あつはなついねえ。
私たち二人は付き合ってすぐ引っ越した。
といっても、前の家から五分も離れていないような場所だ。
ただし部屋の広さはかなり違う。
ワンルームというのは、二人暮らしにはあまりにも狭かった。
付き合う前は、みゆさんは居候でそのうち出て行くからと思っていたが、こんなことになったからにはそういう訳にもいかない。
幸いお互い働いている身だったので、次の家はすんなり借りることができた。
そう。
この一軒家を。
「あーっついねぇー。」
白のTシャツにグレーのスウェットの短パンという色気のない格好。
エアコンのないこの家で唯一涼しい縁側に彼女は寝転がっていた。
額には汗が垂れている。
涼しいといっても、彼女の数センチ先には人間を焼き尽くす勢いで日光が注いでいるわけで。
その彼女を正面から見つめている私はつまり直射日光の真下なわけで。
「みゆさん。」
「なに?」
「場所変わってもらえませんか。」
「やだ。」
馬鹿なことを言うでない。私は今このやけに広い庭の草むしりをようやく終えたところなのだ。
そもそもみゆさんが先に言いだしたのに。
早々に諦めるなんてあんまりである。
「どいてくれないと通れないんですけど。」
彼女が狭い縁側を占領しているせいで、私は家の中、もとい日陰に入れないのだ。
わざとしかめっつらを作り、腰に手を当てて見下ろしてみる。
眉がわずかに動いたのが見えた。
「わーかったわーかった、そんな怖い顔しないで、ね?」
おどけて立ち上がり、そのままくるくると回りだした。
自由にもほどがある。
滴る汗をタオルで乱雑にぬぐいながら、家の中に入った。
もう汗だくだ。シャワーあびたい。
そう思いTシャツの裾に手をかける。
「…あの。」
みゆさんがこちらを凝視している。
目をこれでもかと見開き、微動だにしない。
よくわからないまま立ち尽くしていると、彼女が私の胸に飛び込んできた。
「え、ちょっ!?」
すんすんすんと匂いをかいでいる。
「あの、臭いですから…。」
耳が熱くなっていくのがわかる。血液が沸騰しそうだ。
私が固まっていると、みゆさんはばっとこっちを見上げた。
柔らかい笑顔。
「りりちゃん、草むしりお疲れ様!」
「…もう。」
そんなこと言われると許しちゃうじゃないか。
私は彼女の頭を思いっきりわしわしした。