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せみより五月蝿いのじゃ

うん、よろしくです。

「ほぉわわわゎ~」

 

 怪鳥音ではない。

  

 そもそも、怪鳥音であるかも自信はないが、思わず怪異にふれた結果、絶句ではなく奇声を発するに至った。


 挿絵(By みてみん)

 

 というか、叫ばなければ、やっていられなかった。ノーリアクション、無表情が世間でボッチが身に付いた鍛錬の結果。そして、成果だというのに無様な僕だ。社交しないイカレタ隣人は謎。僕は謎人間でいいのだ。

  

 授業中に奇声をあげるのも謎の好意だけどね。

 

(みちる)、先生の視線がシビアだぞ』

 

 エア子さんが忠告してくれる。

 

 五時限のことだ。

  

 結局、僕は昼食をとれずに終わった。なので、早弁ならず遅弁って言葉が存在するのかはわからないけど授業に隠れて食事をとることにした。

  

 普段は兄さんが作り置きしたごはんのあまりものを適当につめて弁当を持参する。

  

 朝っぱらから、弁当の用意なんて面倒臭い。いっそのこと昼は絶食しようかとも思うが、エア子さんが僕を愚図扱いするで黙って粛々とやる。

 

兄さん弁当詰めてくれとか言えないし。

  

 面倒なんで兄さんと僕の弁当を交換する手もあったが怒らせてしまい恐ろしい反撃を食らった。

  

 三日間炊事やらされる。僕はろくに料理ができない。結果、身に付いたのがご飯と塩と塩だけスープが最大の僕の手料理だ! 不味い!

  

 惣菜でも買う手段もあるが自分の小遣いでどうにかしろといった具合になる。結局、ソルティーのみのご飯になるのだ。地獄……。

 

 で、話は変わって昼食は購買という手もあるが、小遣いを無駄に消費したくはない。

  

 話は戻って、兄さんが珍しく、『今日は奮発した弁当をつくってやる!』などと、張り切っていた。

  

 兄さんは料理が得意なのでそれなりに期待していた。いつもの、ブドさん、ω(オメガ)さん、タヌキさんと食事をしていたらお裾分けをせがまれるくらいだ。しかし、今回は……。

 

「せ、蝉の脱け殻だと!」

 

「な、なにごとじゃ!」

 

 これは、タヌキさん。彼女は普段から偉そうだけど、尊大なせいで責任のある役職している。なので荒事には反応が早い。

   

 タヌキさんがクラス委員なのか、なんなのかは興味がないので知らない。ホームルームとか全校集会の類いの時間は居眠りしているし。はい! 学校行事は参加したくありません。

   

「満、貴様いい加減に舐めるのも大概しろよ! 馬鹿にしているのか? ああ?」

  

 これは、タヌキさんではない。名前を忘れたが英語の先生である。よく、この授業はよくエア子さんと喋る。一番苦手な科目でよくわからないからだ。

  

 洋楽は兄の影響で聴くし、ついつい横文字を使うが英語は苦手だ。邦楽だって途中に何を気取って英語使うんだ? と思うが、実際は英語力達者じゃないでしょ? ディスってごめんなさい。

  

 何度も言うが、エア子さんは姿なき誰にも認識されない存在。

   

 だが、僕とはいくらでも会話ができる。エア子さんは、頭がいいのでしょっちゅう勉強を教えてもらっている。厳密には向こうがお節介で相手をしてくれているのだ。

  

 周りには気づかれない存在を良いことにやりたい放題だったかもしれない。エア子さんの声は誰にも聞こえないらしいが、僕の声は周囲に丸聞こえ。

 

なれきってしまっているよ。僕が独り言を言いながら授業を受けている変わり者のつもりでいたけどね……目に余るよね。

  

 僕だって周囲の目を気にして辛かったんだよ。言い訳にならないけどね。

  

「満、ちょっと立て! こっちに来い」

  

 教師が下の名を呼び捨てで怒鳴るって、相当にキレているんですかね?

  

「どう思う、エア子さん」

  

『満、いつもビクビク、おろおろしているのに、こういう時だけ落ち着いているな。神経がずれているよな』

 

「諦めているだけだよ」

 

 親に殺されかけることがある。いや、本気で。だからってわけでもないけど殺伐ってなれているんだよね。

  

 原因は自分の不始末。こういう時は落ち着くしかないのだ。なにしても無駄だから。とりあえず、言われた通りに英語の教師に近づく。

 

「学年主任じゃぞ。気をつけるがよい」

 

 タヌキさんが忠告してくれるが手遅れだと思うので関係ない。

 

「授業中は私語禁止、わかるな?」

 

「はい」

 

「それとだ、お前、机に隠しているものは何だ?」

 

「お弁当です」

 

「まず、食事は昼休みを設けてある。昼休みにとるだろ。何をしていた? 教室に入るのも遅れたな」

  

「個人的な用事で時間が間に合いませんでした。」

 

「そうか、だったら、この授業が終わったあとにすますとか考えなかったか?」

 

「僕は、え~と……」

 

 言い訳でもしようかと思ったが話が脱線するだけだと思いやめる。

 

「いえ、空腹に耐えきれず、問題になることを考慮しませんでした」

 

「そうか」

 

 この、先生は若い。若いといっても三十半ばの男だ。年齢からか血の気が多い。今日のやりとりまで怒らなかったから急に豹変したかとも思った。

 

 確かに、早弁ならず、遅弁を授業中ににしたり、叫んだり……。

  

 まぁ、怒るかな。怒られるだろうけど、根本的に僕に対して何か気に食わないところがあるのではないだろうか……。推測できないけど。

 

「で、だ。お前は叫びあげた物を見せてみろ」

 

「見ても、かなりつまらないと思いますが……」

 

 しかし、有無を認めない雰囲気だったので、机から弁当箱を持ってくる。

 

「中身を見せろ」

 

「え?」

 

 これってプライバシーにひっかからない? わからないけど……。素直に蓋をあける

 

「なんだ、これは? お前は昆虫でも食べるのか?」

 

「いえ、身内のイタズラかと」

 

 憤怒と半信半疑が混じった顔で教師は指で蝉の脱け殻を取り出す。

 

「? どういうことだ、これは? 違うな、違う」

 

「どういうことですか?」

 

 ぽく・ぽく・チン! 三点おいて、間だけが生まれる。僕にどうしろと……。

 

 沈黙のやり取りをみかけたタヌキさんではなく、名前なんだったけ? なんとかさんが近づいて弁当箱をみて、同じく蝉の脱け殻をつまむ。

 

「ふむ、これは大層な技じゃのう。匠じゃ」

 

仙洞(せんどう)どういうことだ?」

 

 あぁ、仙洞さんね。今日ぐらいまでは覚えているだろうか僕。

  

「これは、飴細工に(はべ)りですじゃ」

  

「仙洞、言葉使いがおかしいぞ。飴なのか?」

  

「妾が試食しますぞい」

  

 このタヌキさんは誰にでもそんな口の聞き方なの? 大物だな、真似できない。

  

「うむ、甘し! 美味じゃ」

  

 狸なら昆虫食うか。

  

 知らないけど、そうだな。口を僅かに動かして、美味そうに食べている。というか飴を舐めているんだろうね。

  

 そんなやりとりでも愛嬌があるというか猫というより二次元上のタヌキの愛嬌に感じてしまう。まあ、地で可愛い娘だと思うけど構造上ね。

  

 あまりにも自然にタヌキさんが口をモゴモゴしているので、先生も気にはなるようでじっとその様を見ている。いや、僕も不思議な感じだと観察していたが。

  

「ささ、先生殿もお一つご賞味あれ、なのじゃ」

  

 そのしゃべり方どうにかならないのかな? まぁ、お互いが不快にならなければどうでもいいけど。

  

 それは、そうと、この、蝉の脱け殻は僕の物だけど……。いりはしないが。先生は不味そうな顔で眉間にしわ寄せ口にいれる。

  

「む、飴だな……」

  

「然り」

  

「ほ、本当に?」

  

 持ち主の僕が確認してしまう。よく考えたら、兄さんは手の込んだイタズラはよくするからな。どうやって作ったかは知らないが相手を驚かすのに雑に済ませることをしない。

  

「よくできているな」

  

 飴? を舐めながら呟く先生に辺りが少しざわつく。

  

「仙洞さん、俺にも一つくれないかな?」

  

 だれだか、知らないけどクラスの男子が願い出る。いらないんだけど、それは僕の物だからね。頼む相手が違うよ。

  

「ふむ、口にするがよい」

  

「私もいいかな?」

  

「皆の者、味わうのじゃ! 並ぶがよい」

  

 クラスの連中が、わんさか、集まる。……タヌキさんの方に。

  

 別に注目されたり、それが惜しかったわけではないけど、僕の物だからね。なんだか、タヌキさん自慢げにしながら和気あいあいしているが、別にうらやましいわけではない。

  

「飴だわ」

  

「飴だね」

  

「スゲー! 細工が細かすぎて見た目が蝉の脱け殻と区別が全然つかねぇ」

  

「どこで、売っているの?」

  

 などと、賑わっているが持ち主の僕が蚊帳の外なんだけど。ここでボッチの資質を開花するからな~辛いな~。

  

「お前は加わらないのか?」

  

 ブドさんがちゃっかりと飴を舐めながら尋ねてくる。

  

「いや、僕はちょっと……」

  

「あれだろ? お前の兄ちゃんの仕業だろ? サプライズとしては上出来だな」

  

「あまり、嬉しくないけど」

  

「そうなのか? 今回も地味なのに悪い意味で目立つお前だけど、最後に霧子(きりこ)に持っていかれたよな。最初の絶叫(スクリーム)よかったのにな」

  

 いや、ロック、メタルを意識して叫んだわけじゃないんだけど……。

  

 霧子さんとは? ああ、あのタヌキさんか……。覚えていられるだろうか?

  

 タヌキさん。仙洞(せんどう)霧子(きりこ)さん。覚えていられるかな? 多分忘れる。

  

 それより、ブドさんの言葉が気になる。

  

「あれ、良かったの?」

  

「バカ丸出しで良いな。普通に自由時間でそれやれよ」

  

「なんで?」

  

『満のリアクションが豊かになったのは良かったな』

  

「エア子さんまで……」

  

『しっかし、ところ構わずはやめな』

  

 この人、周りに認識されないことをいいことに、しょっちゅう僕に話しかけるのにな……。

  

「でもね、驚かすのはいいとして……良くないけど、飴で腹の足しにはならないよ」

  

「それか、弁当箱の裏に何か張り付いていたぞ。金じゃないのか?」

  

 そこには気づきませんでした。ブドさん洞察力あるな~。僕が鈍いだけか。

  

『それなんだが、満の兄さんの手紙入りで千円を張り付けてある』

  

「エア子さん、知ってたの?」

  

『まあな』

  

「つうか、兄さんと意志疎通できるの?」

  

『できないさ。けどね~兄さんが、もし、あたしが見ていたら内緒って頼まれたからね。満が起きる前のことさ』

  

 兄さんは、エア子さんのことにたいして相談した時からエア子さんを知っている。

  

 けっして、妄想や頭が精神分裂したり、心霊ではなくて僕だけが認識できる存在だとわかってくれている。……と思う。

  

 そもそも、透明で実体がないエア子さんがいようがいなかろうが何も問題にならないというのが兄さんの考え方である。

  

 なので、兄の宅でエア子さんと何を騒ごうと特に気にされていない。……と思う。ちなみに親には内緒にしてもらっている。

  

「たまに、感知されなくても意志疎通ができるのが不思議だね」

  

『まっ、満があたしの事をひた向きに説明してくれたからね。兄さんに通じたし、あたしにとっても嬉しい事だったさ。あたしは存在しているんだなって』

  

「ごめん、覚えていない」

  

 本当に……。

  

『アハハハ、満は本当に忘れやすいな』

  

 暗い声色にないにしろ、エア子さんに語気は感じられない……。元気なエア子さんなのにな。悪いとは思っている。

  

「ところでさ、ブドさん?」

  

「ああん? なんだ?」

  

「放課後空いている?」

  

「部活があるからな~。六時までは無理だな」

  

 授業中に騒がしくなったのでどさくさに紛れてブドさんに話しをかける。元は自分だけどね。案の定に予想通りの反応をされる。ここは頑張って口説くかな。

  

「あのさ、昼休みに行った。り、梨園(りえん)?」

  

「もう、忘れかけているのか! おい!」

  

『満、しっかりしな!』

  

「エア子さんまでうるさいな……。梨園って娘より、どちらかというとエクスカリバー?」

  


「?」

 


『?』

 


江楠(エクス)かみなさん?」

 


「?」

 


『おい、満! 葛守(かつかみ)香美菜(かみな)さんだろが!』

  

「ありがとう、エア子さん。そうそう、デス(かつ)さん。なんか、横文字っぽい勿体振った名前だから、つい」

  

『どこがだい!』

  

「ブドさん。葛守さんって娘を知っている?」

  

「いや、知らねぇけど……お前とのやりとりはマジ疲れるわ」 

 

 げんなりされている所を構わず僕は続ける。

  

「カラオケしようってことになったんだよ。何故か」

  

「ああ? なんだ、誘われたのか? いいじゃんいってこれば」

  

「嫌だよ! 確定じゃないけど、女の子6人とだよ」

  

「やったじゃねぇか。お前は何処の幸せ者だよ?」

  

「女子ばかり心細いよ。着いてきてよ」

  

 まあ、男が多くても不安だけど。人間が苦手だからね。

  

「お前、ますます女子の比率……女子率だな、上がるぞ」

  

「ブドさんはカウントしませんよ」

   

「お前、ふざけんな。一人で行け」

  

 その、ふざけんなは何に対して?

  

「そんな、ブドさんは女子好きでしょ」

  

「確かに好物なんだが」

  

 否定はしないんだよな。指摘しないけどね。僕は今必死だから。

  

「もう、あれだ。我空(わがぞら)に頼め。うん、それがいい。何だかんだで、アイツは相手が俺とお前とだけしかいないし」

  

 酷い言われようだね。同情しないけどね。

  

「誘いにのるかな?」

  

「お前、口説けよ。アイツは粋がりだしな。かっこつける見せ場ができて喜ぶと思うぞ」

  

「そうかな?」

  

「ところで、満気を付けろ」

  

「え?」

  

 なんだか、後ろに気配がする。影が迫っている気がする。

  

「満、貴様……」

  

「は、はい。先生……」

  

「私語ばかり、いい加減にしろ。とりあえず廊下で反省していろ、な?」

  

「はい、すみません。反省していきます」

  

 怒気がないにしろ、腹に据えかねた静かな圧力に押される。僕は生まれて初めて廊下に立たされることになった。

  

 本当にどうでもいい体験だよ。ブドさんは逃げた。いいな~。

続きもよろしくね。

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