選ばれしボッチの歩む道
1年の教室棟に向かっている。
向かっているわけだけどね(必死)。ちょっと前まで通っていた場所だというのにどこだか忘れてしまった。
ついこの前に1年のクラスに間違えて行っていたというのに。
つうか、現在は3年の方に間違って向かっていたんだけどね。
校舎内の地理感というべきかなのかな? 要するにどこに何があるとか覚えていない。
前にも語ったけど、間違えて隣のクラスにはいって気づくまで他人の席に座っていたこともある。
そういう経験は誰にでもあるよね? ……僕だけだよな。
相手には悪いけど僕も辛い。周りが不思議がる。僕だけが恥ずかしくなる。自滅だけどね。結構精神がえぐりとられるダメージ。自分が悪いんだけどね。
とりあえず、1年の棟にたどり着く。まぁ、一緒に付き添っているエア子さんに誘導されてたどり着いたんだけど……。声質は可愛い音声のエア子さんナビです。便利です。口調はアレだけど……。
『こんな簡単な道のりもわからないのかい? あたしが付き添って行ってよかったな』
エア子さんは社会上存在していないはずで、この学校の生徒というわけでない。
誰も知覚できないという理由で唯一会話のやりとりができる僕と行動をともにしている。
なのに、僕以上の頑張り屋さん。実体がないって可愛そう……。
だけど、僕にしか認識できない間柄でなければ、こういった付き合いはなさそうだな。ボッチは基本的に孤立した者しか仲良くしてもらえないのだ。本当だよ。
ブドさんは除く。
『ちゃんと、教科書返して貰うんだぞ』
「いや、あれは……わ、わ? なんとかが適当についた嘘でしょ」
『我空だぞ。ったく、聞いていたあたしの方が覚えているなんてな。有名だから奴の教室を覗いたぞ。周りと噛み合わない加減といい、満といい友達になれそうだけどな』
なにそれ、嫌。
「関わり合いをしたくない相手なんかどうでもいいでしょ。興味ないから名前も覚えないよ」
『人を覚えることなんて常識だろ。嫌いな相手でもだ』
「なんで? しかも嫌いな人間でも」
『全てなんででもさ。誰も知らないなんて不自由な毎日さ』
「現にこれまでやってのけているよ」
『しょうもない奴だよ。満は、ちょっとは悔しいとか思わないのかい? 自分の世界に閉じこもって生きていたって惨めだろ』
「そうとは思わないよ」
『返答がよくないねぇ。てこ入れしても動かない奴だって皆わかっているのさ。それでも辛抱強く相手をする葡萄さんに感謝するんだぞ! お前を鍛えるために梨園さんって娘に会いに行くんだぞ』
「何の関係性が……」
『美術の教科書返してもらって、そこから縁ができて人に接する能力が向上するだろ』
「それって、単に出会いが目的なんじゃ……」
『おっ! 正解だね~』
ナンパか? これは。どういう旨趣なんだかよくわからない。
これじゃあ、わ、なんとかという奴と同じじゃないか。皆が僕を使い走りして遊んでいるだけじゃないの? 辛いな。
「そもそも、その1年の娘がもっているわけがないじゃん。適当にでっち上げているだけ。具体的に名前が出たのがわからないけど、僕に勘違いさせて恥をかかせるつもりで嘘ついているの。奴はそういう遊びが好き」
だと思う。
多分、僕に意味のわからないことをさせて精神ダメージを負わすだけにやっている。
なに、この手の込んだイジメ。そもそも、貸したとされる1年は僕が説明しても何を言っているかわからない反応をするだろう。美術の教科書がなく我空とかかわりがなければね。
そして、この微妙なやりとりが僕にとって心の根の深潭を穿つことになるだろう。嫌だ、嫌だ。
『葡萄さんが持っていると言ったじゃないか! ちゃんと見つかるさ』
「なにそれ? 真に受けているの?」
ブドさんは僕に嫌がらせはしないが何か計略がある。
見え見えだけど。
僕にどっきりさせて精神を鍛えるとかそんなところだろうけど、見知らぬ下級生に持っているはずもない本を返せとかワケわからないやり取りをしたくない。エア子さんと狙いが似ているな……。
『ぐだぐだするんじゃないよ! 行くよ。借りた物は返してくれるのが常識だろ。満は変に気負うなよ』
もしかして、エア子さんの場合は方便ではなく、本気で1年の娘が持っていると思い込んでいるのでは……? 気が重いな、これ。
1学年の教室がクラス別に並ぶ廊下を進む。エア子さんという周りでは架空人物にしか思えない相手と会話をする。エア子さんとどうしようもない会話をして歩いているので恥ずかしいより毎度辛い。
白い目で見られるというよりかは不審者が来たというようなところだろう。変な独り言が警戒心や僕が近寄りがたい空気をだしているのだろう。なんだかごめんね。
『満! 人を避けて壁に抱きつきながら進むな! 明かりのないところをたどっているんじゃないんだぞ』
「だって、怖いじゃん」
『そんなお前を、周りがドン引きして様子を伺っているぞ』
わかっているよ、だけど、下級生の集まりだと意識するとなんだか怖い。ひ弱な上級生になにしでかすかと考えてしまうと縮み上がる。
『まったく……』
そんなこんなで、り、なんとかという娘がいるだろうクラスにたどり着く。
果てしなく気が重い。何やっているんだ? 僕は。
心臓が激しく鼓動する。吐きそうになる。が、勇気を振り絞り手汗まみれの状態でそのクラスの扉を開いた。
そういえば、りで思い出したが朝、僕を襲う女の子も『り』がついていたような……。
あっ、『る』か。
でも、関係があるようなそんな気がした……。