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エルフと屍人の戦力は拮抗していた。屍人は生物にならどんな生物にもかけられているリミッターが存在しない。それゆえに彼らは100パーセントを超える力で殴りかかってくる。通常ならばそこで筋肉が崩壊し、痛みに悶え苦しむだろう。しかし、彼らはすでに死んで考えることも感じることもやめた者たちだ。壊れた四肢など気にする素振りも見せず、逆に武器として振り回してくる。
力だけではエルフは分が悪い。しかし、屍人は魔法が使えないらしい。前衛が力で押されつつも、動きを制限させ、後衛がその隙きに魔法を詠唱し吹き飛ばす。
こうして力と知恵の戦いはどちらも引かず、戦局は長引いていた。しかし、戦況はエルフ達が押されている。
なぜなら、エルフは傷つけば動きは鈍り、命を落とせば数も減る。逆に屍人は頭を落とさぬ限り動き続け、エルフから屍人に変わる数はどんどん増えていく。
つまり、いつ力のバランスが崩れてもおかしくないのだ。
シンビやアルフォートなどの先鋭の働きによりなんとか現状を保っていられるが、中には新兵もいる。どこに導線が隠れているかもわからぬ窮地にシンビの顔にも焦りが見えていた。
「いいですね。頑張りますね。もっと私を楽しませてください」
焦りながらも好機を見いだすために粘り奮闘するエルフ達の前に、今回の騒動の原因である龍魔道士のマキシがどこからともなく現れた。しかも、戦場には場違いな豪華に飾られた椅子に座った状態で。
「ぐっ」
エルフ達は怒りに歯を鳴らす。
「くそがぁ!」
「まて!」
シンビの声も空しく、一人の兵士がマキシに向かって突進を仕掛ける。
「死ねえ!」
その兵士が振りかざした剣には風が纏い、渦を作り出していた。
遅延魔法台風の目。
指定した触媒が物に触れることをトリガーに発動する魔法だ。効果は触れたものを中心に巨大な竜巻を起こし、辺り一面を木っ端微塵にする。頭に血が上ったせいか、敵味方関係なしにダメージを与えてしまう魔法を全力でぶつけていった。たしかに見方に対する被害の度合いを鑑みて、バカな発想だと思われるかもしれない。しかし、これが当たれば目の前の恐怖でさえただではいられない。それさえ達成できればいい。そう兵士も思っていた。
しかしー
「美しくないですね~。そんなちんけなことしか考えられない貴方の気軽さに嫉妬してしまいます」
マキシが指を鳴らした瞬間にその兵士は爆散した。
マキシは鼻を鳴らしながら、汚物を見るような目でエルフ達を一瞥して、苦言をこぼす。
「こんな屍人に苦戦してる貴女方が私に触れられるなんて夢を抱かないでくださいね。無知蒙昧すぎて嫉妬してしまいますから」
この無尽蔵に産み出される成分兵器がおもちゃ。その言葉にシンビまでもが絶望を心のなかに抱いてしまった。
(もうダメか)
シンビが心のなかで降伏を宣言し、自分の最後を覚悟した。そんな時だった。
「おいおい、酷い有り様だな」
ふざけた口調でとばされる罵倒。兵士たちの視線が集まるところには異様な四人組がいた。総司たちである。何が異様か。それは総司、グリズベア、マック、サルゾ、それにエレノアールまでが顔をわずかに赤らめ、総司の手には酒瓶が握られていたのだ。
((はあ!?))
エルフ達の怒りの言葉が心のなかで共鳴した。
「よーし、作戦の復習だ」
そんなエルフたちの怒りなど知るものかと敵前だと言うのに円陣を組始めた。ボソボソと何かを話す総司に何度が頷く他の面子。そして、話し終えて再度訓練所を見渡す総司たち。その顔にはなんとも意地の悪そうな笑みが張り付いていた。エレノアールだけは総司の背中を不安そうに見つめている。
「んじゃ、やりますか」
「「「おう!」」」
総司の号令に、一斉に戦地に飛び込むグリズベア、マック、サルゾ。そして、エルフを殴り飛ばしたのだ。
「なっ!?」
エルフの兵士たちに動揺が走る。自分達の味方であるはずの王女が連れてきたの男が味方に手をあげたのだ。信じたものに裏切られた瞬間だった。
「邪魔だ長耳。そとで寝てな」
グリズベアはそう叫びながらエルフを蹴り飛ばした。マック、サルゾもエルフを基本的に攻撃する。だが、エルフと交戦していた屍人も装備していた爪で切り裂いていった。
その行動には矛盾が生じているのでは?と混乱するエルフ達。そんな中、その行動の意味することをいち早く察知したのはシンビだった。
(新兵から順に殴り飛ばしている。まるで戦闘から遠ざけるように)
「○○!ここ、少し任せますよ」
「あとでうまい酒奢れよ!」
相棒に前線を任せ、シンビはエレノアールの元まで走り抜ける。
「シンビ。よかった。無事だったのね」
「お嬢様もよくご無事で。それよりも、彼らは何を狙って」
「よくわからないわ。でも、サクマはとにかくあの岩より後ろに兵が来るようにしろと。それより前には出るなと」
「ふむ」
何か策があるのか。それとも、自分達をはめるための罠か。シンビは考察すると同時に総司を一瞥する。
総司は屍人を倒しながら数名の騎士と話していた。
(考えても仕方ない。本人に直接聞くか)
シンビはエレノアールに一礼すると素早く総司の元に跳んでいく。丁度、騎士と話し終えたあとで、総司は後ろから迫る屍人に蹴りを入れながらシンビに手を振ってきた。
「ちょうどよかったメイド長」
「何をするつもりなのにですか」
単刀直入に聞くシンビ。総司は面倒そうに髪をかきながら答えた。
「詳しくは言えんが、俺の取って置きのひとつを使う。広範囲魔法のような物だと考えてもらってかまわない。だから、邪魔者は敵味方関係なしに排除してる。そこであんたに頼みなんだが、姫様と連携して、岩より向こうで防御陣営を組むよあに兵士どもに指示してくれ。頼む」
「了解いたしました」
次は質問が飛んでくるのだろうと覚悟していた総司は意図も簡単に了承するシンビに目を丸くした。
「何故、そんなに驚かれているのですか」
「いや、もっと疑ってかかるものかと。せめて何をやるのか教えろとかの質問がくるもんだと」
シンビは真面目な顔のまま、当たり前のようにいった。
「貴方は信じていませんが、私はお嬢様を信じていますので」
「・・・カッコいいね、あんた」
「メイド長ですので」
そして、シンビは母性に満ちた優しい微笑みを向けて、総司に一礼をする。
「それにあなたのそんな顔を見れたので私は満足です」
(一枚取られたな)
総司は苦笑しながら、肩をすくめる。走り去るシンビの背中を見送ると後ろから近づく気配に視線を向ける。
「何を考えてらっしゃいますか」
マキシは手に持つエルフたちの首でお手玉をしながら、不思議そうに首をかしげる。
「この世界を滅ぼすことが我らが神のお望み。このおもちゃ箱を絶望で満たすことこそ我らの使命。それなのにあなたは何故こんな無意味なことをしてらっしゃるんですか」
マキシの手の中で遊ばれる首を蹴り飛ばしながら、首を鳴らしマキシを見る。
「俺は欲張りなんだよ。欲しいものは全部、手に入れたいんだよ。理由なんてそれだけで十分だろ」
「ふふふ、それを許されると思うあなたに嫉妬してしまいます」
「何だやるのか」
「あなたが全力を見せてくれるなら」
「はははは」
「くふふふ」
その後、まるで何かで弾き飛ばされたように二人は後ろに飛んで距離を開ける。
「アルくん、アルくん。持てるだけ人数持って姫様のところ飛べ」
「私に命令するな。何様のつもりだ」
「愚問だ。これ以上時間を作ってやるつもりはない」
総司は義手と右腕を担うアストレアにそっと手を添えると、その手は小さな音を立てて片手剣に姿を変える。柄を掴むと縦横無尽に駆け回り、屍人の首を跳ね飛ばす。マキシはそんな総司の行く手に阻もうと魔法を放つがヘルバがそれを打ち消すように仕込み刀を振る。苛立つようにマキシは杖を振る。エルフの中でも\上位者であるヘルバでさえ反応できない速度。絶対絶命を察知したヘルバ。目を閉じて覚悟を決めるヘルバだったが、それをあざ笑うかのように総司がその頭を掌法を使いどつく。その衝撃で地面を転がるヘルバは総司の顔をみる。意地悪な笑みを浮かべる総司はマキシに蹴りを放り込みながら、マキシに話しかける。
「何浮気してんだ。よそ見されると嫉妬しちまうぞ」
「先に浮気したのはあなたのはずですが」
「それを許す器量のデカさ見せろ。それがいい男の条件だろ」
「ん~、その発言も嫉妬してしまいますね」
マキシもよだれを垂らしながら、口をパッカリと開ける。きっと笑っている。
「くふふ、面倒ですね。これはどうですが」
幾重にも魔法陣がマキシの周りを取り囲む。そして、炎、水、雷と多種多様な魔法が戦場に放たれた。どれもが、無詠唱のためにどれも簡易で威力もそこまで強いわけでもないが、それを防ごうとしても属性の違いが邪魔をしてくる。
しかし、総司は片手剣でも簡単にその魔法を弾く。
「もう頃合いだな」
総司はおもむろに振り向く。そして-
総司は後ろに控えるエルフたちの首をはねたのだ。
残酷に、鮮血がその事実に賞賛の万歳を合唱する中、総司は眼帯を掴み投げ飛ばす。
閉じられていた瞳が赤き羨望を覗かせたのだ。




