神の下部である三大悪魔
僕らは急いで学校の地下迷宮から脱出した。僕は地理的なことを全然覚えられないから、それほど好きでもないのに、先導してくれた我空に感謝の念を送りたいとすら思っている。
「ちっ、俺としたことが満の奴にいいなりになったぜ」
「深君、強引でごめん。緊急事態なんだよ。尻益先生の犬は本当に危険なんだ」
「ああ! たかが犬で騒ぐなよ」
まあ、普通はそう思うよね。だがら、証拠のVTRを見せる。社会に出してはいけない秘蔵の映像だけどね。
「スマホにある動画見て!」
「おいおい」
我空はドン引きしながら口を漏らす。この惨状を理解できるだろうか?
場所は軍事兵器を試し打ちするところ。場所はどこの国かはいわない。尻益先生と旅行といって軍人しか入出できないところにいった時だよ。あの頃は僕も馬鹿だった。今も馬鹿だけどね。このストーリー自体もね。
「おいおい、あの犬、戦車に囲まれているぜ。おい、砲撃されてんぞ。で、生きているのか? で、反撃しているじゃねえか! なんだ? 口から光がでているぞ! なんだ? 戦車隊壊滅! おっ? 空から爆弾を投下か? まったく効いていねえ」
『満よ、これって犬かい?』
「エア子さん、見た目が犬ってだけだよ。あれは怪物。昔は神とよばれていたよ」
「なんだ? 新しい映画の宣伝画像じゃないのか?」
だったらいいのにね。現実です。
「あの時の小競り合いでの和解交渉は高級牛を一頭で取引に応じてくれたよ。何語だかわからないけど、尻益先生が交渉して通訳するにはね」
「お前はどこの国に乱入してんだよ!」
『おやおや、満も活動的なことをしているんだな』
「先生が海外旅行に行くからって付いて行ったらこの様だよ。ちなみに、あの牛はフラダンス一匹で食い殺しました。野生丸出しで牛を生きたまま食っている様も録画してあるけど見る?」
「グロそうだが興味あるな」
他、エア子さんとωは遠慮しました。普通そうだよね。
「なんだか、スゲエものみたな。あれを捕まえろと」
我空は興奮を抑えられないといった感じだ。
「師団クラスでも手に負えないから、僕らには無理だね」
実家の古文書では、戦争で必ず勝ちたければ、この犬を味方につければいい。って書いてあるし。
『そうかい? 満は本気でいるじゃないか』
本気? 僕がどうにかするしかないじゃないか。トホホ。
「ああ、僕は幼少からフラダンスになれているからね。僕だけでも頑張らないとどうにもならないよ」
脆弱と呼ばれる僕がなんで命がけにならないといけないと? だけど、我空とωさんが加わったところで、この二人は殺されるか、食われる恐れがある。普段は大人しい犬なので興奮させないで連れて帰る。それには僕がうってつけ。だと思う。
「ところで、その犬をどうやって探すんだ? 騒ぎになってから、いましたじゃ遅いぞ」
「それなんだよね。これから、お肉屋さんに頼んで釣ることにするよ。前の、トライアスロンもとい、焼き肉を食う会で食事したお店なら緊急事態のフランダンス用のお肉を用意できるだろうしね」
「よし! 俺もいくぜ! こんな面白そうな事件は普通味わえないからな」
「やん★ 私も行く。ヒロインは安全な場所で守られているだけじゃ、務まらないゾ☆」
あんまり、関わらないで欲しいが、断って引き下がるようなキャラでないからね……この二人は。
『アタシもいくぞ! 肉体がないからなんのダメージも心配ないしな』
エア子さん、便利だな。でも、あまり役にも立たないような。
「妾も行くぞい!」
タヌキ到来!
「どわっ!」
いつの間にかタヌキさんがいる。僕らの様子でも見に来たのだろうか。
「不思議かの? なーに、あの駄犬とは我仙洞家の争いの歴史でもあるのじゃ。あの、糞犬にどれだけ被害を受けたことか、よって、討伐するのじゃ。なーに兵隊もそろっておる」
「タヌキさん。あまり武力で対抗しないほうがいいよ。軍隊お手上げの生物だから」
「わかっておるわい。だから、居場所だけはつけてある。様子をみていつ攻勢に回るかじゃの。今のところは人災なしじゃ」
「根回しがいいですね。いつからフランダンスが放置されているのに気づきました?」
「な~にを言っておる。地下迷宮の会話など筒抜けじゃ。聞いておったのじゃ。のんびりしている時ではないぞい。いくぞい。」
僕らは、校門を出ようとする。そこに立ちはだかる人影にぶつかる。こんな時に誰だよ。
「ごめんなさい。邪魔をしちゃって。でも、神の領域には近づかせないの」
桃萌さんかよ。なんだかんだで今までは協力的な娘なんだけど。今回は邪魔するの?
「仕方がないのよ。神と呼ばれるフラダンス様の御前にやすやすと近づけないのが私の務めだから」
「おい、満。家の妹は中二でもなったのか?」
「知らないよ、深君。君の妹でしょ! だけど、映像見たでしょ。ギャグでこんなことしないよ。本気でフラダンスの下部なんだよ」
「厳密には馬鹿犬の世話係だけどね」
ヤレヤレといった感じである。神と呼ばれる生物に随分と辛辣だね。
「例え、規格外だろうと、我妹ながら犬に忠誠とは笑わせる。いいだろう、兄より優れた妹は存在しない」
と、暴力行使に移った我空だが、軽くひねり潰される。
「ぐおおおおお!」
「桃萌さんの戦闘力しらないの?」
「ぐぬぬぬ、さすが、神に仕える三悪魔と呼ばれるだけはあるのう」
そんな、通り名があったの? 桃萌さん。
「じゃが、ゆけい! 満。主だけがこの状況を打破できる」
「はいはい」
僕は嫌々ながら、桃萌さんに近づく。この娘は苦手なんだよね。
「あの~桃萌さん。ここを通して」
僕は、恐る恐る頼む。これで、すんなり通してくれるのなら立ちはだかりはしない。
「だったら、好きっていいなさいよ!」
「は?」
「好きって、告白しなさいよ」
なんで? 困ったものである。言葉なんて粕みたいなものである。実用的ではない。ここは、愛★の戦士に任せる。
「ω先生、お願いします」
「え? どういうこと? でも、頑張っちゃうかな☆」
で、ωさんは大胆不敵にも正面から余裕しゃくしゃくに桃萌さんに近づく。
「ち、ちょっと」
桃萌さん、あなたはビッチの恐ろしさをしらない。ビッチに恐れているのものはない。例え、師団クラスの軍勢だって愛の力で制圧するんだゾ☆
「えい★」
桃萌さんとωさんの単純な戦闘力は桃萌さんが圧倒的に上だろうが強引さではωさんが上。適材適所、ωさんはレズ、バイ、ユリなんぞお構いなし。ビッチは人類、いや世界を愛で包む。その抱擁を振り払えないでいる桃萌さんがいる。
「ちょっと! どきなさいよ」
「ダ~メ☆」
そして、ωさんはドサクサに紛れてキスやら、魔手やら、かまそうとしている。
「ちょっとー!」
「む、我らは真に任せて進むとするかの」
僕らは、ハートマークのぼかしで消えかかっている桃萌さんを放っておいて、フランダンスの犬に向かうとした。
「覚えおきなさいよ! 満! あなたも辱めてやるんだから!」
もはや、先輩とすら呼ばないので、あとあと、恐ろしい目に合うだろう。だが、今は彼女をスルーするしかない。
問題を解決するには問題を起こして対処をするしかないのである。僕は後の問題に戦慄を感じるのであった。




