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雄叫びばかり 我空復活!

 今、保健室いるよ。一人の重体者なのかわからないが体育館騒動を起こした挙句に気絶した馬鹿を看病しにきた。とういうより、僕も捻挫して同室にいるんだけどね。

 

「大丈夫かこれ?」

 

 ブドさんが腕を組んでつぶやき我空(わがぞら)を見守る。ちなみに僕も我空を見つめる。

 

 僕の捻挫はたいしたことはなく足を冷やしてもらいテーピングに包帯を巻いてもらっているが既に必要がない。

 

 僕は散々修行で怪我をしている。ドジで事故もしている。不良に絡まれ怪我もしている。母さん達に本気で超人的な技を食らうなど肉体的ダメージは慣れっこである。人の数倍は治癒が早い。そういう体質改善の訓練も受けている。

 

 僕って、何者?

 

 便利な身体だと思わないでほしい。怪我をすること自体にない一つ良いことなどないからだ。

 

「途中まで意識戻ったのにな……」

 

「なんか、ダメージがトラウマに陥っているんじゃない? 僕なんか兄さんにプロレスを馬鹿にしたらラリアットをくらってビルの五階からパイルドライバーされながら地上に落とされたからね。あの痛みは一生忘れられない」

 

 我空の場合は実の妹に必殺技を食らっている。気づいてないだろうが……。妹の桃萌(ももも)さんは少し看病したけど、関わりが嫌なのか、兄妹と知れ渡るのが嫌なのか去ってしまった。

 

 我空兄よ、哀れだね。

 

「お前はよく生きているな……。お前の兄ちゃんパワフルだからな……。お前は前にもプロ野球のテレビ中継でウザイなどと兄ちゃんに噛み付いたら、強制的に成人野球に参加されたよな。俺に泣き込んでさ、俺も一緒に同行されて試合やって結構楽しかったな」

 

「あれもキツかった。ルールすらわからないのに……。少年少女を成人チームに混ぜないでよ……」

 

「なんつうか、満の兄ちゃんのそういうところ大好きだぜ!」

 

「くそー! (ひかる)兄さんにブドさんを寝取られたよ!」

 

「お前は何をいっているんだ?」

 

 ブドさんはわけわからん顔をする。兄さんは乱暴者だけど人気者なところがあるからな。ブドさんをとられたら嫌だ。

 

『しかし、満にも色々過去があるんだな。なかなかに面白いな』

 

「虐待された話を楽しんでサディストですか? エア子さん」

 

『ま、暴力はいけないが、満に派手な話がないと思ったら色々とあるじゃないか』

 

「派手じゃなく過激なんです」

 

「おっ、エア子さんもいるのか?」

 

『いつだって満と一緒さ』

 

 エア子さん、聞こえないって。

 

「お前たち、あれだろ? 夜な夜なプロレスごっこしているんだろ? いいな~」

 

「ブドさん、発想がスケベ親父だね。そろそろ、理解してくれる人達が増えたから打ち明けるけどさ、エア子さんは実体がない僕にしか声が届かない意識の存在なんだ」

 

「? よくわからんが、なんだかそれってお前がエア子さんを独占してみたいだな」

 

 そういう発想はなかった。流石はブドさん。

 

「独占はしてないよ。できれば皆にエア子さんを知って欲しいし、あの我空ですら知覚はできなくてもエア子さんを師と呼んでいる」

 

「あの、我空がな……。人に敬意を持つとはな」

 

 エア子さんは人格で人とまでいえるかわからない。が、少しずつ認められているかもしれない。一番の親友だと思っているブドさんが一番に気づいてほしいが難しい話だよね。

 

「え、エア師いらっしゃるのか?」

 

 エア子さんの名前を聞いて急に起き上がる我空。貴重なシーンだよね。我空が人のことを想うなんてあり得なさそうだもん。

 

『おう! いるぞ。我空よ、しっかりしな!』

 

「すみません。不甲斐ない俺を見せてしまって……。満の声からでもいい喝をいれてください……」

 

「なんだ? 我空まで一人会話しているぞ?」

 

「うん、ブドさん。あくまでも、エア子さんの声が聞こえるのは僕だけど、皆何かを感じ取ってくれているみたいなんだ」

 

「そうか……。お前は馬鹿だけど、嘘もつくが、本当なんだろうな……。隠れた彼女なんて言って理解してやれなくてすまないな」

 

「いいよ。わかりようもないよ。僕だって最初は自分の病気か何かだと思っていた」

 

「これ見て」

 

 昨日のカラオケ時に新亜(しんあ)さんに描いてもらったエア子さんのイメージ。

 

「おお! スッゲー可愛いじゃないか! しかし、(まこと)も他人に関心を抱くとはな。やっぱり、お前のエア子さんはいい女だよ」

 

「一番はブドさんだけどね」

 

「俺を口説くな」

 

 などど、言い二人クスクス笑う。なんだか、こういうやりとりも久しぶりだ。

 

「エア子さん、聞こえていると思うけど。満並に馬鹿な我空だが元気づけてやってくれないか?」

 

『よし! 任せな!』

 

「エア子さんが任せろ! って」

 

「そうか」

 

 ブドさんにはまだエア子さんを少しでも知覚できることはできないみたいだが。信じてくれているみたいに感じる。

 

『おい! 我空』

 

「おい! 我空」

 

『しみったれないで元気だしな!』

 

「しみったれないで元気だしな!」

 

 エア子さんの台詞をそのまま再現する。気持ちは伝わっただろうか?

 

「うおおおおおおおおおおお! エア師! ありがとうございます! シャー! ウッシャー! ヌオオオ!」

 

「何コレ?」

 

 僕とブドさんは同時にハモる。お互いにエア子さんを理解して我空を元気づけてやったのは確かで大真面目にやった。喜びと感動はある。しかし……。

 

「もしかして、我空の奴壊れたのか?」

 

「まあ、僕並に」

 

「ははは、これはいいな。面白いわ。気に入った」

 

 ブドさんは大笑いしないが腹に手を当てて笑う。決して馬鹿にして笑ったのではないと信じたい。僕も滑稽にはみえるがなんだか嬉しくて笑える。その嬉しいがイマイチ何を指しているか自覚できないが……。

 

「コラッ! 保健室では静かにね」

 

 保健室の先生に怒られたので謝って口を閉じる。我空も元気になったことだしここにはもう用はないだろう。

 

 そう、思ったとき。

 

 バン! 保健室の引き戸を思いきりあける奴がいる。慌てているのだろうか?

 

「また、何度も。保健室は静かに」

 

 同じことを何度も言うと辟易するだろうが丁寧に指導する保健室の先生。

 

「す、すみません」

 

 声の主は女の子だ。おや、この顔はどっかで……。ああ、今朝にあったルヒュールの友達の一人か。

 

『おや? 血相変えてどうしたんだろうね』

 

「今、大変なんです」

 

「大変?」

 

「なんでもやる部として依頼します。先輩話を聞いて下さい」

 

「おしゃべりは外でしてね」

 

 また、注意される。

 

 とりあえず、僕と一行は保健室の近くにある中庭のベンチで話をすることになった。我空がまだふらついているが、なんだか奴は責任感なのか、やる気なのか率先して動く。変わったものだ。

 

 別にやりたくてやっている部ではないが、なんでもやる部の初仕事が発足初日から始まるとは思わなかった。なにがおきたのだろう? ちょっと不安だがやるだけ、やるしかないかな。

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