2人で下校7日目 橋本シンヤ視点
あけましておめでとうございます。
本年も宜しくお願いします。
毎日放課後に氷結姫と帰るのが日課となって7日目
「シンヤ、合コンの日程が決まったぞ。今週の日曜日だ。メンバーは俺とシンヤとレンヤともう1人。あちらは4人、年上だけど結構ルックスのレベルは高いって。」
リョウスケは約束を破る男ではないが、期待よりかなりいい仕事をしてくれたみたいだ。でも、、、
「なんで、レンヤも行くんだよ?お前、嫁いるだろ?」
俺はリョウスケじゃなくて、レンヤに抗議した。
こいつはこのクラスではリョウスケの次に仲は良いし、面白いやつなのだが無駄に顔はいいので、合コンには連れて行きたくない。
「あぁ、世界一可愛い嫁は居るな。だがしかぁし、愛人募集中だ。それに、お前もいるじゃないか?」
レンヤはまるでプレイボーイのようなことを言っているが、レンヤの嫁は2次元嫁だ。
「いや、言いたいことはわかるけど、俺には2次元嫁も3次元嫁もいないからな。」
そう、俺は彼女いない歴=年齢だからな。
「またまたぁ〜、冗談キツイぜいっ、2次元から飛び出て来たようなスーパー美少女を嫁にしたくせに」
レンヤがそんなことを言うがこれは氷結姫のことか?
「いや、氷結姫とかさすがにそれはないからな。」
俺はすぐに否定する。
彼女が初対面の俺なんぞをワザワザ選ぶ訳がないし、昔会ってたなんて展開なら、あの銀髪だし、さすがに忘れているはずがない。
「あぁ〜、そっちじゃないぜいっ。俺が言いたいのはそっちじゃないぜいっ」
そう言ってレンヤは目線を俺の左に向ける。
視線の先には葵が居る。
「あははっ、それこそねえって」
俺はそう言って無理やり笑った。
中学時代に葵のことが好きだった。しかし、葵が『俺が葵を好きなこと』を『そんなくだらないこと』呼ばわりしていたのを聞いて、俺の初恋は告白することなく無残に終わりを告げた。
葵が俺に何か言いたそうにしていたが、予想外な所から声が飛んで来たので葵が口を開くことはなかった。
「橋本、先輩がまた来てるぞ。」
そういう、委員長の後ろには毎度お馴染みの氷結姫がニコリともせずに立っていた。
相変わらず何を考えているか表情から読み取れない。
「先輩?もしかして、今日も?」
今日も彼女を送らないといけないのか?
いつになったら終わるのか?
彼女はその質問に首肯で答えた。
「‥わかりました。帰りましょう。」
だから、そう言って彼女の手を握ると彼女は俺に身体を寄せてくる。
随分落ち着かないが、これも彼女の身体に負担をかけない歩き方なんだろう。
そう納得した俺はその状態で歩き出した。
ちょうど校門を出るときだ。
「チッ、アイス様の手をこんな奴が?呪われて死ね。」
今日も氷結姫のファンクラブの1人が足音も立てずに近くに寄ってきて、氷結姫には聞こえないくらいの絶妙な音量で呪詛の言葉を口にする。
もちろん、いつも通り舌打ちも忘れてはいない。
ここの所いつもこれなんだよな。
そんなに羨ましいなら代わってあげたいのだが、、、
これは俺の罪だ。誰かに肩代わりなんてさせるわけにはいかないんだよ。
まぁ、それからは特になにもなく順調にすすんだ。
空を見上げると、まだ日の入りには早く、南国のマリンブルーのような雲ひとつない青空が頭上に広がっていた。
何だか心まで晴れ晴れとしてくる。
そして、暫く照れながら無言で歩く。
春の日差しでほんのり汗をかいているんだけど、こんなに密着したら汗臭かったりしないだろうか?
なんて考えていたら、フワリといい匂いが鼻孔をくすぐった。
すごくいい匂いがするよ。
誘惑のスキルでもかかっているように頭がボォーッとしてくる。
「どうしたの?」
氷結姫は相変わらず冷気を含んだ声でそう言うが、その表情はうかがえない。
なぜなら、彼女の顔が近すぎて俺が彼女の側に顔が向けられなかったからだ。
好きだ‥なんて言うほど彼女のことは知らないけど、それでもやっぱりドキドキしてしまうのは仕方がないよな。
「いや、そう言えば先輩。こんな所 (ファンクラブに)見られたら勘違いされて、言い訳大変そうな気がして頭が痛いんですけど」
さっきの舌打ちだってファンクラブの人だしな。
正直、ファンクラブの人が1人でも怖いのに団体さんとか来たら生きて帰れる気がしない。
「えぇ、ちゃんとお話ししてますから心配しなくても大丈夫ですよ。」
ふぁっ、なんで耳元で喋るんだよ。
…氷結姫がわざわざファンクラブに話をしてくれたのか?
とにかく、彼女には迷惑をかけ通しだ。
一度ちゃんと謝った方がいい。
そうじゃないと、何かスッキリしないしな。
「ところで俺もこの7日間ずっと考えていた話があるんだけど」
俺はあらためて彼女に向き直り、話を切り出した。
「どうしたんですか?」
氷結姫は冷たい声で不機嫌そうに問いかける?
うわぁ〜、怖いな。
逃げちゃダメだ。
「ずっと考えてたんだけど、改めて言うな。ごめんなさい」
俺は彼女から離れて向き直ると、頭を下げた。
「えっ?‥‥‥嘘‥‥?」
すると、小声で何か呟いた彼女は踵を返して走り去ってしまった。
「あれ?そっちは学校だけど、、」
俺の声が届く位置にはもう誰もおらず、俺は独り言のように呟いた。




