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ゼタとシグ4


 ティタンは皮袋を見ながら筆頭に近付いた。


 「シャーロスやディオ、他の者達も無事だろうか?」

 「神君もカステヤノンの狙いの一つだったのでしょうが、湧水の魔法戦士に庇われた筈です」


 筆頭の言葉にティタンは此処に来る途中で見付けた湧水の死体を思い出す。


 「途中で死体を見付けた。恐らくソイツだ」

 「少なくとも霧に飲まれたのは我々だけです」

 「そうか、なら良い」

 「敵対しても、あの方の事を気にしておいでですか?」

 「……単純に割り切れる問題じゃない」


 筆頭の探るような言葉にティタンは曖昧な言葉を返した。事実、そうだった。


 「それよりももっと具体的な話を聞きたい。アッズワースに戻る為に、どうすれば良い」

 「私を信じて下されば、必ずや」


 決意を秘めた目で筆頭は言った。妙な物を感じたティタンはより詳しく質問する。


 「……そもそもマトやカステヤノンは、俺達を此処に引き摺り込んで何がしたかったんだ?」

 「あの時、儀式は完璧ではありませんでした」

 「完璧でない? 俺達はカステヤノンにしてやられたようだが」

 「箱は全部で五つです」


 筆頭は自らの持つ皮袋と、その次にゼタに視線を遣る。ここにある小箱は四つ。最後の一つは今もパシャスの神殿にある。


 「マトに関係する文献を探る内、ある程度儀式の内容を知る事が出来ました。

  小箱はそれぞれが頭と四肢、そして生贄となるカステヤノンが胴の役割を担い、マトの寄代となる筈でした」

 「成る程、此処には四つしかない」

 「マトは手が足りないながらにティタン様を殺す方法を考えたのでしょう。その結果が今の状況で、しかし小箱の内一つだけが思い通りにならなかった」


 ゼタの娘、シグが閉じ込められた箱。

 小箱の内、それ一つだけが異彩を放っている。


 「話は分かった。……忌々しいが、小箱の力を用いれば、此処から抜け出せるのか?」

 「恐らくは」

 「じゃぁゼタを起こすぞ」

 「それは不可能です」


 目を細めるティタン。筆頭は寝かされたゼタを見下ろしながら続ける。


 「彼女は小箱と長く、密接な関係を持っています。ゼタが闇を操ろうとそれに近付く時、闇もまたゼタを操ろうと狙っています。この場合は、マトが」

 「……カステヤノンは小箱に触れる内に正気を失ったと聞く。今のゼタがそれだと?」

 「恐らくはシグがゼタを守る為に眠らせているのでしょう。

  どうやらシグは稀な力の持ち主です。本来は呪いその物として悶え苦しみながら人々を死に誘う魂が、呪いと分かたれそれに抗おうとしている」

 「しかし他に手は無いだろう」

 「マトはカステヤノンを通して既に力を振るいました。何の備えも無くゼタを目覚めさせれば、マトに支配されるでしょう。

  私ならばそれに対する備えがあります」


 面倒な話だ。ティタンの苦手分野だった。

 雄叫びと共に鋼鉄を叩き込むのがティタンの得意分野だ。魔道と言うのはどうにも回りくどい。


 しかしそれも今更である。そういう物かと納得するしかなかった。


 「話は分かった。では」

 「小箱は私が」

 「やれるのか?」


 筆頭は小さく頷き、先程と同じ目をした。


 何度か、見た事のある目だ。純粋無垢な、何もかも信じきったような目。

 昔こういう奴等が結構居て、そしてそいつらは……。

 ティタンは思わず仏頂面になる。


 「嫌な目をしてる」


 小箱の呪いの力は尋常の物ではない。魔道に精通し、クラウグス各地の邪悪な霊達に対処する湧水の魔法戦士ですら、小箱の力に抗えず無残な屍を晒している。

 更に此処はマトの領域でありパシャスの加護は届かない。


 筆頭は怯まなかった。きらきらと輝く目をティタンに向け、言ってのけた。


 「ティタン様の命、お預かりしとう御座います」

 「小箱の力は強い。お前は大丈夫なのか? ゼタも、幾重もの備えをして漸く小箱を扱っていた。

  お前にはマトへの対策はあっても小箱への対策は無い」

 「何としてもアッズワースに戻らねばなりませぬ」

 「それは質問の答えにはなっていないが……」


 ティタンは筆頭に握り拳を差し出した。


 「仕方ない状況ではある。……お前とは結局一年もの間共に戦った。今更疑う物か。

  お前に任せる」


 筆頭は唇を噛み締めた。ティタンのそれと打ち合わされた筆頭の拳は、微かに震えていた。



――



 「私の五歩前を。そして何があっても振り返ってはなりませぬ。

  私以外の誰が貴方を呼んでも応えてはなりませぬ。貴方の目に何が映ろうとも追ってはなりませぬ。

  脇目も振らず、ただ前へと御進みください」


 邪悪な神殿の最奥部へと至り、ティタン達は其処に洞窟を見付けた。

 最奥部の祭壇には何の物なのか検討も付かない異形の頭蓋が並べられており、猛烈な圧迫感を感じさせる。


 その更に奥にぽっかりと開いた洞窟は、全く光の入る余地の無い暗闇だ。

 状況も相まって酷く恐ろしげだった。地獄に続いていると言われても信じただろう。


 「どうぞ」


 ティタンは担いだゼタをしっかりと支え、洞窟へと踏み入った。

 光が届かなくなるのは本当に直ぐだった。右も左も低いも高いも分からない暗黒の中、筆頭の言葉を信じてただ前へと進む。


 足からは異様な感触が伝わってくる。奇妙に柔らかい何かを踏む時もあれば、硬くも脆い何かを踏み砕く事もある。


 寒いのか、暑いのかも分からなくなる。目を開いているのか、閉じているのかも。


 「……!」


 唐突に足を掴まれ、ティタンは歯を食い縛った。

 何かの気配は常に感じていた。心構えは出来ていた。


 「御心配なさらず」


 筆頭の声が聞こえた。彼女がぼそぼそと呪文を唱えると、ティタンの足を掴んでいた何かから急速に力が失われ、やがて離れた。

 離れ方すら妙に未練がましく感じた。ティタンは更に足を進める。


 「進むぞ」

 「はい」


 妨害は続いた。殆どは嫌がらせのような物だった。筆頭が操る小箱の力を突破できずにいるのだ。


 筆頭の苦しそうな息遣いが聞こえる。

 無事か、とティタンは彼女を気遣った。思えばそのような遣り取りですら、この一年で稀であったように思えた。


 ティタンはいつも、皮肉混じりであったから。


 「御心配……なさらず」


 先程と全く同じ言葉を筆頭は返した。


 「ティタン様、私は、……後悔しておりません」

 「何の話だ」

 「パシャス様に、そしてティタン様に御仕えした事をです」

 「急にどうした?」

 「人形と、そう仰られたのを思い出しました」


 ティタンは思わず苦笑した。そう言えば一年前、パシャスと言い争った自分を追い、この巫女は酒場に現れた。

 その時は苛立ちのままに随分な言葉を投げ付けた物だった。


 「意外と根に持つんだな」

 「ふふ」

 「撤回する。俺が悪かった」

 「……はい。私の感情は……、私だけの物です」

 「苦しいのか」


 沈黙。

 ティタンは激しい耳鳴りを感じた。そして肩に感じる重圧。


 ティタンはゼタを背負っているが、それがずしりと重みを増したように感じる。

 明らかにゼタのみの重さではなかった。


 「……御心配、……なさらず」


 もう幾度目になるだろうか。筆頭は呪文を唱えた。ティタンに掛かっていた重さが掻き消える。


 筆頭は何事も無かったかのように雑談を振る。


 「しかし……我らももう少し考えねばなりませぬ」

 「何をだ?」

 「……日頃の振る舞いで御座います」

 「あぁ……まぁ、なんだ。アバカーンの事なら、奴はあれで良いような気もする」

 「言っても直らないと言うのもまぁありますが……。彼女だけでなく、他の者も。

  スワトは妙に……人を挑発する事がありますし、ファロは本当を言えばもっと色々と遊んでみたいのでしょう……役目を疎かにするようになりました。タボルは落ち着いていますが……過保護に過ぎる……所があります」

 「的確な人物評だな。意外とお前達は、お前達の主に似たのか、情が強い」

 「そして私は……」


 ティタンは鸚鵡返しに聞いた。私は?


 「……心根が卑しい」

 「そうか?」

 「そうです」

 「そうだったか」

 「はい」

 「そうは思っていなかった」

 「私は……」


 暫し、沈黙。闇の中を進む。


 「私は、色々な物が羨ましくて」

 「……意外だな、パシャスに寵愛されし巫女が。人々はお前をこそ羨むだろうに」

 「例えば、オーメルキンが。例えば、貴方の中の、アメデュー・ウルが」

 「止せ」


 会話の途中ふと暗闇の中に人影を見付ける。

 有り得ない事だった。完全な闇の中で、物が見える筈も無い。


 その人影は無数に居た。暗闇の中に薄らと浮かび上がり、思い思いにあちらこちらと歩き回っている。


 ティタンはそれらに視線を遣らず真直ぐ歩き続ける。

 すると人影達はティタンを見咎め横に並ぶようにして歩き始めた。


 嫌らしくティタンの顔を覗き込んで来る。マントの裾を引っ張ったり、足を引っ掛けて転ばそうとしてくる者も居る。

 『見えるんだろう? 気付いているんだろう?』そう、言いたげだった。

 されている事は子供の悪戯のような物だが、それとは裏腹に猛烈な悪意を感じた。


 「ティタン様……御心配なさらず。触れさせ……ませぬ」

 「取るに足らない奴等だ。気にしていない」

 「……は」


 筆頭の息はどんどん苦しげになっていく。

 ティタンは歯を食い縛った。堪らなかった。


 「俺は自分の事を優れた戦士だと思っていた」


 筆頭はティタンが何を言いたいか分からないようで、次の言葉を待っている。


 「誰にも負けぬよう鍛え、誰にも負けぬよう戦ってきた。敵の習性や弱点を調べ、工夫もした。

  だが俺は今、無力だ。……お前の為にしてやれる事は無いのか?」


 筆頭は答えなかった。その時を境に敵の妨害が激しさを増したせいもある。


 闇の中から青白く光る腕が無数に伸び、ティタン達をあの乾いた世界に引き摺り戻そうとしてくる。

 ティタンは唸り声を上げそれらを振り払った。足腰や肩を掴み、首を絞め、耳を引き千切ろうとする手、全て強引に。


 筆頭が更に大きな声で呪文を唱える。妨害を退け、ほっと一息着いた時、遥か遠方に微かな光を見付けた。


 「光が見える」


 口に出して言った途端光はその強さを増した。自身の輪郭すら見えなかった暗闇が薄れ、はっきりと足元が分かる程になる。


 「切り抜けました……此処まで来れば」

 「振り向いても良いか?」

 「お止め、下さい」

 「まだ駄目か」

 「そういう訳では……。ですが」


 ずしゃり、と崩れ落ちる音が聞こえた。背後からだ。


 「私も……女です。ティタン様にだけは……見られたく……ありません」

 「おい!」

 「振り向かないで!」


 何が起きているのかとっくの昔に分かっていた。ティタンは小箱がどのように人を殺すのかその一端を垣間見ている。


 蜘蛛の巣状の蚯蚓腫れに冒されたロールフ。

 全身に亀裂が走り血と膿を溢れさせた湧水の魔法戦士。

 パシャスの加護が届かぬ領域で、彼女だけがそれから逃れられる筈もない。


 「ティタン様!」

 「応ッ」

 「私は……、結局、……私の名は……!」


 筆頭の願いに応え、ティタンは振り向かないし、彼女の元に戻る事もしない。

 ただ立ち尽くし、彼女の言葉を待つ。


 「ですが、一年前申し上げた通りです。貴方と共に戦い、同胞を守る。

  これが私の戦いです。これが私の選んだ生き死にです。

  これが私の名誉と栄光です。これが私の誇りその物です。

  どうか、我が願いを汲んで下さるのならば……」

 「言え! ヴァン・カロッサ、宣誓に懸けてそれに応える!」


 筆頭は掠れた声で唸り、小箱の力を解き放った。


 「マトに、シンデュラに、……勝ちたもう……!」


 闇が払われていく。遥か彼方に見えていた光が猛烈に勢いを増し、ティタン達は眩いばかりの空間に取り込まれた。


 平衡感覚を失い転倒したと思いきや、奇妙な浮遊感。


 次に目覚めた時、ティタンは水の中に居た。



――



 其処はパシャスの聖域だった。薄暗い部屋の中に清き水を湛えた祭壇。

 ティタンはその中に身を浸していた。ぼんやりと天井を見上げ、何があったかを思い出す。


 視線を下げればパシャスが顕現していた。彼女は宙に漂いながら裸体を惜しげも無く晒し、アリバスの朱衣に何かを包み、それを慈しむように抱きかかえ、撫で擦っていた。


 『おぉ、おぉよしよし』


 それが筆頭巫女である事は明白だ。パシャスはティタンが目覚めた事に気付くと流し目一つ、にこりと微笑んで再び筆頭を撫でる。


 『よくやった、我の娘よ、愛しい娘よ。辛かったろう、苦しかったろう。

  安らぐが良い。何も案ずる事は無い。お前を冷徹なばかりのウルルスンになど任せはせぬ。

  あぁ、実によく戦った。おぉよしよし』


 ティタンは立ち上がる。膝ほどまでの水深の祭壇を進み、パシャスと相対する。


 「パシャス」

 『ティタン、お前もよく無事に戻った。あのゼタと言う者も、マトと戦うには有用だろう』

 「パシャス、そいつは俺を守る為に死んだ」


 パシャスはぎゅう、と筆頭を抱きしめ、フードに包まれた頭に口付けを落とす。


 『まさか、我がそなたを恨むとでも?』


 ティタンは沈黙を返した。


 『我のこの可愛い娘は、己で選んだ道を生き、納得して死んだ。最後まで美しく。

  あのロールフと言う生意気な小僧と同じだ。その渾身の生き様が、ただただ愛おしい』

 「……あぁ、そうだな」


 死に顔を見せてくれとは言わなかった。筆頭は見られたくないと言っていた。


 「俺も、そう思う」


 パシャスはゆっくりと降下し筆頭を抱いたまま祭壇の縁に腰掛けた。

 たゆたう水に足を投げ出し、ティタンに命じる。


 『ティタン、最早お前も、我が嫌いだ何だと言っている場合ではない』

 「……俺達が居ない間にどうなった?」

 『まず、お前達がマトの領域から脱出するのにかけた時間は三日だ』


 三日。そこまで長居はしていない筈だが、アッズワースではそれ程の時間が流れていた。

 大きく遅れを取った。ティタンは奥歯を噛み締める。


 「シンデュラが現れたと聞いたが」

 『我は奴と戦い追い払った。だがその隙に要塞は好き放題にされてしまったよ。

  レイスや汚らわしい魔物達が跋扈し、沢山死んだ。今は静けさを取り戻しているが一時的な物だ。

  北に向かった戦士達も、撤退を余儀なくされた』

 「……マト、そしてシンデュラ。奴等には即座に戦いを挑まねばならない」

 『当然だ。そして好機は依然ある』


 ティタンは首を傾げる。


 「詰まり?」

 『お前達を飲み込んだ闇の洞穴が未だ残っているのだ。クアンティンの小僧が、今やマトの手勢の出入り口となった穴を逆襲に使おうと確保している』

 「矢張り彼も生きていたか。……パシャス、アンタは彼に思う事は無いのか?」


 シャーロスが全て黙っていたことについてだ。パシャスは激怒しても不思議ではない。


 『無い』

 「何故?」

 『我はあの小僧とアッズワースを守る誓約を交わした。必要とあらば協力し合う事もある。

  だがアッズワースを守るのは、結局の所我の力、我の愛だ。あの小僧に何くれと頼む気は元から無い。

  此度のこれは、我の怠惰と無力が招いたのだ』


 とんでも無い言い草だった。パシャスにしてみれば寧ろシャーロスの方が部外者らしい。もっと言ってしまえば、アッズワースはクラウグスではなくパシャスの縄張りと言う事か。


 そなたこそ、もっと怒って良いのだぞ?

 ティタンが変な顔をしていると、幼子を嗜めるようにパシャスは言う。


 「怒りはある。だが今となっては、俺もアンタと同じだ。俺は剣さえあれば如何なる敵も打ち破れると思っていた」

 『ティタン、人と言うのは何でもは出来ぬ。だから誰もが己の使命に殉じる』

 「俺の使命か……ふん」


 分かっている。もう十分だ。ティタンはマントと鎧、そして服を脱ぎ、パシャスに裸体を晒した。


 「パシャス。今となっては虫の良い話かも知れない。だがマトとシンデュラを打ち払うため、俺は更なる力を欲している」

 『ティタン、お前も我の愛しい子。それが正義の為に戦うとあらば、どうしてその願いを退けられよう」


 ティタンはアリバスの朱衣に包まれた筆頭の遺体に視線を遣る。


 「ソイツと約束した。マトとシンデュラに、勝利する。死者との誓いは果たされなければならない」

 『この子も喜ぶ』

 「力を貸してくれ」


 パシャスはにやりと笑った。



――



 その日、クラウグスの至る所、清き水の流れる全ての場所でパシャスの声が響いた。

 それはパシャスの権能である水を通して行われた。町も山野も関係なく、女神の命令は正にクラウグス全土を揺らした


 『我を信じる者は北へ集うが良い!』


 噴水、川面、水瓶にまで、パシャスは顕現した。

 濡れた黒髪を揺らめかせる自信満々の姿に人々はどよめいた。


 『このパシャスの名の許に、北の盾アッズワースの名の許に!』


 各地に散らばるパシャスの信徒達は即座に最低限の準備を終え、半日以内に旅立つ。

 彼らは夜を徹して進む。驚くほどの速さでアッズワースに集結するだろう。


 『戦え! クラウグスよ!』



 ティタンはパシャスの声を雪の降り積もる神殿屋上で聞いていた。

 周囲にはパシャスの巫女達や多くの信徒達が跪いている。


 頬に傷を作ったアバカーンの報告はパシャスに聞いていたよりもずっと酷い物だった。

 要塞の防衛体制はずたずたに引き裂かれ、将校にも多くの死傷者が出ている。


 何より拙いのは要塞司令ペルギスの死亡だ。要塞にレイスが溢れかえった当初の混乱の最中、アングイビが彼の妻に成り代わり、そして彼を殺した。

 頭を潰されて戦える生物は少なくともクラウグスには存在しない。


 カステヤノンはティタンやシャーロスが思うよりもずっと周到に準備を進めていた。

 何もかも、敵に遅れを取っていた。


 「敵は勝った気で居るんだろうな」


 ティタンは雪の降る曇天を見上げながら呟く。


 北に向かった戦士達は酷い損害を受けながら撤退した。


 要塞に現れたシンデュラは始めこそパシャスと熾烈に戦ったが、要塞内にマトの手勢が溢れると即座に北へと逃げ去った。

 そして北の監視塔で戦っていた戦士達を餌食とした。バシャー家のイヴニングスターが殿を勤めたらしいが、未だに多くの戦士が戻らない。

 ディマ本人も未帰還だ。彼の気性を思えば死んでいると思うべきだろうか。


 ヴァノーランは半数を失った。アーマンズが居なければ全滅も有り得た状況だったと言う。

 彼らは激しい怒りに燃えている。いつも通りだ。報復の為に、命を惜しむまい。


 「確かに状況は悪い」

 「しかし、まだ負けてはおりませぬ」


 平伏しながら応えたのはアバカーン。その隣でスワトが続ける。


 「勝ちたもう」


 そうか、とティタンは言った。この巫女達には筆頭の声が聞こえたのだろう。


 「勝ちたもう」


 ファロが、タボルが続けた。多くの信徒達が懇願するように続けた。

 肩に雪が降り積もっていく。

 勝ちたもう、勝ちたもう。その言葉と共に、背筋に震えと熱が走る。


 マトに、シンデュラに、勝ちたもう。


 「Woo Van」


 ティタンは静かに唱えた。

話の展開の順番を変えたら、サブタイにそぐわなくなってしまったので、サブタイを考え直そうと思います。


ゼタメインはちょっと後回し。

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