氷結姫との日課
別作品の『美少女達の僕への評価は五つ星』も宜しくです。
「はぁ、はぁ、‥帰ろ。」
神埼先輩が後輩である俺たちの教室の中にまで遠慮なくズカズカ入ってくる。
そして、目の前まで歩いて来ると息を弾ませながらそう口にした。
神埼先輩はいつも通り、帰りのHRが終わったらすぐに迎えに来るんだよな。
先輩の居る2年生の教室は、1年生である俺たちより1つ上の階の2階にある。
それに、神埼先輩の居る特進クラスは俺たち普通科クラスとは棟自体が離れているので、きっとHRが終わると急いでこちらに来たのだろう。
急がないと俺が逃げるとでも思っているのか?
俺ってばそこまで薄情な奴ではないつもりなんだが。
神埼先輩の姿をあらためてマジマジと見てみる。
髪はホントに俺と同じ素材で出来ているのかすら怪しいくらい綺麗な銀髪。
そして、その髪一本一本が空気を含んでいるかのようにサラサラしているので思わず触りたくなってしまう。
また、顔は可愛いというよりは美人顔で非公式ながらファンクラブなんてものもある。
但し、神埼先輩がアイドル然としているかといえばそんな事はなく、どちらかと言えば愛想の悪いタイプだ。
それに、彼女はその容姿や口調や態度から『氷結姫』なんていう厨二的な渾名が囁かれていのだ。
ちなみに神埼先輩は類稀なる容姿だけでなく、勉強は出来るし、某有名財閥のお嬢様だし、立ち振る舞いも凄く洗練されていて天は二物を与えずどころか欠点を探す方が難しい女の子だった。
いわゆる高嶺の花ってやつになるのだろう。
チート美少女と呼んでしまってもいいかもしれない。
そのせいなのか毎日のように告白を受けている。
しかし、いつも答えは決まって『御免なさい、絶対に無理』という素っ気ないものらしいのだ。
そんな返事だから彼氏や許婚がいるかといえばそんな噂すらないのだから不思議だ。
いや、厳密に言うとそれはウソだ。
最近、彼女と毎日一緒に帰る人物がおり、そいつがもしかして彼氏ではないかという疑いをかけられているんだよな。
容疑者は‥‥俺だ。
まぁ、学校一の美少女、神埼先輩が毎日迎えに来て一緒に下校するという事実に最初はみな驚いていたものの、『別に付き合っていない』という俺の話を信じてくれたようで騒ぎは沈静化している。
いや、それもウソなんだよな。
信じてくれたのは俺の周りの数人の人間だけだった。ほとんどの人は俺と神埼先輩が付き合っていると勘違いしているんだから困ったものだ。
彼女とは元々接点もないし、釣り合ってもいないんだからそんなことになる筈がないってのにホントにバカだな。いや、単に無責任に面白がってるだけか?
「はい、先輩、帰りましょうか?」
俺が手を差し出すと、彼女はなんのためらいもなく俺の手を握った。
そう、この数日なぜか氷結姫と手を繋いで一緒に帰っている。
ただ、身体をピッタリ寄せてくるのは勘弁してほしい。なんとも言えなく良い香りがしてリアクションに困ってしまう。
それに胸が当たっているのだけど俺が年下だから、からかってるのだろうか?
神埼先輩と触れている部分をなるべく意識しないようにしないと、前屈みになって歩けなくなってしまいそうだ。
そして、翌日からは変態の烙印を押されて学校中の人間に白い目で見られてしまうだろう。
俺はまだ社会的には死にたくはないんだけど‥‥
「チッ、アイス様の尊い手をこんな奴が?呪われてタンスの角に足の小指をぶつけて死ね。」
今日も神埼先輩のファンクラブの1人が足音も立てずに近寄ってきて、先輩には聞こえないくらいの絶妙な音量で呪詛の言葉を口にする。
もちろん、いつも通り舌打ちも忘れてはいない。
ちなみに、何故かファンクラブの人達は皆、先輩のことをアイス様って呼ぶ。
クラスメイトにもファンクラブの奴が居るので聞いてみたのだが、氷結姫=アイスプリンセスで、省略してアイス様らしい。
‥完全にプリンセスが忘れ去られているな。
まぁ、ともかく今日も神埼先輩と仲良く手を繋いで彼女の豪邸ま送り届ける羽目になるのだった。