謝っても許さないんだからね! ばかー!
人に謝るにはどうしたらいいのだろうか?
難しいことはないという人がいる。僕はそう思わない。だけど、謝り方があっても許す、許さないは別だと思う。謝れば許してくれるとは限らない。余計に憎しみが生まれたりするだろう。
誰が悪いのか?
それは人間自身の心の問題だ。
そんな、卑屈な考えを癖で考えてしまう僕だ。
数分ほど、時間がたったと思う。体感的にそう感じた。
「よし、きまった」
我空は『おっしゃー』ってな感じで盛り上がっている。
早いな、本当に考えているのかな?
確かに素直に謝るには長考するより、要点だけをまとめてはっきり告げた方ががいいと僕も思うけどね。奴がそう考えているかは別だけどね。
そういえば僕は人に謝って許されたことがあまりないような……。僕がどうこうと我空を助言したところで失敗しそうだな……。
「今まで、意地悪してスマン。そのガキのような性格が笑えたからチョッカイだした。だが、テメエの事がよくわからんので飽きた。だから意地悪もしない。仲良くしてくれ」
率直に抱くのは、よくわからない台詞。こいつ、僕みたいに口下手なのかな。そしておつむが弱いのは我空、君もじゃないか? 僕もだけどね……。
『なんだい、なんだい、それは。普通に意地悪してごめんなさい。これからは仲良くして下さいでいいだろ』
「だってさ」
「聞こえるかよ! 誰と話をしているんだよ」
「せっかく、エア子さんが深君に注意してくれたのに」
「もう一度言うが、聞こえるか!」
そうだろうね。エア子さんが思わず反応したから、自分としては聞こえていたと勘違いしてしまう。
「ごめんなさい。これからは仲良くしてね、だけでいいと言っているよ」
「通訳かよ? お前の中でやっているやりとりを別人が言ったようにするなよ」
エア子さんは存在する。存在しているんだよ。
『そんなことより、我空は誠意が感じられないな。本番に向けて、ごめんなさいの練習だな』
「だってさ」
「だから、聞こえないんだよ。その意味わからん芝居はなんだよ! もう一人の役も声にだせよ」
んなこと言ってもさ、エア子さんの代弁をまったく同じに言うのも面倒なんだよね。
だけど、不便だから通訳するけどね。嫌がれそうだけど。
「エア子さん、お願いします」
『あいよ!』
「お前も筋金入りだな。その芝居を続けるのか」
『静かにしな、我空』
「静かにしな、我空」
「?」
僕は、エア子さんの台詞を、そのままに復唱する。かわいい声は真似できないけど。
『まずは、アタシの自己紹介からだな。アタシはエア子。満がつけた名前だな。理由はわからないが満以外には認識されない身だが、満の世話を焼いている。さておき、我空も満と同行してみている限り、どうもダメな行動が目立つ、満と一緒に面倒みてやるから、アタシをお姉さんだと慕ってどんどん言うこと聞いて頑張るんだぞ!』
僕は、エア子さんの長い台詞を我空にそのまま伝える。
「お前、本当に頭がおかしいのか?」
「だって、本当だもん! 嘘じゃないもん……」
聞こえなきゃしょうがないけど僕とて、辛いのだ。
誰にも存在をわかってもらえない人物、僕だけ、声が聴こえる無色透明2.5次元(?)人間、エア子さんの代弁をするのは。
『満、考え込むな。続けるぞ』
「はい、エア子さん」
「お前、病院行ったほうがいいんじゃないのか?」
まぁ、自分でもそう思う。だけど、僕の精神からエア子さんは発生してないんだよ。あくまでも、僕とエア子さんは別人。多分……。
『続けるぞ、まずは満を梨園さんに見立てて、我空はごめんなさいとお辞儀』
と、そのまま伝える。我空は嫌そうで腑に落ちない面持ちをするが……。
「す、すまん……」
なんだか半端で思い切ったやり方ではないが気持ちはわかる。
我空にしてみれば、僕相手に芝居でやらされているとしかみないだろう。
『まずは、お辞儀がなってないな。角度までとやかく言わないが、もう少し深々としながらビシーっと。やり直し』
と、エア子さんの言をそのまま通訳する。
我空にとっては、僕が奇怪な遊びに付き合っているとしか思えていないだろうけどね。でも、エア子さんは親身で真面目にやっている。間にいる僕としてはどう態度にだすべきか微妙でやりづらい。
「なぁ、おい! こんな茶番に付き合えっていうのか?」
「ごめん! 悪ふざけでもないんだ。エア子さんはやれと言ったらやるまで何度でも言ってくるから諦めて」
「お前の心の中でやっていろよ!」
これが、普段エア子さんとやりとりで喋っている僕を端から見た人間の意見だろう。不審がられて誰も直接言わないが、我空に言われる機会が来るとは思わなかったな……。
『はい! 愚痴やら文句は後でこぼす! まず、意地悪してごめんなさい! 深く礼! これからは仲良くして下さいは相手の顔をみて笑顔! そして、浅く礼! 10回練習』
そのままに伝える。ありのまま上手く真似るためにエア子さんのきゃわいい声も裏声をだして真似る。
『コラ! 満。物真似じゃないんだぞ。満にも真剣さが足りないぞ。アタシにごめんなさいと礼!』
「はぁ? エア子さん、僕にまでそれはないでしょ」
『我空に手本になるように頑張るんだぞ』
しょうがないから、やってやろうじゃないか。謝るだけなら得意だよ。
「エア子さん、ふざけてごめんなさい!」
ビシ―――――――――――――――――――――――――!
どうだ?
普段、身内にだけはこれを怠らない謝罪という特技。僕には我空より一日の長がある。
この、お辞儀のフォームは美麗と思うに違いない。しかし、どれほど思いの丈が強かろうとあまり許してもらった記憶がない。意味がない、無駄、無駄の繰り返しだ。これを習得してもらうには、なんだか時間だけが過ぎるような……。
『まぁまぁだな』
「えぇ?」
得意気にした自分が恥だとは認めないけどね。認めないぞ、謝罪することが勝負で健闘した唯一僕の術がまぁまぁだと?
いや、僕の戦いには逃げるとか他にもありますけどね。回避行動ばかりで嫌になるけどね。ショック!
『我空も見習って頑張れ』
「僕を手本にして、やれって」
「やるかよ!」
我空がキレかかっている。
まぁ、やりとりが僕の一人芝居だと思うなら、馬鹿馬鹿しくて腹もたつかな? もともとは我空とはエア子さんとの共有を持つつもりはなかったので、向こうが拒めば終わりでいいと僕は思っている。
しかし……。
「いや~無理しなくていいよ。僕だったらすぐに逃げを選ぶし、なんだかごめん、誘って」
『満よ、そんなに早く諦めさせてどうするんだい?』
だって、人には向き不向きがある。
我空は僕のワケわからない行動(我空から見ても)も、悪く思っていないことを謝罪するのも、難しいのではと感じる。
僕なんかは、この世の全てに苦手意識があるが三流評価の我空は僕ほどにないにしろダメなんじゃないのかなと思う。
人の付き合いなんて、仲が良いだけじゃなくて、親身に付き合うことだって大切だと思う。
僕には、身内やブドさん、エア子さんも根気よく僕の奇行を相手にしてくれている。だから僕はブドさん、エア子さんの依存症になってしまう。
付き合いがいがあって、初めて僕は仲良くできるのだと思う。
我空はどちらかといえば、はぐれもの気質である。
同類だとか仲間意識も全くないんだけど。我空は僕と似ているかと推察してしまう。我空は本気で構われたことがないだろうから、親身についてわからないかもしれない。
本気でシカトされるところもね。相手にされなければ人間は終わる。
僕も、それはわからなかった。
ここ一ヶ月で正体不明の人間なのかわからないが、エア子さんに構われすぎて気づいたかもしれない。
本当に、声のみの人で何者? って思うけどね。逸れてしまったけど、与えられるか、自身が気づかなければ、本気になれるきっかけはない。と、思う。
我空には無理だ。
「俺を蔑み過小評価しやがって! てめえに出来て俺に出来ないわけないだろ! 馬鹿にしやがって!」
我空は怒りながら壁を何回も蹴りあげる。教室側の壁なので非常に困る。いやもう皆に気づかれているでしょ? 再び叱られるのも時間の問題だな。
「ちょっ、深君、静かにしようよ。おさえて、おさえて。」
「黙っていられるかよ! 満ごときに匙をなげられるとはな!」
『悔しいかい? 我空よ。だったらやってみるんだな。謝罪って難しいぞ』
「エア子さんが言っているよ。ちゃんと謝る練習しろって」
「やってやろうじゃないか!」
我空は賢者タイム……じゃなくて、精神を落ち着けるために一呼吸いれる。
そういえば、最近の僕には賢者タイムはないな……。
四六時中エア子さんと一緒だもん。プライベートないな~辛い。
外払いしても『何故だい?』と言われる始末。我慢も、そういうプレイだと思えば楽しいけどね。ド変態! 下ネタに耽る雰囲気ではないのに脱線する僕。
……ダメだ、真剣な時でも下ネタに移行してしまう僕。ダメ人間、満。
『おい、満! 我空が真剣な時に変顔するな!』
顔にでるのね……下ネタは。
「すみません! エア子さん」
「俺はそれ以上に(謝罪を)やってやる! (変顔ではない)」
我空は大きく呼吸をしてから渾身で大声を出す。姿勢も正して我空とは思えない。
「すみませんでした―――――!」
廊下中に声がこだまする。大変に誠意があって立派だけど、相手はエア子さんではない。梨園さんにやるんだよ?
『お、おう。よ、よくやった、我空、合格だな』
エア子さん、少しドン引きしてないか?
「エア子さんから合格がでたよ」
「シャッー! おっシャッー!」
我空はガッツポーズをする。しかし……。
大丈夫か?




