スパイにしては役不足
……なんでもやる部……。なんだよそれは。適当な思いつきじゃないのかな。
「それはカッコイイ仕事なのか?」
最初に口火を切ったのは我空だ。カッコイイって考えること自体が梨園さんみたいな感じがして幼く感じる。でも考える素材と動機の1つとして問題はないのかな。
「そち達の働き次第の印象じゃのぅ。設立したばかりの部じゃから注目はされるとは思うぞ」
「ふむ」
そこで、考え込む我空。ダメだって乗せられちゃ。
「で、何をする部なんですか? お断りしますけどね」
「良くない返事じゃの……。 先にゆうとったじゃろが」
「廊下に立たされていた時の事ですか?」
「左様じゃ。分かりやすく言えばの、そち達問題児の処分じゃ。我空は部活動のトラブル、満は赤点の常連など他にもあるが略すがの。で、じゃ。まあ、更生させるということを約束したのじゃ。理事長、校長等にな」
スゴイなタヌキさん。発言力半端ない。だけど、よけいなことだよね。自力で周りからの心証をどうにかすることはできないけど、やりたくないよな。
「趣旨は全校生徒の手助け。範囲は自由。相談でも労力でも、個人相手でも団体でも依頼がおきれば助けるのがすぐやる部じゃ」
「タヌキさん、漫画やライトノベルの読みすぎですよ。そんな助っ人家業の仕事なんて現実に創るとは思いもしませんでした」
「誰がタヌキじゃ!」
怒っている。怒っているのに愛嬌が顔に出るのがおかしい……。
やっぱり、愛玩2次元動物TA・NU・KIだからなのか? まあ、身長も僕並みで小学生かよ? (自傷)
和のタヌキとは違うがタヌキと連想する愛くるしさがあるんだよな。2次元に近い存在かな?
だとすれば2・5次元住人エア子さんに理解を示すのもありえることなのかなと思う。憶測だけどね。あと、現実の生のタヌキは見たことがない。
「なんじゃ? なにか謀を考えておるのかの?」
「どうして?」
「そちは普段は喋らず何か考え込んで変顔になっておるからの」
「変顔って……」
「で、いざこうやってよう喋りよるの。普段はまともに挨拶もせんのにじゃ」
観察されているね。
普段、接触をなるべく避けているのに。それにしてもこの年寄りくさいロリババァ言語はどうしたものか。実在するとはな。不快になるわけじゃないけど。余計に愛嬌がでるので心を許さないように警戒はするけどね。
「で、本題は喋るたぬきの置物じゃなくて、いるんでしょ? 本当の生徒会長が」
「無礼者が! 去年の冬には当選して活動しておるのを見ておらぬのか?」
「学校行事は寝ています」
「おおたわけが」
「さっきから、仙洞会長と満とでしか会話してないぜ? これが望みか?」
「あぅ~」
二人も加わってよ。で、何を言おうとしたっけ?
「そうそう、銭湯さん? 会長さん」
「仙洞じゃ! 霧子じゃ! 脳内に焼き付けるがよい」
「初めまして、銭湯さん?」
「うつけが二度も同じ間違いをするではない。文字を書いてやるから覚えておくのじゃぞ!」
そんなに頑張らなくてもいいのに……。
向こうが書くものだせ! と言わんばかりの手でサインしてきたので僕は慌てて制服ズボンの前ポケットからメモ帳をだす。
生徒会長相手に緊張気味でいたから汗ばんでいたけど前ポケットは股間にちかいからな……体臭大丈夫かな?
大丈夫じゃないな……。嫌そうな顔された。僕が悪いけど傷つくよ。もう、そっちから書くもの用意してよ!
「キタネエ臭そうなノートだな」
我空が茶々をいれるのが不愉快だがしかたがない。
『満よ。今度新しいメモ帳買って整理しような』
「わかったよ、エア子さん」
横槍の話をタヌキさんは一切気にせず丁寧だけど丸っぽい字で名前を書いてくれる。仙洞霧子と。
「ああ、そういう字」
「そちは何と勘違いしておったのじゃ?」
困り顔も愛くるしいので怖い……。愛玩動物のマスコットぐらいには萌えそうだ。恐ろしい奴。
「仙洞会長さんには会長さんの仕事があるでしょ? 忙しいでしょ? 僕らに構わず開放してください」
「ダメじゃ。いやなら、停学でも退学でもなるのじゃな。言っておくが庇っておるのじゃぞ」
「会長さんよ、俺もやるとはいってないぜ」
「我空も満と同じ道を歩むかの? なんでもやる部の依頼はなんでも受け付けるようにせい。そのかわりに騒ぎにならない範疇でなら自由に活動いたせ。部費は優遇してやるぞい。どうじゃ?」
「ふむ、面白そうだな」
「部長は我空じゃ、部員は満じゃ。以上、妾が今言うことはそれだけじゃ」
「俺が部長か! いいぜ。やっても」
「うむ」
こいつは、単に部長という言葉に惹かれて選んだんじゃ……。見栄っ張りだからね。
『満、絶対に引き受けな。満の為にいいことだと思う』
「エア子さんまで」
「おお、エア子殿も後押ししてくれるのか! 嬉しいのう」
たぬきさんはどこまでエア子を感知しているのかはわからない。声は聞こえないはずだが。
『殿って、堅苦しいねぇ。エア子でいいぞ』
「うむうむ、わかっておるエア子殿」
やっぱり、声はわからないがなんか意思疎通の兆しはみえる。
「わかったよ、やるよ」
僕というよりかはエア子さんの関わりができる人間がいる方がいいと思う。それでよりタヌ……仙洞会長さんにコンタクトするきっかけにもなるだろう。そのために少しは頑張るか……。
嫌だけど。
「うむうむ、良い心がけじゃ。では、明日の朝礼よりそち達を紹介するから遅刻せず、きちんとあいさつをするのじゃぞ」
「げっ! 明日? 挨拶?」
そんなことしたら、僕は朝から吐くよ……汚物まみれになるよ。朝食取らずに行くかな……。
「では、解散じゃ。カラオケでもなんでも楽しんで行くが良い」
「何故、その情報を」
会長……タヌキさんはニカッとすると。
「間者がおるからの」
「スパイってまさか……」
「生徒会庶務、梨園杏じゃ」
そういうことね。なんか急に絡みが少ないと思ったら……。まあ、気にしなけどね。
「あう~」
彼女の意味のわからない『あう~』で話は終了した。




