なないろしょーがっこー 〜その1 でんとう〜
わたしは我慢していた。ただ、時間が過ぎるのを切に願う。5分ってこんなにも長いものだっけ、とわたしは心の底から思った。
周囲の連中も今にも我慢の糸が切れそうになりながらも、ギリギリで踏ん張っているようだった。彼らの表情を見れば一目瞭然である。薄氷が今にも割れんばかりの緊張感とはまさにこのことだろう、と思った。
右前に視線を移すと、一回り大きい連中は顔が強張っているのが伺えた。わたしたちとは別の緊張感に襲われているようだ。
それなりに大きいこの空間で全員の視線が一点に集まっていた。こんな状況は一流アーティストのライブで見られるぐらいだと思い込んでいた。しかし、違う。今この瞬間、ここがその舞台だ。
何分経ったのだろう。腕時計で時間を確認すると先ほどから2分も経っていない。もう勘弁してくれ。お願いだ。早く。早くーーーー
「これで終わります」
視線の集められた先にいた人物がそう告げると空間の緊張の糸が一瞬だけ緩んだ。後で考えるとそれが敗因だった。
視線を集めていた人物は一歩後ろに下がろうとした。すると次の瞬間、カサッという音をたててその人物の頭部から黒い物体が床に落ちた。
もうだめだ。終わりだ。
「ーーーー」
そして、体育館に笑いの渦が発生した。
これがうちの学校最大の逸話、「校長ズラずり落ち事件」である。