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蒼の誓約  作者: 毛井茂唯
第3章〈アヤメ〉
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(4)魔物の領域4

語り口調でお届けします。


 <コルキアスの場合>


 さて、じゃあ語ってやるかな。

 と言っても、自分は恋多き男だからなあ。どれを話したものか。

 何?私に告白した話はどうか、って。

 ばばばばばばっかじゃねえの!

 そそっそそそそんなことしてねえーし!カルフィールに告白なんてしてねーし!

 …………。

 ……。

 はいはい、しましたよ。

 仕方ないだろう。こいつ顔だけはいいんだから。なんかノリでやっちゃったの。

 自分、この話で終わりでよくない?ダメ?

 

 イリスさんがそう言うなら仕方ないか。

 なら少し前の話で。

 これは自分たちの世代では有名な話なんだけどさ。あ、多分ナディアはまだ入学してなかったから知らないかな。

 俺たちの上級生にすげえ美人がいたんだよ。言っとくけどカルフィールなんて目じゃねえ。まあ好みがあるだろうから一概には言えないけど。

 それでさ、その人常に眼つきの悪い男を連れまわしてたんだよ。

 いや、兵科とか異能者の人間じゃなかったな。でも兎に角おっかないんだ。雰囲気というか、気配みたいなのが。

 そのせいで美人なんだけど告白する勇気のある奴いなかったんだよ。

 

 いったいつになったらコイバナになるのか、か?

 まあ焦るなよ。今から話してやるから。

 簡単に言うとだな。俺はその人に告白した。

 勿論美人だからに決まってるだろ。それ以外の理由はないぜ。

 いや、何ていうかその怖い男の人、すげえ乗りが良くて協力までしてくれたんだよ。

 怖い人が一人だった時に勇気出して美人の恋人かどうか尋ねたら爆笑し出してよ。それから雰囲気が能天気な感じのお兄さんみたいになってさ。

 何でこの人のことあんなに怖がってたんだろうなって。

 え、なんか女性陣の目が冷たいんだけど。何でだ。

 ………いやいや、俺も顔が良ければいいわけじゃないぜ!

 基本年上狙いだから!スタイルの良さもちゃんと見てるから。

 ……なんかもっと冷たい眼が返ってくるんだけど、まあいいや。

 で、結果からいえば余裕で振られた。取り付く島なんてなかったんだよな。

 これで話は終わりなのかって?

 ああ、告って振られて終わりだろ、恋バナなんて。

 もっと色々あるだろう?て言われてもなあ。俺基本的に振られる話しかないからな。

 すげえだろ、告白した回数じゃ学府一と言っても過言じゃないぜ!

 必然的に振られた回数も学府一ということになるな!

 まだまだその手のエピソードならたくさんあるが、聞きたいか?

 あ、遠慮するんだ。いいけどよ。



 <ライノの場合>


 じゃあ、次は俺ですか。何だかコルキアスの話が重すぎて気が引けるけど。

 えっとーそうだなあ、今の話にしようかな。

 ん?カルフィールに告白した話はどうかって?

 

 ちょっと待ってくれ。何で古傷を抉ろうとするんだ!お前、自分が振られた話題しかなかったからって俺まで巻き込むなよ!

 爆弾のお裾分けなんていらないから!

 違うよ!お前みたいに顔で選んでないから!ちゃんと好きになってたから!

 ……うわああああああ!何て事言わせてんだよ!ぶっ飛ばすぞ!


 ………。

 ………く、もう心が折れそうだ。

 お前は俺を怒らせた。今からお前の味わえなかった世界の話をしてやろう。

 付き合いだした男女の話をタップリとな!

 あははははははっ!


(長いので中略)


 あ〜喉痛い。

 どうだ、これが恋愛というものさ。

 …………。

 おい、何でみんな舟漕いでるんだよ!人の話はちゃんと聞けよ!

 …え、山も谷もないからつまらない?

 在ったじゃん!波乱万丈だったじゃん!でもお前ら寝てたじゃん!

 ……長いからまとめろと言いたいんですか、班長……。

 俺の大恋愛をまとめろだなんて。く、ちょっと待ってください!こうなれば意地だ。

 ………。

 …………。

 よし、いいぞ、完璧だ。

 今度はちゃんと聞いてくださいよ。いや、これで寝られるのもなら寝て見ろよ!

 

 俺は彼女と付き合いだしてから、奇妙な事件に巻き込まれたがそれを乗り越えて強い絆で結ばれた。しかし俺の前に彼女の幼馴染が現れ、彼女の心を掻っ攫っていった。しかし俺は引かなかった。あらゆる手段を使って彼女に猛アタックし、再び結ばれた。

 

 どうだ!波乱万丈だっただろう!

 ん、今小さく「速攻とられてるのに強い絆、笑える」とか言わなかった?ああ、勘違いか?

 

 そうだろ、そうだろ。分かればいいんだ。

 

 では今から過去編パート2と行こうか。まだまだ話題は尽きないから安心しろ。


 ………ああ、確かにそうですね。全員話していませんし。

 しかし存外面白いものですね、人に恋愛の話をするというのは。

 コルキアス、訓練演習が終わったら恋愛の先輩として、俺がたっぷりと話を聞かせてやろう。未来編など特に熱が入りそうだ。

 ああ、未来編はただの家族計画だよ。一応将来を誓い合っているからな。男として綿密な人生設計は必要ではないか。

 当然だろう?

 

 

 <ギルの場合>

 

 予想以上に濃い面子だな。この班は。

 さて、満を持して俺の登場となるわけだが、流石に女の子の前できわどい話は出来ないし、適当に昔話でもするか。

 俺は若い外見をしているが、実は30歳を超えているんだ。

 ……いや、そこは「えー、絶対見えない」とか「またまた冗談が好きなんだから」とか言ってほしかったな。

 班長が良くいく店の女の子じゃないんだから、そんな見え透いたこと言うわけがないだって!

 あの子たちは嘘なんてつかないから。みんな正直でかわいいから。

 というかイリス君、何でそのことを!あ、カルフィール君、ナディア君、これは別にいかがわしい店に入り浸っているとかではないんだよ。接待だから!嫌々付き合っているだけだから!

 あ、ナディア君はよく分かってないんだね。お兄さんちょっと安心。

 


 よ、よし気を取り直そうじゃないか。

 恋バナだ、恋バナをしよう。

 

 これは俺がまだ異能に目覚めていないガキの頃、10歳の時の話だ。


 学園に通い始めた俺は、初等科1年の頃から同級生にモテモテでな。よく告白されたもんさ。

 当時の俺はまあ「学園の太陽」のようなもんだったからな。俺の気分次第で学園の雰囲気が変わったと言っても過言ではない。羨ましいかコルキアス。


 ………イリス君茶々を入れないでよ。ちょっとくらい盛ったっていいじゃないか。


 すいません、話を進めます。


 ええと、まあモテはしたが付き合うことはなかったな。

 あの頃の俺は年上が大好きだったんだ。

 より正確に言うなら大きい胸が大好きだったんだ。

 イリス君、そんな怖い笑顔浮かべないでくれ。ちゃんとした恋バナになるから。


 ゴホン、それで俺はいつも女の子の胸ばかり見ていたんだ。寝ても覚めてもずっとだ。

 夢にも出てきた。

 だけどな、ある時気付いたんだ。

 俺が女の子に感じていた魅力なんて、本当に表面的なものでしかなかったと。


 俺は中等部に上がり、相変わらず同級生にモテていたが、同年代の女子は眼中になかった。

 でも同じクラスになった女の子で、ちょっと変わった雰囲気の子がいたんだ。

 あまり明るくなくて、引っ込み思案だったんだけどな。どこか大人びている子だった。

 いつか教室に一人でいたその子に話しかけたことがあったんだが、あんまり会話が弾まなかった。共通の話題もなかったからな。

 それからも気になってはいたが、話す機会はほとんどなかった。挨拶や一言二言のやり取り程度だった。会話とさえ言えない。

 そんな学園生活を送っているうちに俺に異能が発現した。 学園に残って異能を一生封印し続けるか、学府で訓練を受けて異能をコントロールする術を身に付けるかの二択を迫られた。

 俺は迷いなく学府を選んだ。

 特別な力に憧れるだろう?俺の理由なんてそんなもんだ。子どもで大層な理由を持っている人間の方が珍しい。

 

 転入手続は手早く終わって殆ど別れらしい別れもしなかった。あまり学園や自分の住んでいる場所に執着がなかったからな。

 カルフィール君とイリス君、何で優しい眼差しで俺を見ているの?

 友達ちゃんといたからね、俺でもちゃんといたから!

 

 ………それで学園に通う最後の日に教員に挨拶をした後、その足で家に帰ろうとしたんだけどな、ほんの気まぐれで教室に向かったんだ。

 遅い時間だったから誰もいないとは思ったけど、見納めだと思うとつい足が向いたんだよ。

 

 窓から差し込む光に赤く染まった教室には、あの子、引っ込み思案の大人びた子がいたんだ。一人で。

 なんか現実離れした様な雰囲気があって、俺はボーと立ち竦んで、声もかけられなかったよ。

 そんな長い時間じゃなかったけど、立ち直った俺は彼女に聞いたんだ。

 どうして誰もいない教室に残っているんだ、って。

 彼女は何て答えたと思う?

 

 ああ、カルフィールちゃんの正解。俺を待っていたんだと。もしかしたら立ち寄るんじゃないかと思って。

 あの時は心底不思議だったよ。何の接点らしい接点もなかったからな。でも嬉しかったな。気にかけて貰えたのが。

 男は単純だからよ。

 少年でも、大人でも。

 

 それでな、少しだけ話をした。話題なんてすぐになくなったけど、沈黙で気まずい感じになるのも悪くなかった。なんとなく笑いが込み上げて来て、あの子も笑っててよ。

 

 太陽が沈んで、辺りが暗くなり出した頃、俺たちは帰ることにした。名残りは尽きなかった。

 

 最後に、教室を先に出たあの子が、俺に振り返りながら言ったんだよ。

 

 頑張ってね、て。

 

 軽い感じじゃなくて、胸にストンと何かを投げ込まれたような重さがある言葉だった。

 彼女の腕に銀色の腕輪がついていたことをその時初めて気付いたよ。

 いや、いつも腕輪を着けているのは気付いていたけど、意味を含めて認識できたのはその時はじめてだったんだ。

 どう返事をしていいのか分からずにいる俺に、ただあの子はそれだけ言い残して立ち去っていったんだ。

 俺は遅れて追いかけようとしたけどその子の足が速くて追いつけなかった。


 スカートが捲れてるとか言う次元じゃなくて、捲れたまま降りてこないくらいの走りっぷりだったな、あれは。

 それでも何とか食らい付いて走った。

 呼吸も苦しいし、心臓も破裂しそうだったけどよ、自分でも訳が分からないくらい一生懸命走ったんだ。

 絶対見失うな、見失ったら後悔するぞ。そんな訳の分からない衝動に突き動かされて。


 まあ、その彼女との全力疾走でやっと自分の中にあった、胸への執着なんて比べるのもおこがましい俺の情動が理解できたんだよ。

 


 お尻ってスゲー興奮すんの!

 後ろ走ってたからその子から超いい匂いして来たし、正直堪らんかった!

 だからようやく気付くことが出来たんだよ。

 女の子の魅力は胸だけじゃないと。女体そのものなのだと。五感で楽しむものなのだと。

 勿論胸もいい。

 でも、それだけじゃない。

 お尻もいい。

 あの子は俺にそれを教えてくれたんだ。

 顔は地味だったけど、大人びて見えるくらいにはスタイル良かったし。



 あれ?どうしたお前たち。さっきまでの期待に満ちた眼は何処へ行った。

 俺の初恋の話だぞ、ここは泣くところじゃね?

 リアクションが薄いなあ、ってイリス君、いつの間に後ろに?

 え、なにしてるの、急に?

 あ、ちょっと待って、あの子とのエピソードはもう少し続くから。これから目くるめく大人の階段を上るから、もうすこ。

 ……………。

 …………。

 ………。

 ……。

 …。



 <イリスの場合>


 ああ、中座して申し訳ありません。

 大きなクズを見つけたのでゴミ箱にぶち込みに行っていました。

 皆さんともう少し語らっていたいのですが、クズは生ごみなので腐って臭いの出る前に焼却処分したいので、これで私は上がらせていただきます。

 あ、ちなみに私の初恋は近所の男の子だったので何の面白みもないですよ。

 あの猥褻物と一緒にしないでくださいね。

 それでは。



 <カルフィールの場合>


 えーこの雰囲気の中で続けるの?


 そうね、ギル班長は狙ってやっているのか、素なのか分からないわね。

 というより今まででまともに恋愛の話した人いたかしら?

 ライ君はいいの。もう大丈夫だから。コル君とタップリ語り合ってあげて。


 私のこと?まあ、確かに学府で浮いた話はなかったわね。

 私はあまり恋をしたことがないからかしらね。

 ええ、嫌味な言い方かもしれないけど、それなりの数の男子には告白されたわ。

 でもコル君みたいな軽い感じの子が多かったし、何より私は愛されるより愛したいタイプの人間だから。

 勿論相思相愛が一番よ。


 私が恋愛をしないのはね、ずっと引きずっている恋があるからなの。

 今もその人のことを好きかと言われれば多分違うと思うけど、タイプがずっとその初恋の人が基準になっているわ。

 あまり周りの人にときめかなくなっちゃったのよ。滅多にいないタイプだから。

 どんな人かって?

 雰囲気は女の子みたいな男の子だったかな。

 ああ、ちゃんと顔は男の子だったわよ。でも目線というか仕草というか、時折女の子のような感じがしていたの。

 そう言うところに惹かれたわけではないんだけどね。

 うん、初恋のエピソードでしょ。勿論あるわよ?

 でも秘密。私の大切な思い出だからね。


 代わりに今までの告白された中から厳選して面白いものを披露するわ。

 あ、コル君とライ君は入ってないから安心して。普通だったわよ。

 ……落ち込まなくてもいいのに。

 気を取り直していきましょうか!私の役はナディアちゃんね!

 問答無用です。行くわよ!



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