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もう逃げねぇ2


 兵舎のベッドに横たえられた男は歯を食い縛り、目を見開いて天井を睨みつけていた。


 「力を尽くしたが……間に合わなかった。騎士ルーメイアは荷を守る為に勇敢に戦い、勇敢に死んだ。……彼女の事を知らない俺が言っても白々しいばかりだが、任務の為に命を奉げた騎士の姿に、敬意を払う」


 海を越えてやってきた者達、ハルターリア人の特徴とされる黒髪と白過ぎる肌を持つ男。バルド、それが彼の名だった。歳はまだ二十を越えたばかりであろうが、他と比べて大柄な肉体は入念に鍛えこまれている。

 ゴブリンとの戦いで散った騎士ルーメイアと師弟関係にあり、彼女の元で学び、鍛えていたと聞く。余程強い結びつきがあったようで、ルーメイアを失ったバルドは目に見えて打ちひしがれていた。


 ただの師弟ではないな、とティタンは感じた。バルドには確かにルーメイアへの愛があった。いつもは他人の事なんて気にも留めないくせに、ティタンは敏感にその感情を察した。


 「こんな……馬鹿な事が……」

 「……騎士ルーメイアの遺言を伝える」

 「……彼女は……何て?」

 「『強く生きろ』と。騎士ルーメイアは神々や祖霊への祈りではなく、お前を思う言葉を遺した」


 バルドは手で顔を覆い、身体を震わせた。涙を堪えているのだと容易に想像できた。


 「ルーメイア……俺は……」


 ティタンは何も言わずに部屋を出る。この男にも、一人で泣かせてやるくらいの情けはある。

 出て直ぐの場所でオーメルキンが皮袋を抱き抱え、緊張した面持ちでティタンを待っていた。


 「お、お、終わった? こ、これ、早く返しちゃおうよ」


 オーメルキンは悲鳴に近い声を上げた。彼女がしがみ付くようにして抱える皮袋の中には金貨が詰め込まれている。それを持っている事が不安で、さっさと手放してしまいたくて堪らないのだ。


 「もっと堂々としろ。それじゃ悪事を働いてるみたいだ」

 「わ、分かった。……あのさ……間に合わなかったね」


 騎士ルーメイアの事を言っているのは明らかだった。良く知りもしない赤の他人の事を、オーメルキンは偲んでいた。


 オーメルキンは深呼吸する。アッズワースでは人死にはそう珍しくも無い。ここは魔物との戦いの最前線だ。

 誰も彼も大なり小なり命懸けで、オーメルキンもその事は承知していた。しかし自分がいざ戦いの場に踏み出してみると矢張り思う所があるらしい。


 「お前にもいつかその時が訪れる」

 「え?」


 ティタンは平坦な口調で告げた。余りに唐突だったからか、オーメルキンは気の抜けた顔で聞き返す。


 「当然の事だ。戦士でも、職人でも、商人でも、いずれ死ぬ時が来る。戦っていようがいまいが関係ない。……だがお前は傭兵として生きる道を選んだ。戦い続ける限り、恐らく安らかな死は訪れない。戦士の安らぎは死後に訪れる物だからだ。

  ……教えた筈だな?」

 「……うん」


 皮袋を、さっきまでとは違う理由できつく握り締めながらオーメルキンは答える。


 ティタンの教えはオーメルキンにとって馴染みの無い事ばかりだ。

 剣の技、生きる術、先人の教え。ティタンはそれら全て余す所無くオーメルキンに叩き込む心算だが、彼女がそれを完全に己の物とするには長い時間が必要だろう。


 「騎士ルーメイアをどう思う」

 「勇敢な人だと」

 「俺もだ。俺には命を懸けて金貨を守る理由は無いが、彼女にはあった。……多少迷惑だと思わんでも無いが、使命に殉じた勇敢な行いを侮辱する気は無い」


 言いながらティタンはオーメルキンに手を差し出す。ティタンの手を取って立ち上がるオーメルキン。

 彼女はただでさえ重たい皮袋を更に重く感じていた。廊下の向うから兵士が二人、こちらに向かってきているのが見えた。


 「誰もが死ぬようにいずれ俺も死ぬ。その時は俺も勇敢に死のうと思う。多くの戦友達や騎士ルーメイアがそうであったように。……無理強いはしないが、お前もそうである事を願う」

 「……えっと……」

 「即答出来なくて当然だ。……ふふ、恐いか?」


 冗談っぽく笑ってみせたのはティタンなりの気遣いだ。

 オーメルキンはそれに甘える事はしなかった。俯きながらも、ハッキリと答える。


 「恐いよ……」

 「……それで良い。死に方くらいは自分で決めろ。……さぁ、帰るか」


 ティタンは近付いてきた兵士達と向き合った。南門での騒ぎの時、門兵を務めていた者達だった。


 「傭兵、預けたい物があると聞いたが?」

 「騎士ルーメイアが守った金貨だ」

 「金貨? まさかその皮袋の中身全て?」


 兵士達は驚きを顕にする。大体の取引には銀貨が用いられる。金貨を目にする事は余り無い。


 「金銭か……困った。一応聞いておくが、くすねたりはしていないだろうな?」

 「侮辱する心算なら相手になる」

 「……済まない。俺も一応仕事でやっている。傭兵と言うのはどうも信用出来んのでな」

 「多少は同意できる。……まぁ兎に角お前達も無関係じゃ無い。バルドが平静を取り戻したら渡して欲しい」


 兵達は承諾した。ティタンがオーメルキンに頷いて見せれば、彼女は皮袋を兵士に差し出した。


 「……騎士ルーメイアの事は何も知らないが、勇敢な騎士の最後を看取れた事を光栄に思う」


 兵達は恥じ入るように頭を掻いた。


 「済まん……。傭兵も馬鹿に出来たモンじゃないな」



――



 ティタンがバルド再会したのは四日後、傭兵ギルドアッズワース支部の来賓室だった。


 バルドは一般的な兵士の鎧の上に分厚いスカーフをしている。普通のスカーフと比べてかなりの大きさになるだろうそれはハルターリア人が好んで身に纏うとされる“カトリン”だ。ハルターリア人は、クラウグスに優れた縫製技術を伝えた者達と言われている。


 「古き伝統だ。悪くない」


 ティタンの言葉に、バルドは赤いカトリンを握り締めた。表情は苦しい。

 ハルターリア人の葬儀の文化は火葬だ。赤は血、そして炎。死者を送る色だった。


 「傭兵、まずは礼を言うぜ。荷を守ってくれて感謝する」

 「最も価値ある物は間に合わなかった」

 「……良いんだ。俺も、彼女も、覚悟はあった。……それに悪いとしたら門兵か……俺だ」


 バルドが何を考えているのかティタンには手に取るように分かる。騎士ルーメイアを一人にした事を後悔しているのだ。


 「オーガが出たと」

 「あぁ、そうだ。最初に現れたのはゴブリンでなく、一匹のオーガだった。五名の護衛兵は卑怯にも逃げ出しやがった。……俺は一撃で得物を失い脇腹をやられた」

 「お前と騎士ルーメイアを入れて頭数は七人。冷静に戦えばまず負けなかったろうな。……あぁいや、一人前の戦士が七人、と言う前提が必要だが」

 「仕方なく俺と騎士ルーメイアも逃げた。そうしたら草むらの中に潜んでいたゴブリンどもが……。馬は狂ったように暴れ馬車を壊して逃げ出し、俺達はどうしようもなくなった」


 ゴブリンや一部の魔物は浅ましくも人間の物を収集する癖がある。彼等にとっては価値の無い物のように思えるが、物珍しく感じたならば何でも巣穴に持ち帰る。キラキラした光物、金貨などは特にそうだ。

 だから騎士ルーメイアは荷馬車を捨てる事が出来なかった。むざむざゴブリンにあれ程の量の金貨を奪われるなど。……自分ならばどうか、と考えるとティタンは自然と苦い顔になる。


 しかしそれ以上に…………この悔しさ、言葉では表せまい。

 オーガは強敵だが絶対に勝てない相手と言う訳ではない。七人で一匹と戦えば完勝出来た筈だ。大慌てで逃げるのではなく、慎重に旅程を消化すればゴブリンの奇襲にも気付けただろう。


 詰まり、騎士ルーメイアは死なずに済んだ筈だった。


 来賓室の窓から差し込む光り。陽光で温まった机に握り拳を置き、バルドは大きく息を吐く。

 怒りを静めているのだ。


 ティタンは沈黙し、暫し待った。バルドは漸く顔を上げる。


 「……傭兵、まだ名乗ってなかったな。知っているようだが俺はバルド。ランゼー男爵家騎士、ルーメイアの陪臣だ。……今はもう違うが」

 「俺はティタン。傭兵だ」

 「……そうか。傭兵ギルドからお前が呼んでいると……。俺に何の用だ? 今回の謝礼ならば少し時間をくれ」

 「くれると言うなら貰っておくが、今はその事じゃない」


 では? 訝しげな顔をするバルドに、ティタンは肩をすくめながら言う。

 バルドをギルドに呼んだのはティタンだ。理由は言うまでも無く、ルーメイアが死の間際に残した言葉だった。


 「騎士ルーメイアと契約を交わした。彼女は主君が難しい問題を抱えていると。……俺はその解決に手を貸さなければならない。当然、その主君とやらが受け入れれば、だが」

 「彼女が……? 本当にそう言ったのか?」

 「嘘を言っても仕方ない」

 「だが、彼女は死んだ。お前が契約に拘る理由は無いだろう」


 俺はそうは思わない。

 契約を交わした相手が死ねばそれはお流れ、と言う理屈は確かに分かる。その判断に不義理だの何だのと言う心算は無い。


 これは戦士の宣誓や勝利を奉げる先に関わる事柄だ。どんな理屈や判断よりも、ティタンの矜持の問題だった。


 「俺は常に今亡き戦友達を思い、彼等に加護を求める。その俺が死者と交わした約束を破ることは出来ない。少なくとも努力はする」

 「それは本心か? お前……本当に傭兵か?」

 「どう思おうと勝手だ。お前やルーメイアの主君が受け入れなくてもそれはそれで良い。俺がくたばって戦友達と再会した時、言い訳はできる」


 少しの間バルドは視線をあちこちに彷徨わせる。考えが纏まったのか立ち上がり、一言。


 「来てくれ」



――



 バルドに連れられてやってきたのはアッズワース政庁である。主君は政庁の一室を仮の住処としているらしく、そこに案内された。


 廊下をズンズンと歩いていくバルドとティタン。普段傭兵はまず立ち入りを許されない場所だ。擦れ違う官吏達は訝しげな顔でティタンを見る。


 「ランゼー家党首、ジョーン様は建築に明るい方だ。その能力を認められ、アッズワース司令ペルギス様から依頼を受けた。アッズワースの北の監視塔の事は知っているよな?」

 「恐らくお前よりもな」


 アッズワース北部には監視塔があり、常に少数の精鋭が詰めている。監視塔に配属される精鋭は魔物達の動きを事前に察知、報告する任を帯び、気の休まることの無い日々を送っている。


 魔物達は時に酷く活発化する。

 例えば夏季。緑の恵みによって食料に困らなくなった魔物達は爆発的に数を増やし、縄張りから溢れ出して南下を始める。別の例を挙げれば以前の黒いワーウルフ。あれはもう少し放置されていれば、大量のワーウルフ達を従えてアッズワースを席巻していた。


 これらの発見、偵察が監視塔の役目だ。精鋭に相応しい任務だといえる。


 「それの改修の役目をジョーン様が担われる」

 「ほぉ」

 「国王陛下の肝煎りとも聞く。北の監視塔を増築し、大きな防衛力を持たせようって事らしい」


 成程、傭兵が関わるには大それた話になってきた。ティタンは眉を顰めた。


 建築、それも砦のとなれば国家の一大事業だ。そこにティタンが口を挟む余地は無いし、またその知識も無い。


 いや、と考えを改める。


 そもそもそんな事は騎士ルーメイアにだって分かる筈だ。一傭兵にそんな話をしても仕方ない。

 ならばティタン向きの仕事があるのだろう。結論を急くべきではない。


 「……まぁ、そんな訳でジョーン様はここに着任された訳だが……。同時に、アッズワースに貢献する為の戦力を出したいと仰られている」

 「……んん?」


 可笑しな話だ。兵力の供出は確かに貴族の義務として最も分かりやすい物だが……兵団と言うのは金食い虫だ。

 男爵程度の爵位では領地の規模や資金力も知れた物だろう。戦力を出したいと簡単に言うが、非常に困難であるのは間違いない。


 ジョーンが建築に明るく監視塔の改修を担うと言うのなら、それの見返りとして逆に兵役の免除を求めるのが普通だ。これに関してはバルドも同意見らしい。


 「そこらへんの事情は俺には分からん。……ただ、アッズワースから多額の援助を受けられるらしいから、もっと上の……俺なんかじゃ想像するのもおこがましい尊き方々のお考えなんだろう」

 「まぁ良いさ。兎に角、ランゼー家は武功を求めてる。それなら俺も多少は力になれるだろう」

 「お前にはランゼー家が新たに組織する隊の先任になってもらいたい。領地の兵は動かせないし、何の伝も無いランゼー家がここいらで正規兵を揃えるのは無理だから、傭兵ばかりを集めた隊になる。……お前には遣り易いんじゃないか?」


 ティタンは眉を顰めた。本気かどうか疑っていた。


 アッズワースの兵士は傭兵を馬鹿にしているし、傭兵もそれは同じだ。指揮官は傭兵達の事を数合わせか生きた盾、或いは治安を悪化させる害虫ぐらいにしか思っておらず、まともに統率しよう等と誰も考えていない。


 そのアッズワースで傭兵の隊を作ると言う。これは難しい問題だな、とティタンは唸った。



 曲がり角を過ぎ、日当たりの良い廊下に出る。政庁本部への渡り廊下近くにその部屋はあった。


 バルドが扉の横に控えていた侍女に会釈すると、侍女は扉をノックし跪く。バルドとティタンもそれに習う。中からの誰何の声は歳経た男の物だ。


 「お客様がお越しです」

 「誰か」


 そこでバルドが答える。


 「騎士ルーメイアが臣、バルドで御座います」


 次いで上がるのも同様に歳経た男の声。幾分か高く、落ち着いている。


 「バルド、忙しくしているようだな。……開けてやれ」


 部屋の主は備え付けの椅子に深く腰掛けながら羊皮紙に向かい合っていた。


 初老の男だ。細身で眦が垂れており、如何にも穏やかな印象を受ける。

 足が良くないのか椅子には紫に塗られた杖が掛けてあった。ラフなドレスシャツをそつなく着こなす、紳士と言った風情だった。


 「バルド、進展があったのか?」

 「は。この男を」

 「傭兵隊の最初の一人と言う訳か?」

 「はい。隊の運営に深く関わらせたいと思っています」

 「ほぉ……」


 品定めするような視線。


 「名はティタン。優れた戦士で、アッズワース周辺の地理に明るく、人使いも巧みであるようです」


 ティタンは苦笑い。この男、自分の事など何も知らないだろうに良くもまぁ吹いた物だ。

 何か考えあっての事か? ティタンが顔を無表情に戻そうと努力する内に、話は進む。


 「まぁ良いだろう。お前の判断に任せる。話は以上か?」

 「は」

 「宜しい。次は傭兵を定数集めてからまた報告を。……この働き如何によってはお前を直臣として取り立てる。励みなさい」

 「……は、勿体無いお言葉です」


 一礼して二人は部屋を出る。緊張の為かバルドは大きく息を吐き出した。


 「良くもまぁ言った物だ」

 「何の事だ?」

 「俺の事なんて何も知らないだろう」


 バルドはそうでもない、と言って歩き出す。侍女が会釈でそれを見送り、ティタンは後ろに続いた。


 二人は政庁出口を目指して歩きながら会話を続ける。


 「実はお前の事は聞いていた。ディオ・ユージオ・セリウ様からな」


 あぁ、とティタンは頭を振る。成程、彼女か。

 ディオは言うまでも無くティタン贔屓だ。ティタンとディオは短い期間だが共に修羅場を潜り抜け、互いに深く信頼し合った。


 ティタンを臣下にと望んでくれたが、ティタンは自らの感傷でそれを拒否した。しかしその能力を認め合っている事に代わりは無い。ティタンにとってディオは類稀な指揮官で、ディオにとってティタンは類稀な戦士だった。


 「お優しい方だ。騎士ルーメイアの事をご存知だったらしく、葬儀にもお越し下さったのだ。素晴らしい方だと思う」


 お優しい、と言うバルドの言葉には少し……ほんの少しだけ、同意しかねた。

 情深い、兵達を愛する指揮官だと言うのは分かる。優しいと言えば優しいのかも知れない。


 だがそれよりも苛烈な空気の似合う女だ。優しい、と言うのは違和感があるな、とティタンは笑った。


 「……相変わらず、腰の軽い指揮官だ」

 「お前の話は何処にでも転がっているらしいぞ。人狼狩りとなれば傭兵達にも睨みが効く。……騎士ルーメイアとの契約を重んじてくれるんなら、どうか頼む」


 ティタンの答えは決まっていた。


 「手を貸そう」



――



 部隊を新設する。

 言葉にするとたったこれだけだが、非常に難しい仕事だった。


 アッズワースで、且つ傭兵ばかりを、と言う所にまだ救いがある。アッズワースであれば人を集めるだけなら簡単だし、問題がある者が紛れ込んだらその都度処理すれば良い。……それはそれで当然手間だが。


 しかし人を集めたらそれで部隊として戦えるかと言われると流石に難しい。熟練の戦士ばかりが揃えば話は違うが、そういった人材ばかりが都合よく揃う訳がない。特に今のアッズワースでは。

 矢張り、相応の苦労が必要だ。


 集めた人間に施す訓練。与える給金。衣食住の世話。考えることは際限なくある。部隊の新設と言う奴はまともにやったら数年がかりになる事も珍しくない大仕事だった。



 ティタンはバルドと話し合う。


 「規模は?」

 「騎士ルーメイアは三十人程を考えておられた」

 「その半分で行く。田舎から出てきたばかりの右も左も分からないような若い奴を集めよう」

 「……それは……そうだな、まずはそれが良いか」


 バルドは騎士ルーメイアの教えなのか、何よりもまず自分で深く考える。気性は荒く、せっかちな所もあるが、短慮ではなかった。


 若い兵士を集めるのは言う事を聞かせ易いからだ。初々しい若者と言う奴は大体の事に恐れを知らず取り組み、また素直だ。

 バルドのような指揮官に無駄に世慣れた傭兵は扱えない。アッズワースに蔓延るのは言い訳や手を抜く事ばかりに力を注ぐ下らない者達であり、バルドはそれに我慢できないだろう。


 ディオだってそこいらには憤慨していたのだ。バルドにディオ以上の寛容さがあるとは思えないし、そういった手合いを上手く使いこなす経験も不足している。


 「今時の傭兵って奴はまともな連中では無い。碌な装備を持ってない奴も居る。そう言った連中に鎧なんかの世話をしてやらなければならないとしたら、三十は多過ぎる」

 「成程……」

 「だからまず十五。そしてその分彼等を大切に扱い、金を掛けてやれ。全く以て相応しくない実力だったとしても、精鋭として扱え。まともな奴ならそれで奮起するし、お前に恩を感じるだろう」


 より扱いやすくなる。ティタンの続けた言葉にバルドは頷いた。


 「ギルドには多少顔が効く。新入りを紹介してくれるよう掛け合ってみよう。お前は装備を調達しろ」

 「調達と一口に言っても……時間が掛かるぜ」

 「アッズワースから支援を受けられるんだろう? お前の主君に強請るなり何なり出来る筈だ。……まぁ指揮官の宿命として諦めてくれ」

 「気が重いが確かにお前の言うとおりだ。……分かった、装備の方は任せてろ」

 「それと……傭兵どもの支度金は奮発してやれ。着の身着のまま出てきたような若者は、足元見られてまともに金を貰っていない。彼等は契約の持つ意味や重みなんぞ知らないから、出だしで躓けばあっさり逃げ出すぞ」


 ティタンにとっては噴飯物の話だが、新入りの傭兵に対する契約は軽んじられがちだ。

 誠実に契約を果たしてもあれこれと難癖つけられて報酬を減額されたり、と言う話はままある。誰もが契約を蔑ろにしていて、新入り達がそれを重んじる訳がない。

 彼等は失望し、真摯な心を失う。誰が悪いかは明白だ。


 バルドは顎に手をやって考える。


 「……分かった。精々恩着せがましく支払うことにする」

 「そうだ。金払いや気前が良い様に思わせろ。その上で真摯に向かい合ってやれば、若者は応える。……そうでない奴は俺が間引いてやる」

 「しかしそんな若者ばかりで大丈夫か? ……いや、俺だって若いんだが……。兵団のどの部隊にも、その隊の中核になるような熟練が居た。そういった人物も欲しい」


 ティタンは目を細め、口端を歪めた。大胆不敵な笑みだ。


 「お前は俺がどういう人間なのか知っているんじゃなかったか?」


 バルドははっとして、こちらも笑った。


 「済まん、そうだったな。お前に任せよう。……いや、言い訳の心算でも煽てている心算でもないが、お前が余りにも熟練の指揮官のような物言いをするから……ちょっと意識がズレちまった」


 バルドから見たティタンは異様だった。ただの傭兵に部隊を創設したり、率いたり等と言う経験は無い筈だが、ティタンは全く物怖じせず平然と受け入れている。

 余りにも堂々とした態度、堂々とした発言をする物だから、自分より年嵩で軍歴の長い指揮官だと言われても信じてしまいそうだった。


 バルドの感想にティタンは当然だろう、と笑う。身の上話をする心算はないから当然言葉にはしなかったが。


 アメデューと共に多くの戦いを潜り抜けた。彼女の元で多くを学び、練磨した。彼女の副官として隊を取り纏めていたのはティタンだ。


 バルドを馬鹿にする気はないが、新米指揮官に負けては居られない。


 「まぁそれは良い。それよりも……」


 ティタンは話を戻す。


 「此処はアッズワースで、お前は若手の指揮官だ。お前には人一倍仕事をしてもらうし、訓練では集めた傭兵達の誰よりも優秀な結果を出して貰う。色々不足しているのはお前も同じだ。その分は行動で稼げ。……当然、俺もそうする。まぁ今の所はこんな物か」

 「遠慮の無い物言いをしやがる……」

 「お前にとっては遣り易いんじゃないか?」

 「違いない」


 バルドの言葉を借りてティタンは返した。バルドはこれはやられたと苦笑する。


 「忙しくなるぞ、バルド。だがまぁ、どっしり構えていろ。お前に恥は掻かせんさ」

 「言うじゃねぇか、傭兵。期待させてもらうからな」


 これから忙しくなるな、とティタンは思った。息も吐かせぬ怒涛の日々が流れるだろう。


 バルドはそうしているのが良い。只管に何かに邁進していれば、いつしか喪失の痛みも忘れる事が出来る。



 自分にも覚えがある。

 戦いだけが救いとなるよな不器用でどうしようもない者も、確かに居るのだ。


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