうが、、それくらい彼女はこの学校では有名人なのだ。



それにしても、今日も告白を受けていたのか。

あれってやっぱり都市伝説の類じゃなかったんだな。



もしかしたら、俺の打ったボールがどこかに当たったりして大惨事が起こっているのかもしれない。


そんな訳はないのに、俺は妙な胸騒ぎを覚えしまい、気付くと新棟に向かって駆け出していた。



‥‥からだが重い。


運動不足なのか、早くも身体が悲鳴をあげている。


現役の時なら余裕だったのに、高校に入って部活に入らなかったツケがこんな所で現れるとはな。



更にからだが重い‥‥それに息苦しい‥‥

‥‥帰ろうかな?



後ろ向きな俺とは裏腹に足はちゃんと前に出していたようで、数十秒後には階段を登りきることができた。



そのまま屋上への扉を開くと、全身に風を感じ、思わず目を閉じてしまう。


そして、瞼を開くと屋上と空の境目にある鉄柵に、 もたれかかるような姿勢で艶やかに佇んでいる美少女が目に映った。


その美少女は間違いなく【氷結姫】と呼ばれる、学校1の有名人だった。



夕日を浴びた銀髪が輝きを放っていたからなのか?


それとも、彼女の容姿が信じられないレベルで整い過ぎているせいなのか?


まるで、彼女と周りの風景が芸術作品かのような幻想

的な雰囲気を醸し出していた。



馬鹿みたいにシンプルに言ってしまえば、信じられないくらい夕日に映える綺麗な女の子が目の前に立っていたんだよ。



あまりの美少女っぷりに俺は息をすることすら忘れて彼女を見つめ続けていた。うん、バカだよな俺は。



全力疾走で階段を駆け上がった後に息を止め、完全に酸欠になってしまった。


そして、意識は朦朧としてしまい、考えなしに彼女が持っているボールを見つめながら大声で叫んだ。



「ハァハァハァ、《ボールは》俺のものだ。他のやつなんかに渡したりなんてするものか?」


しかし、おれが叫んだ瞬間に彼女がツゥーッと目を細めた。全てを映しているようで、その実何も映していないようなその冷たい眼差しに、背筋の温度が氷点下まで急降下した。



『ゾクっとした』なんて生易しいものではなく、一瞬自分の心臓が凍ってしまったのではないかと錯覚するほど、俺は肝を冷やす。



「‥信じられないです。」

そして、氷結姫は全身が凍りつきそうな冷たい声でそう宣告する。



それはどこか死刑宣告に似ていた。



「‥‥‥‥‥‥‥‥‥えっ?」

しかし、しばしの沈黙の後、少し冷静になった俺が次に浮かべた感情は恐怖や罪悪感ではなく、とまどいだった。



だって、俺はただボールを持ってリョウスケの元に帰りたいだけなのに、、、



‥‥俺って何も悪いことしてないだろ?



しかし、呼吸が落ち着いてくると、ようやく俺は自分が犯した致命的なミスに気づくことになる。



よく見てみると、氷結姫は頻りに前髪を触っている。


実はボールが頭にぶつかったんじゃないのか?

それで、前髪に触れるフリをして、頭の様子を確かめているのだろうか?


‥それは怒るよな。


俺はボールを当てられた女の子の心配じゃなく、ボールを1番に心配したんだからな。


ハッキリ言うとクズだ。



そうと分かれば、こういう時にみっともない言い訳なんてするものじゃない。治療費でも、送り迎えでもなんでもすべきなんだろう。


もし、キズ痕が残った時のためにいい美容整形外科を探すのも忘れてはいけない。資金は無尽蔵に必要な気がするが、死にものぐるいでバイトすればなんとかなるだろう。



ある意味では女の子をキズモノにしたんだからな。

俺もオトコなら覚悟を決めるべきだ。


「本当に悪かった。俺に責任を取らせてくれ。頑張って働くから」


俺はおもむろに土下座した。

床に額を擦り付けるのも忘れてはいない。



イタタタ、やはりコンクリートの床にひたいを擦り付けるのは中々の苦行なのだけど今更止めるに止められなくなっていた。



30秒はそうしていただろうか?


俺が土下座でコンクリートにひたいを擦り付けるなんてバカなことを後悔し始めた時、氷結姫がようやく口を開いた。


「‥そんなに私のことが、、、」


氷結姫が話し始めたので、俺は顔を上げて彼女の様子を見ようとした。



しかしその時、彼女が後ろに下がったかと思うとフラついてそのまま倒れてしまう。


いけない。

やはり、頭に強い衝撃をうけた影響でフラついたのだろう。こうしてはいられない。



俺は氷結姫が地面に激突する寸前に膝裏に手を差し入れ、彼女を抱え上げると、保健室へ急ぐ。



屋内に入り階段を降りている時に爽やかイケメンとぶつかりそうになってちょっと焦ったが、なんとか転ばずに済んだのだが‥


彼は『酷薄』とかなんとか言っていたが、ぶつかりそうになっただけでそこまで悪意を向けられると、なんだか気持ちまで重くなってしまう。


「重いな。」

思わず胸中から転がり出た言葉を氷結姫が拾い上げてしまう。


「ごめんなさい。」


しかし、なぜか氷結姫が謝ってしまった。



「いや、ひょ、先輩が謝る問題じゃないですから。」

ちょっと意味わからないので、そうフォローするのが精一杯だった。






ふぅ、やっと保健室に着いた。

俺は行儀悪く足で扉を開けながら保健室のおば‥‥お姉さんに話しかける。


「彼女が大変だ。早く見てくれないか。恐らく頭をぶつけた筈だ」

そう言って氷結姫を椅子に座らせると、俺は保健室を出た。聴診器を胸に当てるところとか見たい気持ちがなくはなかったけど恐らくそんなにふざけている場合じゃない。


そして、暫く経つと保健室のドアが開いた。


そちらを見ると、何故か恨みがましい目つきで氷結姫が俺を見ていた。

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