なのじゃ なのじゃのタヌキさん
我空はエア子さんに合格を得た。何をって?
人にごめんなさいと言う練習に。
なんだこりゃ。わけわからないよ。
声しか存在していない。しかも、僕にしか届かないエア子さん。僕を通して我空を認めた。
どういうこと? と疑問に陥る僕をよそに我空は有頂天だ。
「シャーッッ! 俺、最強!」
もしかして、こいつは僕と別種の馬鹿なのかな……。スポーツ選手が勝ち燃え上がったような熱狂なんだけど……。
「ウッシャー! すみません! ウッシャー! すみませんでしたー! うおおおお!」
謝罪を極めて(極めたのか?)喜ぶところを初めてみたよ。何これ?
でも、我空も僕みたいに人に認められることないから素直に嬉しいのかな? エア子さんが褒めたのを代弁しただけなのに……ね。
『よしよし、我空もこれからは素直にいい子になるんだぞ』
……本人にはエア子さんの声は聞こえてはいないだろうけど……。伝えておく。
「ぬぉぉぉぉぉぉぉぉ!」
奴は大感激だよ。すごいよ奴の雄叫びは。
「やかましいぞい」
「あっ、タヌキさん」
「誰が、狸じゃ!」
失言した。心に抱いたあだ名を口にだすのは不味かったかな。さておき……。
あれだけ騒いでいたら、注意と叱責されてもおかしくないが……出てくるのがこの人か。
出たがり屋なのはいいが、教師が出てこないと生徒たちのおしゃべり会になっちゃうじゃないかな? 僕は別にいいけどね。
「そち達は妾が気づかって、説得までして先生殿の代わりにこの場を諌めに来たのじゃぞ」
つうか、再度思うけど……その、しゃべり方どうにかならないの?
愛嬌はある顔立ちだけど、幼さがあるわけでもないのにロリババア言語かよ。現実に使い手がいるとは思わなかったよね。違和感がないから怖い。けどね、心ではツッコミいれたいよな。
「ところでさ、タヌ……じゃなかった、せっ、ん……ごにょごにょさん」
名前はなんだっけ?
いかん、記憶がとぶのが早すぎる。ごまかして名前を呼んだけど、誤魔化されていないな。
タヌキさんと我空が『マジかよ』って顔をしている。やっちゃった。タヌキと心で呼ぶのが常なので、そこから頭が離れない。ただの言い訳です。
「よもや、妾の名を忘れたと申すのではなかろうな……?」
「いや、まさか」
はい、その通りと言うわけにもいかず、僕はこそこそとエア子に確認する。
『満、お前は今日、一時的に仙洞さんと話を口にしていたじゃないか。どういう頭をしているんだい?』
「並以下の頭脳です」
『その若さでボケてきたんじゃないだろうな?』
「人間、ボケた者が勝ちと聞くし」
『それは、老後とかだろ? 今いくつだい?』
「えっと……15、16? 17?」
『満よ、自分の年齢も忘れたのか……しっかりおし』
「あまり、興味がないんだよ。自分も他人も」
『そういうものか?』
こっちこそ聞きたい。エア子さんは幾つなんですか? 自分の歴史がないみたいで、僕とであった時に意識が芽生えたとすれば、一歳にもならないんだろうけど……。というより肉体がないからな……。
「なんじゃ? エア子さんかの?」
「はい、エア子さんと会話中です。気になりますか?」
「うむ。満のたわけた妄言かと思いながら、よく観察していたのじゃがの。最近わかってきたのじゃ。見ることはできないが何かを感じるの」
「流石、万物のメジャー妖怪TA・NU・KIさん! 霊力MAXですか」
まぁ、エア子さんは心霊とかではないと思うけど。勝手にそう思うだけだけどね。
「愚弄するではない。そちは、まともに話そうとしないわりには、いざ話すと多弁ですぐ話をそらしよるの」
本題にはいるとね、ろくな話になったことがないからね。うやむやに変えてもいいじゃないかな。そもそも、普段は無口のボッチが喋っていることに評価してほしい。
「まぁ、エア子さんについては後々に満から聞くことにするがの、話は我空と満の問題についてじゃ」
ところで、この人はブドさんやエア子さん以外で僕を呼び捨てにするのはどうしてなのかな? さほど親しくないはずだけど。
「まずは、我空からじゃ」
「おう、てめえが俺に何か用なのか? 生徒会長さんよ」
「え? 生徒会長?」
「なんじゃ」
「生徒会長?」
「なんじゃ」
「生徒会長?」
「まぁ、冗談はさておきじゃ。おぬしは妾をなんだと思っていたのじゃ?」
「偉そうにしている人」
「たわけが、全校集会など妾を見ておらぬのか?」
「同じ授業以外は存在を気づいていないですね」
「間抜けが! どうしようもないのぅ、校内行事はいつも真面目にやっているかの?」
「えーと……居眠りしちゃいますから」
「ボンクラが!」
貶されているけど、僕ではなく我空に用があるんじゃなかったのかな?
我空は、やる気に満ちている雰囲気だけど。僕は基本的に誰とでも話すことをのぞまない。
我空の奴は誰とでも絡むけどね。構ってもらえない故の構ってちゃんなのかな? 不敏だね。と、思いつつどうでもいいんだけどさ。
「話がそれたがの、続けるぞい」
「それより、僕らが言うのもなんですが、用件は別の時間にしたほうがいいんじゃないですか?」
まぁ、うやむやにする為の方便だけどね。
でも、間違ってもいないからな……。
だいたい、僕と我空になにか注意事をするのだろうけど、阿呆二人に話をしても脱線会話になるだけで騒ぐだけで終わるだろうし。授業中以外でやらないと迷惑になって、更にドやされるだろうからね。
さっきまで騒いでいたのを棚に上げるけどさ。
「まぁ、よいわ。各々、教室内にもどるのじゃぞ。廊下に立たせても反省の色なしで騒動おこすだけじゃからの」
「そういうことは受け持ちの教師が言う台詞じゃ……」
「うむ、間違ってはおらぬがの。目にあまりすぎて妾が指導することになるのじゃ」
「どうして?」
「妾で不服かの? 嫌なら、別の処置が待っておるのじゃがの」
「別の処置って……」
「例えばの、親御どのと面談して生活を監察する処分になるのじゃのぅ。事が悪化すれば停学もありえるのう」
「なんだか、僕らが罪人あつかいなんですけど……」
「問題児に対してしかたなかろう。学年会議どころではなく、妾の身内である理事会でも上がってきた内容じゃ。秘密じゃぞ」
聞きたくもない秘密を言うなよね。
「よくわからないけど、僕らって相当に悪目立ちしている?」
「全て悪いわけではないがの。今、知りたいかえ?」
「いや、いいです。怖い……」
「うむ、後に処置を通告するゆえ覚悟するがよい」
「決定事項なんですか……拒否権ありますか?」
「別に断ってもかまわんのじゃが、危機感というものはないかの? 妾についていけば、まだ、事が温く進めるのにのう」
『おい、満!』
「なんだい? エア子さん」
『仙洞さんと仲良くなれるチャンスだぞ』
「望んでいるわけではないけど……」
『バカだね、生徒会長だぞ。心証よくすればこれからの学校生活も楽になるぞ』
「抜け目がないね、エア子さん」
「ほほほ、エア子殿も後押ししてくれるようじゃの」
この人、エア子さんとの会話は誰にも聞こえないのに、もしかしてわかるのか。そうだと嬉しいんだけどな。
「エア子さん、エア子さん」
『なんだい、満』
「何か好きな食べ物を言ってみて。あっ、エア子さんは食事できないか」
『なんだい。酷い言われようだな。確かにできないけどな。だけど、そうだな~ごはんがいいね』
なんか、食べ物の全般的だし、穀物、炭水化物かよ。炭水化物にしても、ハンバーガーとかサンドイッチとか言って欲しかったよ。
まぁ、いいや。これは、テスト。タヌキさんがエア子さんの台詞が聞こえるのなら答えれるはず。
「ねえ、生徒……仙……タヌさん?」
「なんじゃ! タヌさんとは。呼び方をひとつに絞るのじゃ」
「すみません。それで、僕はエア子さんに好きな食べ物聞いたけどなんて答えたか聞こえましたか?」
タヌキは自信満々に言った。
「わかるぞい。餡蜜じゃ!」
駄目だこりゃ……。それは、あんたの好物だろ? 多分。
『なんだか、気が合うねぇ~』
なんで? どうして? あ、単にそれも好きってことかな。
それにしても、エア子さんの過去に実体があったのかな。食べたことはあるのかな?
ともかく……。
「ぶぶ~、不正解」
「な、何故じゃ~」
タヌキ生徒会長の困り顔は不愉快なほど愛らしいのでイラつく。
しかし、僕は何故この人に敵愾心を抱くのであろうか。身長が同じせいだろうか……。お互い低身長なので、そこだけは男として負けたくない。
それでも、なんだか可哀想には思うのでフォローはいれておく。
「でも、気が合うねとは言っていましたよ」
「うむ、それは妾も感じたぞい」
本当に? なんだか、化かし合いみたいだな。タヌキだからかな。
「エア子殿、近いうちに甘見処に行こうではないかの」
『おう! いいね~』
タヌキにはエア子さんの声が聞こえていないはずなのに意気投合しているよ。何これ?
「いいね、だってよ」
「言わずともよい、わかっておる。しかし、羨ましいの」
「何が?」
「エア子殿と直接会話できるお主がの」
そんなもんかな。
確実でないにしろ、エア子さんが僕自信の演技でなく存在していることを理解してくれる人間が増えたのかな?
意思疏通できるが、お互いが変な関係。それを羨ましく想われるとは思いもしなかった。ここ、一ヶ月の僕は奇人扱いだと決め込まれただろうからね。
まぁ、エア子さんと会う前も僕はそんなものだけどさ。今はさらに拍車をかけたというところかな。それはこれからも変わらないだろうけどね。
でも、問い返す。
「なんで、うらやましいの?」
「うむ、なんと申せばよいのじゃろうな。いつも傍にいる輩というものはいいの」
「友達? なのかな……。エア子さんは結構自由に行動するよ」
幽霊みたいにとりついているわけではないので独り勝手に遊びに行っちゃったりする。
あんまりべったりと世話焼きというおしゃべりが続くと疲れるのでいいんだけどさ。
声以外で確認できない。いつものことだけど気配も感じとることができないので、僕の所に戻ってくる時に『おっす! 帰ってきたゾ』というノリで声をかけられると驚く。非常に困る。
そして、びくつくとやましいことでもしていたのかと邪推して追及してくるので怖い。まあ、兄のパソコンでエロサーチしているから悪いんだけどね。
こんな、関係がうらやましいのかな?
とりあえず、僕は教室に戻る。
エア子さんもわからないが、タヌキさんもよくわからないな。




