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(6.1)幕間.望み
僕にこれまで心残りなんてなかった。
緩やかな時間の中でただ何の願いもなく生きてきたんだ。
君に出会ったことは僕にとってはただ繰り返される日常にすぎない筈だった。
どうしてだろうね。
こんなにも君のことを大切に思うようになったのは。
辛い境遇への同情。
快活に働く姿。
悲しみに涙する様子。
邪険にしても気にかけてくれた。
どれも後付けでしかない。
君は特別ではないけど、僕にとってのたった一人の愛おしい人間だった。
僕はもう君を導いてあげられない。
守ることもできない。
だから、僕は君に全てを渡すよ。
きっと君を助けてくれる。
(あなたは誰なの?どうしてそんなに悲しそうな顔をしているの?)
……ごめん。
もう君には何の事だか分からなかったかな。
少し眠るといい。
きっとこの夢から覚めて新しい君になっているから。
(私が夢から覚めてもあなたはここにいるの?)
僕は夢の住人だから。
また夢の中で会えるかもしれない。
(またあなたと会いたいな)
僕も君とまた会いたいよ。




