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蒼の誓約  作者: 毛井茂唯
第2章〈シオン〉
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(8)秘め事3

「君がどうして、いや何が目的だい……」

 ベンジャミンの声は険を帯び敵意が見える。

「いえ、今回に限れば何の企みもありません。ただのお節介ですので」

「お節介、だって。そんなの必要ないよ。できれば関わり合いになりたくはないんだけど」

「まあそうおっしゃらずに。青にも関わる重大なことですよ。多分」

「……聞くだけ聞こう」

「ふむ。青には甘いのですね、ベンジャミン殿は」

「そういうのはいいから」

「はいはい、青の話ですね……さて、あなたがどこまで知っているのかにもよるのですが……」

 ルガートは僅かに考えるように間を開けてから話を切り出した。

「青を祀り上げるものが教会だけでないことはご存知ですよね」

「ああ……知ってはいるけどそれが何なんだい。青を崇めている団体はいくつかあるけど、どこの活動も慈善事業のようなことばかりだと聞いているけど」

「やはりその程度の認識でしたか。彼らはそんな可愛いものではありませんよ。彼らは青を復活させるために過去、村をいくつも地図上から消したことさえあるのですよ。生贄と称してね」

「………在りえないよ。そんな大事が見逃されるような世ではないよ、今は」

「信じるかどうかはあなた次第です。こんな情報は正直あまり重要なものではありません。もっと重要なのは別のことです」

「……続けてくれ」

「先日教会本部に侵入者がありました。それは我々の組織の人間による犯行のようです」

「君たちが……いや、なぜそれを僕に教えるんだい?」

「確かに我々の組織の人間ではありましたが、その素性は先ほどお話に出した青の狂信者どもの犬でした。我々の開発した兵器を横流ししていたようです。本部の侵入についてもその特殊装備を用いたようでしたので」

「………」

「裏切り者にはしかるべき制裁を加えましたが、発見した時には彼らが目的を成してしまった後でした。彼らが教会に侵入したのは青の情報を入手するためだったようです。恐らく狂信者たちは教会と同等の情報を得てしまったでしょうね」

「そんなことが……」

「彼の周辺には気を配ることをお勧めしますよ。自分で言うのもなんですが、横流しされた我々の兵器は上手く運用すれば強力なものばかりですから」

「真偽はこちらで判断するけど、情報には感謝するよ」

「ふふっ。今回はサービスです。今度からはそれなりの対価を頂きますので、あしからず」

 


 ベンジャミンはルガートの通信を終え深くため息を吐いた。

 狂信的な集団には心当たりがまるでない。

 ベンジャミンはルガートには言わなかったが教会本部襲撃の報は既に受けていた。

 詳しい経緯は聞いていないが犯人は逃がしたということだ。

 犯人は何かしらの手段で姿を透明にし、気配もほとんどなかったという。特殊装備というルガートの話しとも辻褄が合う。

 ルガートの言葉を信じているわけではないが、ここまでして無為なことを言う人間とも思えない。

「何にしてもタイミングが悪い……。ユキト君ばかりか家族の情報が漏れているとなると、ホーエイ殿たちにも相応の護衛を付けなければならないけど……」

 相手いかんでは領主を辞して隠れ住むことも考えなければいけない。

 不気味さばかりで実体の見えてこない脅威にベンジャミンは冷たい汗を流した。

 


 ベンジャミンは法術師の身分を明かし、即時にユキトの両親たちが乗った鉄道が停車する駅へ連絡を取った。

 ユキトの両親にすぐにコバルティアに戻ってくるように応対した駅員にことづける。

 急場で護衛をたてるよりコバルティアに滞在した方がはるかに安全だろう。

 窮屈な思いをするかもしれないが、安全には代えられない。


 

 ベンジャミンは駅舎を出てユキトの元へ向かった。

 ユキトはミリアと共にまだ駅のホームで鉄道が走り去った方向を無言で見つめていた。

「ユキト君。すまないがボクの独断でホーエイ殿たちを呼び戻すことにしたから」

「え?今別れたばかりですよね……」

「理由は後から説明する。場合によっては色々騒がしくなるかもしれないけど、今はアンセー家の屋敷に帰ろう」

 ユキトは困惑しながらもベンジャミンの言葉に頷き、駅の出口へ歩き出そうとしたがすぐに立ち止まる。

 

 

 ユキトの耳には遠雷のような音が響いた。

 晴れ渡る空の下で。

 何の音かと気になり周囲を見渡す。

 ユキト以外の人間にも聞こえていたようで駅の人間も辺りを見回している。

 やがてある一点にその視線が集まり出した。

 ユキトも釣られるようにその方向に振り向く。


 遠方の山から僅かに茶色い土煙が上っているように見えた。距離が遠いためとても細い煙の柱に見える。

 煙はゆっくりと空へと昇り、雲のように広がっている。

 


 あの山には、鉄道が走るためのトンネルが通っている。

 家族を乗せた鉄道も、あの山に向かっていた。ユキトが先ほどまで手を振っていた方向に。



 

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