お前には負けたくない
僕は修行をおえて日常へと学校に通った。僕をお兄さんと呼ぶ人間もいなくなり平穏を取り戻したようである。平穏、平和は最高です。
桃萌さんが修行を指導してくれたおかげであるのだが、最後にブドさんに告白するというミッションがおきた。僕は今でもブドさんが大好きであるがフラれている。なので、再挑戦するのは正直、心苦しい。
しかし、桃萌さんの目的は僕がモテるのではなくてモテなくしようとしている。何それ? かつて、ブドさんが好きだったお鼻を弄る珍妙な男がいた。そいつから、一人の人間が及ぼす力というやつを僕が無理矢理引き継がされたのである。一人の人間が及ぼす力はなんだかモテるんだよね。誰からも熱烈にお兄ちゃん扱いされたんだけどね。その力をコントロールできるのか最終的な仕上げだろう。そもそも、ブドさんとお鼻弄りの男との関係はどうなったかわからず、僕に対するブドさんの気持ちは変わるのであろうかわからない。
簡単に言うと、ブドさんに愛を拒絶されると修行の成果達成である。酷い話です。本当に。マジで。泣いちゃうよ。
『おい、満。重苦しい空気をだしているな。リラックスだぞ』
登校中、いつもの調子で実態なしのエア子さんが気さくに話しかける。まあ、少しは遠慮してくれているかもだけど。だから、甘える。
「ねえ? 聞いてもいい」
僕はエア子さんの声の方向へと何もない空間へと向かって話しかける。自分が変わった行動と思うこともなくなった。
「なんだい?」
「ブドさんは友達でいいんだ。だけど、異性として好きなのは確かだよ。その、ブドさんは、僕なりの解釈だと嫌いじゃないけど、恋愛の対象ではない。そして、僕には負けたくないらしい」
この、ダメ人間の僕と張り合ってもしょうがないのにね。もっと他にライバル視する人間いるんじゃないかなとは思う。
『そうだな、満とブドさんは関係が特殊だからな。だけど、思わないかい? アタシと満との関係だってかなりの変わり種だろ?』
ボッチ人間の僕と肉体はなくて声だけが僕に届く正体不明のエア子さん。変な関係だよね。だけど、いまはそれほど辛くないんだよね。環境に慣れてきたというのかな。
『ブドさんは満に口説かれるのが嫌で、そして対等な友達としていてほしいのさ』
「そうなのかな、今回、僕は修行の成果をブドさんにあてつける」
『まあ、フラれたら満の能力が影響されていないってことだな。桃萌も満が好きだからな、こんなことさせたくないだろうが、満に一番影響されやすいのはやっぱりブドさんだろうからな。フラれるのはわかっていてもあてつけるのさ』
「なんだか、酷い話だね。フラれるために行動するって。僕に対しても、ブドさんに対しても失礼じゃない」
『……そうだな』
そこから、沈黙が始まる。学校に到着するまで体が凄く重く感じた。
休憩時間、僕はブドさんに告げた。かなり気まずいので逃げ出したかったけどね。
「ブドさん話がある。昼休み、二年の屋上までいいかな?」
「あん? この場じゃダメなのかよ? まあ、いいけどな」
ブドさんは相変わらずの感じでかったるそうに返してくる。あまり、気にもしてなさそうだ。もともと、この人は軽くも重くもないというバランスのいい性格だからね。だから、ぼくは好きだし、皆からも人気がある。
そして、昼休みになった。二年の棟の屋上だ。
一年の浅井澪の事件時と同じで二年の棟も屋上は封鎖されていた。僕はタヌキさんこと仙洞会長に訳をいってカギをもらっていた。本当は教師に頼むことだけど、断れそうだし、タヌキさんは学校内のコネクションがあるのでなんでも融通がきく。
一言、『口惜しや~』ですみ、カギを貸してもらうことになる。タヌキさんは最近は僕に対して直情すぎ。
で、二年の屋上も開放しないともったいないぐらいの緑豊かな空中庭園で泉や植物が風光明媚に彩られている。
確かに、告白するにはいい場所なんだろうけどな。僕は心の中で独り言ちる。
「あの、ブドさん」
ブドさんは僕を面倒くさそうに見ては目を外して、地上へと目をうつす。屋上の景観でなくて。
「要件はわかっているって。お前も俺も苦労だな。こんな意味のない告白ごっこするなんてな」
「殆ど僕のせいなんだ。ごめんなさい」
「いや、お前のせいでもないぜ。修行のことは知っている。だけど、あの人には人に及ぼす力で恋に落ちていたわけじゃないぜ」
僕は驚くが質問する。
「あの、鼻血男が本気で好きだったの?」
「あれは、能力の影響がおおきかったな。でも、嫌いだったわけではない。それに俺は多情だ。他に好きな奴はいる」
「そんな……」
ショックではないが、一番は僕であってほしいとは思う。多面性なブドさんを知っているのは僕だけであってほしい。
「俺はお前たちと同じ穴の貉だ。どこかで、平穏より刺激を求めている。だから、地味な人間なのに意表を突く満が好きだったんだな。だけど、俺はおまえに負けたくない」
「僕に勝てたと思う時なんていっぱいあるでしょ?」
そもそも、僕は誰にでも勝てない、最弱人間だってしっているでしょ。ブドさん。
「それは、俺の心が決めることだ。お前はどこまでも友達であってほしいんだよ」
「そう……」
残念だ。でも、心のどこかで安堵する僕がいる。ブドさんとは親友でいたいのも嘘ではない。
「何度でも、フラれるね僕は」
「お前は結構モテるんだから、一番いい女狙えよ! そして、俺に紹介しろ」
無茶苦茶なことを言ってくれる。まあ、ブドさんらしいけどね。
「それって横取りする気?」
「そうだな、満に勝ったって気がする」
これが、僕に対する負けたくないとは違うと思うけど、これも半分は本気なんだよね? 恐ろしい人だな。でも、なんだか悪く思えないのがブドさんなんだよね。
「ぷっ。僕から彼女なんてできないけど、ブドさんってやっぱり同性愛者?」
「へっ、俺は人間全般が好きなんだよ。だけど、例外にそうは思わない友達と思えるのがお前だな。どうだ? 納得したか? ハハハ」
女だけど、男前にカッコよく言ってくれる。
「そうか、そうなんだね。ハハハ」
お互いにお腹を押さえて笑いあった。これが、一番のブドさんとの特別な関係かもしれない。完全に理解していないが心の霞が晴れていくような気がする。
「ところで、修行の成果はでたようだな。俺はいつも通りの満としかみえない」
「そうだね。こんな、茶番意味なかったね」
「まあ、今日は特別にお前をいつも以上に構ってやった。教室に戻ろうぜ」
そして、僕は屋上を後にする。すると、顛末を覗いていたエア子さんから声をかけられた。
『満、よかったな。これで、いつも通りブドさんと仲良くできるじゃないか』
「エア子さん。なんだか出歯亀みたいだよ。性格がおばさんなんだから」
『おば、おばさん! コラ! 満。アタシをなんだと思っているのかい』
実体のないエア子さん。おばさん扱いすると怒られる。もし、仮に肉体があったとしたら少し年上のお姉さんに見えるのかな。
そして、僕たちの関係はどうなるのかと考え込む。ブドさんとの特別な関係。そして、エア子さんは更に変わった関係。僕には恋愛よりこういった日常のほうがあっているような気がする。
それが、いつまで続くのかわからないけど、これが僕の日常である。この幸せを噛みしめることが一番大事なのかもしれない。
再びボッチになることはあるだろうけど、今もボッチだと言わせてもらうよ。そして、最高の環境だと。
物語はまだ、続く。




