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この作品には 〔ガールズラブ要素〕〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エイリアン・ブレイン

閲覧ありがとうございます!

 もうすぐで、人類は終わる。

 地球は、私達のものになる。

 私達「地球外生命体」の手によって。


 ◆


 私達は、奴隷を確保するためにこの星へとやって来た。奴隷となる人間さえ捕まえてしまえば、地球そのものはどうなろうが、本気でどうでもよかった。

 この星を選んだのだって、大した理由はない。親玉が、たまたま地球に目をつけただけで。

 人間だって、特に選考基準はない。無抵抗なら連れ帰るし、抵抗するなら殺す。食べたって、あんなカルシウムと水分の塊みたいな奴ら不味いし。あと、何だっけ。「毛」? っていうのが口の中でワッシャワッシャするし。

 まあとにかく、私達にこだわりなんてものは無い。


 ◆


 そんなわけで、地球に残った人間も、あとわずかとなった。私は、人間が隠れ家にしているらしいとある研究所を襲撃していた。

 七本の触手でシェルターを破ってみると、そこには二匹の人間がいた。見た目から察するに、両方とも雌だ。面白くない。この生物には、雄と雌、ふたつの種類があり、その両方が揃った上である一定の行為を行わないと個体数を増やせないという、なんとも面倒くさい過程で繁殖していく。故に、雌だけが二匹いたところで非生産的なことこの上ないのだ。まあ、もう雄も雌もたくさん捕まえたから、今更気にする必要もないが。

 とりあえず、どうしようか。


「トニカク、ユウリダケデモニゲテ! ココハ、ワタシガクイトメルカラ」

「デ、デモ…」

「イイカラ、ハヤク! …▲〒‡%■■▼」

「…ッ!」


 二匹の人間が会話をしたあと、片方の人間は一目散に逃げていった。会話の意味はさっぱり分からなかったが、おそらくもう片方を身代わりにして逃げたとか、そんなところだろう。そういう連中を私は何度も見た。まあ、奴らは基本的に肉塊になっていったんだけど。


「ユウリガツクッタコノクスリデ、アナタタチヲタオス!」


 この場に残った一匹の雌が叫んだかと思うと、ガラス瓶に入った青い液体を一気に飲み干した。

 まさか、人間の化学力ごときで私達の種族に太刀打ちできるとでも思っているのだろうか? だとすれば、それが徒労に終わることは明白だ。


「ウッ、クッ…」


 雌の体が震え始める。


「ア、アレ? コンナハズジャ…グッ、グアオワアァァァ!」


 徐々に四肢から水分が抜けていって。


「グアァァァ…!」


 雌は、醜く変貌した。

 私は、この姿を知っている。地球視察の時に偶然観た映画に登場していた「ゾンビ」とか言うやつだ。複雑な長文までは理解できなくても、その単語が何を指すかくらいは分かる。


「グォアッ!」


 ゾンビが私の触手に噛みついてきた。まあそんなことをしたところで、こちらは痛くも痒くも…。


「!」


 いや、痛い。とてつもなく痛い。牙が皮膚組織の奥深くまで突き刺さり、何かが猛烈な勢いで流れ込んできた。


『ワタシ、ユウリノコトガスキナンダ…』

『ワタシモ…』


『コレカラモ、ズットイッショダヨ…』

『ウン…』


『コノタタカイガオワッタラ、フッコウノサワギニマギレテホウリツヲカエテ、ケッコンしよう』

『本当!? 嬉しい…!』


『この薬を飲めば、エイリアンに対抗できる力が手に入るかもしれない』

『…わかった。いざとなったら、私がこれを飲んで、悠里(ゆうり)を守る』

『でも、どんな副作用があるか…』

『心配しないで』

『…』

『はは、やっぱり悠里は温かいなぁ。こうやって抱きしめていると、勇気が湧いてくる』


『とにかく、悠里だけでも逃げて! ここは、私が食い止めるから

「で、でも…』

『いいから、早く! …愛してるよ』

『…ッ!』


 そうか、これはこのゾンビが持っていた記憶だ。それが知識として蓄積されていくことで、人間の言語も理解できるようになっていく。さっきは仲間に見捨てられたんじゃなくて、恋人を逃がしていたんだ。


 …雌が、雌を好きになる気持ち。

 存在さえもたった今知ったこの感情が、まるで昔からずっと持っていたかのように、体に染み込んでいく。


 全身から力が抜け、私は背後の壁を壊しながら倒れていった。


 ◆


芽亜里(めあり)、どこにいるの? いたら、いたら返事してよぉ…」


 声が、聞こえる。

 愛しい人の、声が。


「くっ!」


 瓦礫の隙間から、必死に手を伸ばす。不意に、手が引っ張られる。


 瓦礫の山からようやく抜け出した私の目に映ったのは、先ほど逃がされた雌。

 まさか、こんな危険な場所にわざわざ戻ってきたのだろうか。


「よかった…。心配、したんだよ…?」


 目に涙を浮かべながら、私に抱きついてくる雌。

 その雌は、先ほどに比べて巨大化していた。

 いや、違う。私は近くの水溜まりに映った自分の姿を見て確信した。

 私が、「宇津篠芽亜里(うつしのめあり)」になり、人間サイズまで体が縮小したんだ。


「あのエイリアンはどうしたの? 芽亜里が倒してくれたの?」


 そのエイリアンは、私だ。

 そう言おうとしたのに、口から出たのは全く違う言葉だった。


「…ごめん。追い払うだけで、精一杯だったよ」

「そっか…。でも、いいの。芽亜里が生きてくれているだけで。ただそれだけで」

「…」


 その彼女は君の作った失敗作の薬を飲んでゾンビになった、なんて言えなくなってしまった。

 宇津篠芽亜里の記憶に、私の行動が支配されていく。

 本来の指命を果たす気も、徐々に薄れていった。


 …このまま、彼女を騙して暮らしていくのも悪くないかもしれない。嘘で固めた人生を歩んでいく方が、楽しい気がした。どうせこの星を滅ぼしたところで、誰に誉められる訳でもない。それならいっそ…。


「…行こう、悠里。戦いは、まだ終わっていない」

「うん…。また、新しい薬作るね。私ができるのは、それくらいしかないから」

「それはもういい」


 私達は立ち上がり、互いに手を取り合って朝日へと歩み始める。

 あと何回、彼女と一緒にこの空を見られるのだろうか。

 あと何回、彼女の笑顔を見られるのだろうか。

 …何回でも、心に刻み込んでおくさ。


 君も本望だろ?


 そんな気持ちを込めて、私はそっと視線を送った。

 崩れた壁から顔を覗かせて息絶えている、元人間の少女に向かって。

どうも、壊れ始めたラジオです。


この作品で私が最も悩んだのは、オチです。

・悠里がゾンビになってしまった芽亜里を知らずに殺す

・エイリアンが芽亜里を殺して成りすます

・事故で芽亜里が死ぬ(今回はこれ)

この三択でした。


上二つの中で「読みたい!」という方がいらっしゃいましたら、アナザーストーリーとして書こうと思います。感想などもお待ちしております。


同著者作の別作品も是非ご覧下さい。

それでは。

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