限界のない一個体が及ぼす力
一日、三話投稿(^_^;)
まあ、実験で。
で、鼻弄り男は僕に何をしたかったのだろうか? ブドさんが惚れる要素がみうけられない、ただの変態だとしか思えない。
呆然とする僕がつったっている中、女の子が近づいてくる。桃萌さんだ。
「満先輩もいよいよヘタレでいられなくなるようね。このままでいて欲しかったのに。独占したいから」
「どういうことなの?」
桃萌さんはクスっと笑うと意地悪く無視をする。
「ねえ! どういうこと?」
桃萌さんが言った、僕がヘタレではいられないってなんだか怖い。僕はダメ人間としているのが心落ち着くのだ。
「私は都合のいい女ではないわ。考えなさい」
と言うので僕なりに考えてみる。が、わからない。さっきの鼻弄り男と関係があるのだろうか? みんなの兄さんとか言ってたよね。それを、託すとかわけわからないことを言ってたよね。
「お兄さん」
「は?」
急に何を言い出すんだ? この娘は。よくわからない。
「お兄さん、私とデートをしてくれたら教えてあげる」
「本来は嫌だけど、君が僕に降りかかる災いを教えてくれるならいいよ。っていうか、僕は君の先輩になるけどさ、君のお兄さんは深君でしょ」
「フフフ、じゃあ、満って呼んでいい?」
「勘弁してください」
「あら、でも、わりとあなたの事を呼び捨てする人間多いじゃない」
「それでも、やめて下さい。怖いから」
「ふーん。私は怖いんだ? しょうがないわね。お兄さんで今日はいきましょう」
それも、勘弁して欲しいけど、拒否して状況が悪化するのも困るので従うことにする。
「さあ、行きましょう。兄さん」
この娘パワーがあるから引っ張られると手が引きちぎられそうなんですけど。抵抗しないで一歩前にでて歩く。性に合わないけどね。
「お兄さんがエスコートしてくれるなんて、どこに連れてってくれるのかしら」
そうなんだよ。僕が前にでたらそういうことになる。デートといってもこれといってやりたいことないし。
「ゲ、ゲーセンでもいく?」
「嫌」
しょうがないから、食事にするかな。よし、提案しよう。
「近くのファミレスでも行こうか?」
「ファミレスなんて嫌、私が知っているレストランにしましょう」
結局、強引に決められたよ。レストランに行く前に桃萌さんが着替えたいと言うので途中で我空家による。
今回、初めて我空兄妹の家を見るがいたって普通の御宅です。ところで学生同士がファミレスではなく、ふつうにレストランに行くなどと金銭的に大丈夫なのかな? 僕は怖くなって近くのコンビニでATMから一万円を引き落とす。だ、大事な生活費が……。
「ちょっと、どこに行っているのよ」
「ごめん、ごめん。僕は持ち合わせないから待ち時間の間にATMによっていたんだよ」
「情けないわね~。カードをもってないのかしら?」
「学生がクレジットなんてもっていないでしょ? それにしても君、えらく気合が入っているね」
彼女は社交界でもいきそうなくらいのドレスを着ている。僕は未だに学生服のままだよ。
「当然でしょ。どこに行くと思っているの?」
いや、告げられてないからわからないよ。
「もしかして、高級料理店?」
「そうでもないわ。ただ、その恰好だとお兄さん恥をかくわよ」
「その呼び方、やめて」
とりあえず、仮住まいのボロアパートではなく、実家に行けば自分のスーツが何着かあるので取りに行くことにした。
実家についたけど、とりあえず誰もいないのが助かった。身内と遭遇すると何がおきるかわかったもんじゃない。
とりあえず、ぜんぜん身体が成長していない僕は古いスーツを問題なく着こなせた。
「おまたせ、桃萌さん」
「さほど、待っていないわよ。それにしても、兄さんの実家は物凄い豪邸ね」
うらやましそうに彼女は言ってくる。家自体は凄いんだけど、そんなにうらやましがれるほど自宅の良さを堪能したことがない。
「兎に角行こうか」
で、軽く歩けばつくのかなと思っていたのだけど、タクシーとか利用した方がいいんじゃないのかなってくらい時間をかけて目的地にたどり着く。街の郊外にあるレストラン。小洒落た程度ではすまず、もう品性とかが別格に感じらせる学生は出て行けとでも言われそうな立派な佇まい。もう、精神的に吐しゃ物が出そうだよ。
「こ、こんなお店が、こんな辺鄙な田舎にあるとはね」
「まあ、兄さんは馬鹿だから知らなかったのでしょうけど、貴方の家で経営しているレストランでしょ」
また、身内絡みか! これは罠?
「そうよ。いきましょう」
僕の心の中見透かしている桃萌さんはお店へと行くのでしかたなく付いて行く。
そして、レストランにはいると僕はいきなり捉まる。僕が何をしたのよ。
「坊ちゃまではないですか? 私は支配人の戸川です。お忘れですか?」
「うん、知らない」
「もう、三年前ですからね。随分とおおき……」
わかっているよ。僕は成長してないよ。それにしても、この店に来たことがあるんだね。驚き。
「失礼ながらオーナーには連絡させてもらいました」
「え? あの、鬼婆を呼ばなくていいよ。なんの関係性があるの?」
「よう! 馬鹿息子。また、違う女連れてきたな」
もういるし。失言聞かれているし。
「成り行きでしかたないんだよ」
「だろうな。お前から進んで女を口説くとかできないだろうな」
「口説かれているわけでもないよ」
「じゃあ、何しに来たんだ?」
「まあ、色々と」
「ふーん。せいぜい頑張ることだな。お前はテーブルマナーを知らないからな。あと、手持ちが足りなくても受け付けんぞ」
そう言って、母さんは去った。容赦ないな。
それで、フォークとナイフすらどちらの手で持つのかわからない僕だけどなんとか桃萌さんに指導してもらっておいしく食事をとる。
「ところで、僕がヘタレでいられなくなるってどういうこと?」
「そうね、お兄さん」
「だから、それはやめて」
「なんで、私がそう呼ぶと思う?」
「?」
わけわからないな。馬鹿でもわかるように説明してください。
「影響されたからよ」
「僕に?」
僕は兄さんと呼べとか言ってないよ。
「貴方、皆の兄さんになれと託されたでしょ?」
「あの、お鼻さんが言ってたね」
「あの人間はただの変人よ。間違いなくね。ただ、偉人やヒーローになれる素質を持っているわ」
「あんなのに?」
鼻をほじりまくりで大出血している男が?
「生まれ持って人と異質な人間はそういうものよ。それは満先輩も同じだけどね」
「同列視しないで」
「あなた、ボッチのくせに大人気じゃない。矛盾しているわよね。そういうところが凡人との違いなのよ」
まあ、ボッチのわりに絡まれやすいのは認めるけど。僕に特別なことなんて何一つないんだけど。
「あの、お鼻の人もね。人を引き付ける不思議な魅力があるのよ。それを真西先輩が気付かないまま惚れてしまったのね。あの男が先頭にたってなにかしでかしたら世の中がそいつに傾いてしまうのよ。一人の人間が及ぼす力ってやつね」
「そんなに大物なの?」
「でも、資質を活かせないで気付かなければそれで終わり。あの男は満先輩に能力を託したじゃない」
「え? 口で言っただけじゃない?」
「馬鹿ね、言葉の力っていうのは案外強力なのよ。だから、私が満先輩にお兄さんと言ったのも忠告で、そのうちに皆があなたの事をお兄さん、お兄さんっていって群がってくるわよ。亡者のようにね」
僕は唾を飲む。それでも足りないからノンアルコールのワインではないが見た目は似ているジュースを飲み干す。
「お、お兄ちゃんハザード」
「馬鹿、言ってないの。そんなこと貴方は望まないでしょ?」
「うん」
「ということで、明日から力を押さえる特訓するわよ。こんなこと、付き合うのは私だけだから感謝しなさい」
半分、なにが、なにやらでわからないが、なにか途轍もないことを未然に防いでくれるから感謝しないとな。
「ホント、私だけなんだからね」
なんだか、押しづけがましいが強力な味方ができて助かるよ。でも、特訓ってなにをするんだろう?
桃萌さんに至ってはフフフと怪しげに僕を舐めるかのように挑発的な視線を送るんだけど。恐ろしいな。
まあ、頑張るか。ちなみに食事はなんとか美味しくいただいて、お代も割り勘というより、ちょっと奢ってもらったけどなんとかなった。
でも、これはお返ししないといけない口実になるんだけどね。トホホ。
まだ、諦めてはいません。




