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蒼の誓約  作者: 毛井茂唯
第3章〈アヤメ〉
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(2)学び舎の風景2

もはや開き直った説明回です。

後書きにも説明書きがあります。

 スマイルは小休止の後、再び壇上に立つ。

 先ほどおかしな回答をしていた男子生徒の姿が見えない気がするが、「まあいいか」と気にすることなく講義を始める。


「法術師に関する話となるわけだけど……色々と教えられないこともある。それを踏まえた上で話を聞いてくれるとありがたい」

 学生たちがそれぞれ頷くのを確認し講義を始める。


「まずは基本的なところから行こうかな。君たちは法術師のあざなを知っているかい?」


 僅かに間が空き、遠慮がちにポツポツと答えが返ってくる。

「夕凪とか」

「水仙なら聞いたことがあります」

「石葉なら知っています」

「俺、水郷って法術師様に異能封じの調整してもらいました」

「ああ、そういえば青もそうですよね」


 いくつか名前が出てくるのを聞いてスマイルは一旦発言を止めさせる。

「うん、やっぱり異能者の子たちにとっては接する機会が多かったみたいだね。それならこの中で法術師の本名を聞いたことがある子はいる?」

 スマイルがそう問うと、静まっていた学生たちがざわざわ騒ぎ出した。


「法術師本人が名乗らない限り、まず彼らの名は漏れない。公式の場でも彼らは本名ではなく、あざなを名乗ることを許されている。ちなみに青は現人神の字だからね。今代の青のマナを使う者がよくそう呼ばれているけど、法術師の認定を受けていないから字すらないからね。彼か彼女かは知らないが新しい青として定着しつつあるのは事実だけど」

 この知識については大抵の学生たちにとっては常識であり、納得できたように頷いている。


「彼らに関するあらゆる情報は大部分一般人に漏れることはなく厳重に管理される。それは彼らの特殊性と立場に起因しているからだ」


「法術師の認定、その情報や動向の管理は三神教会が行っている。ある意味、法術師にとっての協会としての役割を担っているわけだね」


「三神教会が法術師にかかわる事柄を積極的に預かるのは、色々な事情があるけど……まあこれくらいなら言っても大丈夫かな」

 スマイルは僅かに言葉を止め顎に手をやる。


「まず中立であること。法術師がどこかの国の国民として帰属することになり、争いに利用されれば戦火は想像するだけで恐ろしい規模になる。青歴前、過去の人間同士の戦争では多くの法術師が戦場に駆り出されていたと記録にある。彼らの魔物の軍勢を退ける力が人に向けられると想像すればわかりやすいかな」


「もう一つは法だ。法術師にはいくつか守らならなければいけないルールが設けられている。一つは人の領域で人の為に法術を使ってはいけないこと。ただこれは建前でちゃんと報酬の発生する依頼ならば受けていいことになっている。安易に利用されないように依頼料は法外だが、これも彼らを守るためだ。傭兵になられたら結局同じだからね」


 途中、学生の一人から手が上がる。スマイルはその学生の発言を許可した。

「それってバレなければ使い放題ということですか?」

「いいタイミングの質問だね。それこそが三神教会のみが法術師に課すことのできる法だ。教会は『誓約』という術式を用いることで法術師の動向を掴めるんだよ。術の行使に限った話だがね」


「法術師は認定を受ける際に黒の神子様と対面し、認定の儀式を行う。その際に何かをするらしいのだが詳しい話は僕も分からない。ただこれ以降の術の行使は全て教会の監視下に置かれるため偽ることは難しい」


 言えない情報であるため省いているが、この誓約は法術師一人一人で違いがある。

 スマイルの同僚であるベンジャミンは緊急時以外ほんのわずかな法術も禁止されているのに対し、カノンというベンジャミンの友人である法術師は、領域開拓軍であるためかこの誓約が緩い。人の領域でも小規模の術を何度か使っていたらしい。


「しかし誓約は法術を封じるものではない。使おうと思えば使える。ペナルティーや尋問にかかる覚悟があるならば」

 詳しくは聞いたことがないがこの「誓約」という術式には謎が多い。ベンジャミンもまるで知らないし、行使されたのがいつだったのかも分からなかったという。

 黒の神子が行使したのだろうが、昔この話を聞いたとき、スマイルは言い知れぬ不安感に襲われた。


 スマイルが少し間をあけたとき、一人の少女が手を上げた。先の武芸大会の優勝者だ。

「あの、法術師の認定に年齢制限はあるのでしょうか。法術が発現してしまえば、すぐに法術師の認定を受けてしまうのでしょうか」


「基本的には年齢制限は……ないかな。だが発現してからすぐに認定はされない。ある程度力のコントロールを学んでからになる。しかし術式は最低でも12歳ぐらいまで成長してからでなければ覚えさせられないから、そういう意味では年齢制限はあると言えるね」

 少女は少し複雑な顔を見せてはいるが理解はしているようだ。


「術式はある程度成長しないと覚えられないというのは、どういうことなのでしょう。問題でもあるんですか?」

 そう質問したのはまた別の少女だった。どこか兵科には似つかわしくない弱気な印象だが興味津々と言った瞳が印象的だ。


「少し前倒しの説明になるが、法術師は法術を含むマナの領域を開くことや収束、拡散などマナを操ることには『気力』を使う。気力は特別なものではない。精神力や集中力などを一纏めに気力と呼んでいるだけだね」

 大分怪しい顔をしている学生が増えている。「誓約」の件辺りからは知らない知識だったのだろう。


「術式は法術の中でも特に術者への負担が大きい。余り身に余る術式を使い続ければ脳にダメージを与えかねないんだよ。ある程度情緒や精神が成長していなければ簡単に無茶をしてしまう。脳のダメージが表面化する段階になってしまえば取り返しがつかないからね。大体は深刻なダメージになる前に体が強制的に気絶するが、強引な気絶も危険なことには変わりない」


「あとは成長段階で気力の消耗は危ないということかな。子どもにとってはその手の疲労は大変な苦痛だ。成長の妨げにつながる」


 解答を終え、講義を次の段階に進めようとしたときまた優勝者の少女が質問をしてくる。

「もし、もしもなんですけど、子供のうちに強力な術式を使った場合どうなってしまうのでしょうか……」

「私にもわからない。事例が存在しないからね」

「そうですか………」

「以上かな?では次に法術の本質について教えよう」

 学生からの質問が途絶えたことで次の話に移る。


 スマイルは敢えて先ほどの質問には答えなかった。

 事例はいくつかあるが、その情報は学生の権限を越えているためだ。

 教えることが出来たとしてもあまり学生たちに伝えたい内容ではない。



「みんなは法術師は術式を使うものと考えているだろうが実際は違う。術式は全て後付で本来の法術には術式が存在しない」

 学生たちは急にスマイルが何を言っているのか分からなくなった。この講堂の殆どが今の発言の意味を理解していなかった。


「法術師は法術を使う故に『法術』師と呼ばれる。もし法術がこの世になかったなら『術式』師と呼ばれていたかもしれないね」

 やはり学生たちはスマイルの言葉の意味が分からず困惑していた。

「マナの領域の大きさは法術師の法術の規模によって決まる。といっても未だ君たちは僕の言う法術が分かっていないね。まず法術と術式の混同を辞めなさい」


「よく混同されるし、正しい知識がある者が少ないため、それが正しいように思われているが君たちは間違えてはいけない」

「法術師の法術には術式が存在しない。ただ願うだけ、思うだけで発現できるただ一つの力だ」


「もし、暗闇に閉じ込められたら人間は明かりがほしいと願うのではないだろうか」

「雪山で遭難したなら温かさを求めるだろう」

「ただ足が速くなりたいと願った人もいるかもしれない」

「そんな不定形の人の願いをマナは叶えてしまう」


「法術師が法術師となる瞬間、もっとも強く願ったかたち」

「それが法術だ」

 学生たちの困惑はさらに加速しているように思える。

 スマイルにとっては予想通りの反応だった。


「術式は理詰めの力だ。自然の法則や流れや力のベクトルなど複雑極まりない。それらを観察、解析することで理解し、術式として完成させる。いわば現象をマナで再現したかたちなんだ。発動には相当量のマナを消費する」


「法術は法術師に最適化した力だ。効果、威力、マナの消費量、発動速度は術式と比べるべくもない。術式のような複雑さもない思いを形にした最も原初の術だ」


「法術は術式でも再現できるが、結局は自然現象をコピーしているのと同じことでしかない。効率がいいことではない」


「それでも術式が多く使われるのは、組み合わせ次第で無限の可能性があるからだ。みんなの身の回りの光源もただ光を発しているわけではない。マナの消費や光量、熱など複雑に調節されている。火を生み出すこと、電気をつくること、風を起こすこと。あらゆる現象は術式で再現可能だと言われている」


「人の脳やマナ工学の限界で、未だ多くの事象は再現不可能な夢物語ではあるけどね」

 スマイルは頭を掻きながら苦笑気味に付け加えた。


「戦う力への利用としては、法術を術式の一部として利用することで、法術の能力を強化し恐ろしい破壊の能力に昇華することもできる。気力の消費は跳ね上がるがね」


「ああ、忘れていた。さっきマナの領域の規模についての補足だが、これに関しては才能という意見と法術を実現させるために必要な領域を創り出しているという意見に分かれていてね。まあ才能という考え方が過半数となっている」


「ここまでの説明を聞くと、法術はどんな願いでもかなえてくれるすごい力のように聞こえてくるだろう?」

 学生たちの意見は頷くものと首を捻るものに分かれる。

「しかし法術だからと言って何でも願いが叶うわけではない。この世界の法則まで超える力は発現しない。親しい人間の死によって覚醒したものもいたが、彼は死者を蘇らせることは出来ず、亡骸を葬る熱量を発する法術を得ていた。遠く離れた目的地にたどり着きたいと願ったものは運動エネルギーを加速させる力を得た。瞬間移動できる力は発現しなかった」


「あまり難しく考えるのはよそう。法術にあたる術は要するに一番初めに術者が使用した術だと記憶しておいてくれればいい。それでも正解だから」

「これも追加だが、基本的に僕が今説明した法術を指す言葉は『発現能力』と呼ばれている。ややこしいからね」


 理解する努力をするものと理解を諦めた人間がスマイルの目に映る。

 理解し難い話題である。今はこれでいいだろう。

 自分自身上手く説明できた自信もない。


「次にマナの領域についての正しい知識を教えよう。多くの人間が勘違いしていることがあるからね」

「まず法術師は『現界』と呼ばれる、つまりこの世界の万物に宿るマナを集めているように思われているが実際は違う。マナの領域を見たことがある者はいるかい?」

 学生たちの中から数十人の人間が手を上げている。

「多いね……。まあ、恐らくほとんどの学生諸君は青のマナの領域を見たんだろう?」

 先ほど手を上げた学生はみな頷いていた。


「あれは本当に規格外の領域の広さだったからね。これだけの人数が目撃していても不思議はないか……。では今の話を踏まえて考えてほしい。マナの領域はマナを集める。君たちがマナの収束する光景を見たとき、都市機能が麻痺したかな?水道が止まったり、コンロが付かなくなったりしたかな?人がバタバタと倒れたりしていたかな?」


 学生たちは少し考えてから首を横に振る。

「おかしいよね。領域の範囲内からマナを根こそぎ持って行っているのにね。でも説明そのものは簡単なんだよ」

「マナの領域というのは『現界』ではなく『現界』と重なり合う別の場所からマナを持ってきているんだ」

 殆どの学生は理解が出来ていない。

 それはそうだろう。わざと分かり辛く説明し明言を避けている。この知識は明らかにグレーゾーンの知識。学生の教えられる内容ではない。

 詳細は言えないが疑問を持つきっかけとはなるだろう。

「みんな首を捻っているけど、悪いが僕からこれ以上の説明はしないよ。ここから先は君たちが将来知ることが出来る立場にならなければ一生知ることのできない知識だから」

「まとめとして、法術師の領域内のマナは現界のマナを集めない。故に生命や機械に対して影響はない、ということだ」



「大分頭が疲れてきたようだね。そろそろ最後の話をしようか」


「法術師の強さ、戦力についてだ」

 やはり兵科の学生というべきか。先ほどまでの講義より興味の色が見える。

「よく法術師は魔物の軍勢を相手に出来るというが、一体それがどれくらいの規模なのか曖昧だ。漠然と強いということは分かるけどね」


「法術師の平均的なマナの領域は200エーデル(240メートル)。この全てのマナを破壊の力に変えたとしよう。勿論、最も得意とする発現能力の術式でね」

 スマイルは丁度目の合った学生に声を掛ける。

「目の前のやる気ありそうな君。この学府内でその破壊の力が振るわれたとして、一体どれくらいの被害が出ると思うかい?」


「えーと、学府の修練場が半壊するくらいでしょうか……あそこは100エーデルくらいの広さがありますよね」

「中々惜しいね。実際には修練場を含む、直径500エーデルの建物が全壊もしくは半壊する規模かな」

 学生が騒めくが、どうやら冗談と思っているようだ。

「もう一つ言うと、魔物の軍勢、そうだな……甲種が300体規模の軍勢としよう。それぐらいの戦力なら二日、三日あれば大都市を制圧できる」


「法術師は1日あればその軍勢ごと大都市の建造物全てを破壊できる。正確に言えば都市への被害を考慮しないなら1日で軍勢を全滅できるということだ」

 ざわついていたのに今度は黙り込んだ。引きつった顔をしている者もいる。


 スマイルの知る法術師の実力であれば都市を破壊するのに半刻もかからない。

 しかし彼や彼女を例に出してしまえば、それはそれで誤解を与えかねないので控えた。

「勿論、気力という限界は存在するが、破壊の力は法術師にとって最も得意とするところだ。簡単なことだからね、壊すことって」

 法術師は攻撃の際でさえ安全を考慮し、余計な術式を使うため気力やマナを無駄遣いしている。

 単体での活動がもっとも戦いやすいのは純然たる事実だった。

「一対多の殲滅戦において法術師は群を抜いて強力だ。現代兵器では国軍単位の運用でやっと釣り合いが取れるほどだ」

「また、異能者と同じことが言えるが扱うマナの総量に応じてコントロールや術式の展開の難易度は加速度的に上がる。並列術式というものも存在するがこれは説明を省かせてもらう。全て一度に説明して君たちの頭をパンクさせたくはないからね」


 スマイルは一度学生たちの顔を改めて見直す。

 困惑する者。

 考え事をしている者。

 メモを取っている者。

 あまり興味を示していない者。

 納得を得た顔をしている者。


 一通りの顔を眺め終え、スマイルは一度頷き、締めの言葉を述べる。


「君たちは彼らに、法術師に会うかもしれないし、会わないかもしれない」

「でも僕の与えた大きな先入観には余り囚われてほしくはない」

「彼らは特権と誓約でひどく生き難い思いをしている人間だ。力があるから役目を強いられる。戦場に駆り出される。戦いを強いられる」

「君たちはここにいることを選んでいるのだろう?」

「彼らは決して始めから戦場を選んではいない」


「僕に彼らの代弁などできないが、できることなら法術師ではなく、法術師となった人間として彼らのことを考えるべきではないかと僕は思う」


「時間も丁度いいね。僕の講義はこれで終了とする。今日話した内容は異能者や法術師の一端の知識でしかない。各自訓練演習までに少しは自主的に調べてみたまえ」

 

 講義が終わりスマイルは長く息を吐く。普段は講義をほとんどしないため彼も緊張していたのだ。

 雨の音は未だ続き講堂の窓を叩く。

 晴れることのない分厚い雲の所為か辺りは暗い。

 陰鬱とした重苦しい空気を感じる街並みが窓には映っていた。




 講義が終わり、学生たちはバラバラと講堂を出ていく。

 中等部の兵科も全員参加していたことから、ナディアとリミも当然この講堂内で講義を受けていた。

 ナディアなど、何度もスマイルとのやり取りを行ったおかげで色々と目立って恥ずかしい思いをしたが、身になる話を聞くことが出来たのからいいか、ともう立ち直っている。


 残っていても仕方ないので、ナディアとリミは講堂を出ようと椅子から立ち上がるが、そこへ呼び止める声が掛かった。

「やあ、さっきはすまなかったねえ」

 先ほどまで壇上で講義をしていたスマイル教授が袋を持ってナディアたちに近付いてきていた。

「両手を出してね」

 ガサゴソと袋の中を漁り、手の中いっぱいの紙の包みをナディアに差し出した。

 ナディアは疑問に思いながら手を出すと両手いっぱいに包みを乗せられる。

 一つ一つが大きく丸いもので、ねじった紙に包まれていた。

「飴玉だよ。非売品だけどすごく美味しいから」

「あ、ありがとうございます」

 大量に渡された飴玉の量に面喰いながらナディアはお礼を言った。

 スマイルの用事はそれだけだったようで直ぐに立ち去ろうと踵を返したが、ナディアは思わずその背中に声を掛けた。

「スマイル教授、差しさわりが無ければいいんですが、質問したいことがあるのですが」

 スマイルはその場で振り返り「いいよ。僕に答えられることなら」と白い歯を見せながら微笑む。

 ナディアは探るようにスマイルを見詰めながら質問を口にしようとした。

 ただそれは音となることはなかった。

 一度開けた口を閉じ、再び口を開いた。

「…説明の中で疑問に思ったのですが、魔物の領域で異能者はどれほど戦力になるのでしょうか?」

 スマイルはナディアの質問に顎を撫でながら考える。

「異能者は実力差が激しいからね。強い部隊だと小隊単位なら乙種を相手取れるくらいの実力かな。単体なら囲まれない限り甲種を問題なく倒せる」

「武芸大会で見ていたけど、君なら現状でも国軍の異能者くらいの力は持っているように思える。流石に師団でやっていけるほどはないみたいだけど」

 ナディアはスマイルの評価を聞き素直に頷く。

 自分の目的である師団がそんな低い目標では困るとでもいうかのように。


「今のうちに頑張るといい。異能の伸びしろは成長期に依存しているからね。君はまだまだ強くなれるよ」

 スマイルはナディアの瞳の強さを見て、確信に満ちた言葉を投げかけた。

 褒めているわけではなく、事実を口にするように。



 去っていくスマイルの背中をディアはひっそりとため息を吐いて見送った。

 誤魔化すように別の質問をしてしまったことへの僅かな後悔と安堵。

 口にしてはいけない言葉をスマイルにかけそうになっていた。

 質問したところで、明確な言葉など返ってこないことは分かり切っているのに。

 

 「ナディア、どうしたの」

  リミは気落ちした様子の友人にいたたまれなくなり声を掛ける。

  ナディアは何でもないと手を振ろうとしたが、手の中の大量の飴を思い出す。

 「何でもないわ。リミも食べる?」

  ナディアが飴でいっぱいの両手を差し出すとリミは半笑いで一つ受け取った。

  残りの飴も周りの人たちに配った。

  ナディアから飴を貰った人間は大げさなくらい喜んでおり、ナディアはそれにつられて笑顔が漏れる。

  飴ひとつで無邪気に喜ぶ誰かを思い出しながら、包み紙の中の飴玉を口に頬張る。

 

  赤みがかった金色の飴玉はリンゴに似た甘酸っぱい味がした。


  

 


 


補足説明です。

更に説明を加えて申し訳ないです。


ちょっとわかりにくかったであろう発現能力についてです。

これを二人の法術師を例に上げて説明します。



カノンさんは法術師になる前、喧嘩に明け暮れていました。

女番長です。

街中をシメていました。

そんなカノンさんには敵が多く、ある日のことその敵たちが30人の徒党を組みカノンさんを襲いました。

カノンさんも必死に戦いましたが相手も本気です。刃物有、釘バットあり、角材有の本当に容赦のない装備でした。

襲ってきた人間の半数を返り討ちにしましたが、カノンさんにも限界が訪れました。

『あ、これ死んだわ』

 カノンさんは流石に自分の死を悟りました。

 しかし、彼女は諦めることはしませんでした。文字通り死んでも勝つという信条で敵に殴り掛かっていきます。

 するとどうでしょう。

 殴った敵がお星さまになっていくではありませんか。

 カノンさんも意識が朦朧としていたため分かっていなかったのですが、この時彼女は法術を覚醒し、その力で相手を殴っていたのです。

 おかげで彼女は敵を全員倒すことに成功しましたとさ。

 おしまい。


 というように法術が覚醒しました。

 カノンさんは発現能力として「運動エネルギーの操作」が使えるようになったのです。

 サイコキネシスと思っていただいて大丈夫です。

 彼女はこの力で今日も元気に敵をブッ飛ばしています。



 次に不思議生物さんの例を見て見ましょう。


 不思議生物さんは研究者でした。

 夜遅くまで一人で研究しています。

 ある日のこと。

 いつものように夜中まで研究室にこもっていた時、明かりが消えてしまいました。

 不思議生物さんは困ってしまいました。

 『ああ、明かりが切れちゃったよ』

 するとどうでしょう。

 彼の頭上に光が灯ったではないですか。

 それはまさに昼の太陽のような眩しい光でした。

 あまりの光量の為、不思議生物さんの研究室は自然発火を起こしてしまいました。

 大惨事です。

 何とか命からがら逃げだした不思議生物さん。

 この時彼は大切なものを失っていました。

 彼の黒々とした髪はもう戻ってはこないのです。

 運悪く彼の髪に燃え移ってしまっていたのです。

 それからの彼は残り少なくなった髪を慈しむようになったそうな。

 おしまい。


 不思議生物さんはこうして「光」の発現能力を得ました。

 彼のような何気ない場面で発現する例はそれなりの数あります。

 今日も彼は育毛に余念がありません。


 ※この二つの物語はただの例文です。



 発現能力は術の展開も速いうえ強力なので、法術師が魔物と戦う際この力を主に使います。

 カノンさんは風を起こしたり、自分の体を移動させるのに使っています。

 不思議生物さんはピカピカと光らせています。

 発現能力を使わず、術式で戦うことも出来ますが、あまり常套手段ではありません。

 発動が遅く、威力の高い術を行使するためには大量のマナが必要だからです。

 基本的に法術師は修練すればどんな術式も扱えます。カノンさんが光を出したり、不思議生物さんが人をお星さまにしたり。

 勿論気力、マナの総量で不可能な術式もあります。そこは才能次第と言えます。

 

 重なる部分もありましたが補足は以上です。

 蛇足ですいません。


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