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「そこまで!」
野太い声がコロシアムに木霊する。その声に気を取られた一瞬で総司は人種、獣族と数名のエルフ族の兵士に囲まれる。ヒューマンにウルフマン、それに数名のエルフが其々の武器で総司の急所を抑える。
「なんだあんたら」
「敵じゃねぇから安心しろ坊主。とりあえず武器しまっちゃくれねぇか」
「・・・人に指図すんなら自分から手本を見せるもんだろ」
「そりゃそうだ」
リーダーと思われるウルフマン、ジョン・ベルフは喉元に突き付けた青龍刀をすっと下ろす。それを合図にそれ以外の兵も武器を下ろした。
「興ざめだアストレア。戻ってくれ」
『yes、mymaster』
そうしてアストレアはまた白煙をあげながら総司の左腕へと戻る。
「あんたらに主様からお話があるそうだ」
そう言うと兵たちが道を作る。
「ひどい有様だなアルよ」
「スウォン様」
そこには丸に近い体系の一人のエルフが立っていた。少し寂しさを感じるその頭部には王冠が光り輝いている。
「この勝負、私が預かってもいいかな」
スウォンと呼ばれる男はにっこりと有無も言わさず笑みを浮かべ二人の間に割って入った。
「スウォン伯父さま!」
エレアノールがその男性に向かってタックルに近いハグを決行。その男性はごろごろとコロシアムを転がる。
「ははは、エレナはまだまだお転婆だな」
「伯父さまもお元気そうでなによりです」
いきなり出てきたエルフに置いてきぼりにされた総司を助けるようにシンビが説明をし始める。
「彼の方はスウォン=デイジー様とおっしゃり、隣国の王であり、本日来賓される予定の我が主のご友人です」
「ふ~ん」
エレアノールとじゃれ合うその姿は一国の王とはとても思えないものだった。一通り、エレアノールとの雑談が終わるとスウォンは総司たちのもとへ来る。
「すまんな。折角の模擬戦を中断させてしまった。若い者が切磋琢磨しているところに大人が口を出すのは不躾だとわっているのだが、どうもお節介でいけないな。これも歳だろうか。まぁ、そんなことはどうでもいい。この決着は不満か?」
「いえ、そんなことはありません」
ダムから流れ出る水のように紡がれたスウォンの言葉にアルフィードは膝をついて同意を示す。それほどの地位の男なのだろう。総司はその相貌を下から上へ舐めるように眺める。しかし、どう見たって中年太りのご近所さんという感じだ。
「能ある鷹は爪を隠すとはよくいったものだ」
「ふむ。君がメイドの噂していたエレナの拾い物かな」
総司がスウォンの査定をしているとその視線に気づいたスウォンが総司の前に出る。
「拾い物っていうか俺らが拾った感じだ」
「何を適当なことを!」
「お嬢様は先ほどから落ち着きを持ってください」
「きゃん!」
シンビに叩かれ涙目になりながら下がるエレアノール。それを満足げに眺めるスウォンに総司は話を続けるように声をかける。
「で?隣国の王様が俺ごとき平民に何の様だ」
「そう急かさないでくれ。噂に名高い片翼が目の前にいるんだ。もう少し話を楽しもうじゃないか」
「・・・・・・」
「ははは、そう警戒しないでくれ。私のもとには獣族の者も多くいるのでな。話によく出てくると言うだけで本当に話をしたいだけだ」
「さいですか」
ピンと張りつめた緊張感が一瞬にして緩み、総司は急にフレンドリーな態度に変わる。
「で、スウォン様は何故こんなところに」
「こんなところとは」
「ここは兵たちの訓練所だろ?あんたのような人が来るところじゃないだろ」
「さっきも言ったがあんたが来ているとうちの奴らが騒いでいててな」
「そっか。でも俺が話せることなんてそうそうないぞ」
「そうか。しかし、その義手・・・」
スウォンの視線が左腕に向けられた途端に苦笑いを浮かべる総司。
「やっぱり、気持ち悪いっすかね」
「そんなことない。良い腕だ」
スウォンはにんまり笑い総司の左腕を眺める。
「これは私の理想を体現したような腕だ」
そう言いながらどこか寂しげな笑顔で空を見上げるスウォン。総司もそれにつられ視線を空に向けた。
「私は獣もエルフも人もどれも等しくあってほしいと思っている。しかし、すべての種族が全ての種族を見下している。それがどうにも嫌でな」
「・・・・・・」
「その腕では三種族の技量が詰められている。見ればわかる。私もいつかその腕のような国を作りたいものだ」
「主様。そろそろ」
ジョンが二人の後ろから声をかける。
「おお、もうそんな時間だったか」
スウォンは立ちあがると満足そうに笑い、総司に手を差し出す。握手を求められているのだと少し遅れて気付く総司は急いでその手をとる。
「なかなかに有意義な時間だった。また話そう」
「こちらこそ。ぜひともお時間をいただければ」
「ははは。約束だぞ」
その後、総司はエレアノールに手を取られ訓練場から去っていくスウォンの背中をただ静かに見送るのだった




