表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/88

ブドさんて何者?

前話の分割1です。


『そもそも、ブドさんって真西(まにし)葡萄(ぶどう)って名前だろ。そのあだ名のネーミングはどこからだい?』

 

 何処にいるのか、分からないけど、無色透明のエア子さんは僕の隣で話をかけて来たように感じた。

 

「え?」

 

 もとより、すっとぼけている僕だけど、エア子さんが、唐突に言うので間の抜けた返事をする。そういえば、ブドさんのことは、教えていなかったかな。

 仕方なしと、僕ズボンのポケットに手を突っ込む。

 

『なんだい?』

 

 とりあえず、忘れ安い僕は秘密のメモ帳をだす。

 

 えっと、どこにメモしたかな。パラパラとページをめくる。

 

『その汚い手帳をだしてどうするつもりだい? うわっ、ごにょごにょの文字ででわからないな。なに、そのミミズが這いずった様な字は』

 

 うるさいな、人のプライバシーまで覗かないでよ。僕は調べているの!

 

(みちる)の悪筆に対して仕付けしようかと思ったけど……汚いねぇ。字も存在も。それに、このメモ帳は古いな』

 

 僕の存在を含めて侮蔑しているのかな? まあ、汚物人間を自覚しているからいいけどね。

 

「三年は使ったかな……」

 

『ちょっとしたメモでないのかい? まだ、頼るなら整理をしな。わかるのかそれ?』

 

「なんとか」

 

『なんとかってねぇ……呆れるな。なになにブドさんの本名……って見出し』

 

「読まないで!」

 

 メモを読まないと人の名を忘れることがある。そもそも、本名よりブドさんを連呼しているのだから、本名を忘れてもしょうがないよね? ね? ダメか……。

 前にも言ったけど僕は人の名前を覚えられない。だけど、呼びやすい名前なら別だ。今朝、僕に傘を投げつけたル(ルヒュール)とかは一例だね。本名は知らない。

 

 僕は人間も感覚で覚えるからな。ちゃんと名前を覚えられない。なんというか人との関わりが少ないから感覚とニュアンスで人を判別して生きている。

 

『満……本当に呆れるぞ。ここずっと葡萄さんに粘着していたのは見ていたけどさ、本名を忘れるのかい?』

 

「いや、確認だよ。ブドさんはブドさんなんだよ!」

 

『屁理屈すらなってないぞ。もう少しでいいからしっかりしな』

 

 しまった!

 

 エア子さんとのやりとりで、どこまで悟られたのか分からないけど、ブドさんは自分の漏らした言葉を驚いた表情で僕を凝視している。

 


 ジー。ジーと。ヤダ照れちゃう。 

 


「お前……凄いな! 俺の名すらいまだに自信もって言えないほど物事を覚えていないんだな」

   

 推理されたのかな。凄いって何? それより、取り繕わないと。最愛の友人の本名も言えない理由で絶縁されたくない。

 

「い、いや、違いますよ。本当に違いますよ」

 

 僕は慌てる。ブドさんに嫌われるのは嫌だ。

 

「別にかまわないけどな。お前はこういう奴だから。むしろ、満らしいわ。驚きはするが」

 

 良かったーー! セーフ! さすがにブドさんは度量が深い。つうか、たぶん適当に扱われているような……。でもいい。でもいい。一生ついてきます。エア子さんは付いて来ないでね。

 

『ブドさんは満に甘いのかい?』

 

「そうですけど、何か?」

 

『否定はしないのな、呆れたねぇ。友情は馴れ合いじゃないよ』

 

「いいじゃん。エア子さんは厳しすぎ」

 

『厳しいのかい? あたしは満に対して過保護に世話しているけどな』

 

「愛の鞭に近いでしょ?」

 

『そうだな、満にはビシビシと攻めなきゃ育たないと思っているからね』

 

「なんでそうやって僕を鍛え上げることに熱心なの?」

 

『そうだねぇ~。生き甲斐だからかな』


 透明人間に生命があるのか知らないけど。

 

「生き甲斐って……。僕はエア子さんに実体があれば関わりを持たないってことを覚えていてよ」

 

 僕は僕なりにエア子さんには誰もいないのが心配で付き合っている。自称ボッチがすることではないけどね。

 

 相手がいないと寂しい、例え喧嘩する仲だとしてもだ。僕は人の死にこそ触れていないが、決別はいくらでも経験がある。馬鹿だし、心が弱いからね。

 

 高校からは、ブドさん以外に接しないように心がけている。

 

 馬鹿で臆病だから一人ぼっち。中学で不貞腐れていたところをブドさんが相手をしてくれなければ引きこもりをしていただろう。学校をサボれば、実家で過酷な修行が待っていたとしても、逃げただろう。

 

 だから、根気よく相手をしてくれたブドさんを勝手に一番の友人にした。思えば、ブドさんの様に気遣いができる人間になりたかった。

 

『まぁ、満には感謝しているよ。あたし自身が本来何者であるかわからない、実体のない意識だけの存在。日々の出来事が満としか共有できないからな。だからこそ、満に構うのさ』

 

 そう、面倒見るのはどちらかというと逆になっているけどね。四六時中、一緒だから疲れるけどね。プライベートとか………。

 

「いつも一緒とか、まんまじゃん。相手ができるのがこの世で僕しかいないから……僕だって拒みはしないけど。だけどね、最近思うけど、誰もエア子さんには気づいてもらえないだけで、僕がエア子さんを連呼するからエア子さんの名だけは皆を知っているし、皆もエア子さんを意識し始めているかのように最近感じる」

 

 エア子さんは何かしらの影響を皆に植え付けている気がする。架空人物だとしても。

 ブドさんだって、僕の彼女と勘違いしている。


 


 言葉だけでもエア子さんは存在する。

 


 実体がなくても。見えなくても。そして、皆がエア子さんを認識してくれたら、僕は用済みだと思う。長く付き合えば、実体がない存在でもいずれ決別する時が来るように思える。そういう思いは繰り返したくない。

 

 エア子さんを邪魔扱いしている僕だけど。 

 

『そこが悩みなんだよな……。アタシは今のところ満だけで充分なのさ。だけど、皆に気づいてもらいたいねぇ。でも、今はやっぱり満の面倒だけでいいのさ』

 

 僕の気も知れず……。孤独を愛し孤独を恐れる僕に対して、自由なコメントだ。

「普通じゃないことを意識して」

『もしかして、恥ずかしいのかい? 何故さ?』

 


 わからない。

 


 ついついブドさんの前で、喋りすぎた。ドン引きされていないかな? 

 

 ジー。ジー。見られている。ちょっと快感。そんな変態チックに浸っている僕をみて軽蔑するだろうか。

 


だけど以外にも拍手がきた。なんで? ブドさんから拍手だ。

 

「くうぅぅぅぅぅぅ、満が俺以外で饒舌になるとは感動した! いつも、俺以外とまともに会話できずにいるのに。今日のあいさつはなんだ? 『み、みみみみみ皆、ご機嫌よう、おは、去らば!』とか」

 

 しかたないじゃん。エア子さんに挨拶はしっかりやれと強要されているんだから。ものまねしないで!

 

「しかも、相変わらず教室間違えているしな……ブドさんどこ~? ブドさんどこ~? って迷子か!」

 

「それは、ごめん!」

 

 でも、今のやりとり、ブドさんから見たら僕は独り言で対話しているように見えるんだよ? マジで。 それとも、ブドさんなら例外的にエア子さんを知覚できるのかな?

 

「なぁ、そのエア子さんに会いてぇわ。孤独で引っ込み思案な満をよろしくしてくれて、感謝したい」

 

「で、出来ればね」

 

「お前、なんだよ。俺との友情だろ? 友の恩人に感謝くらい伝えたい」

 

 真剣に怒っているし真摯な態度を感じる……。目の前というか近くというか特定できないけど。確かにいるんです。僕の世界では……って説明できるか?

 

『満、満!』

 

「なんだい? エア子さん」

 

『代弁ぐらいできるだろ? あたしは満の友達で、葡萄さんが満の友達でいることが嬉しい。あたしともよろしくな! って』

 

 僕はそのままにエア子さんの返事を伝える。ブドさんには理解できるだろうか?

 

「そうか、友達なのか。う~ん、2次元中毒で自閉症の満をここまで変えたエア子さんに会いたいぜ! どんなにいい女だろう?」

 

「ブドさん、僕の性癖を言わないで……」

 

 考えによってエア子さんは2次元というかボイスのみなので2・5次元なんだけどね。僕オンリーしか再生しないけど。だからといって興奮するわけではない。いや、たまに興奮するけどね!

 

「と、兎に角……ブドさんの気持ちはエア子さんに届いているよ。事情があるんだ」

 

「そうか、お前だって色々と抱えているだろうからな。いいぜ、いつか話してくれよな」

 

 なんか、いい感じで終わるかにみえた。


違和感がありましたら教えてください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ