(6)一つの終わり4
サクリフィシオの塔。
最上部、白の神子が眠る部屋。
「シオンの話を思い出して。とても大切なことがあったでしょう」
どこからともなく響く声はアイに語りかける。
「この大陸の歴史。かつて人間を滅ぼしかけた赤い軍勢」
アイはぼんやりとしながらはっきりと声に答えていた。
「そう、正解よ。そして赤い軍勢を従えた『赤』を封印しているのは、ダレッ?」
アイの返答に声は喜びを表わすように声色が高くなる。
「白の神子……わたしの目の前にいる人」
「ソウダヨ。ソノ人ガイナクナレバ人間ヲ全部ケシテクレル『赤』ガメザメルノ」
アイのぼんやりとしていた焦点はベッドに眠る老人を捉えていた。
「この人は……シオンの妹だって言っていた……そんな人を…違う、誰であっても……手にかけるのは」
アイは殺人を意識したことで声に対して強い否定の言葉を出した。
誰であっても人を傷つけてはいけない。
「そう。ならシオンは死んじゃうよ」
「え……」
「だってそうでしょう。人も殺せないアイなんかにシオンが守れるわけないよ。そんなことも分からないの?」
「シオンは明日にでも誰かに殺されるでしょうね。思い出してみなさいよ。セントリア教国で襲撃されたことを。あれはシオンを狙っていたのよ」
アイは再び声に耳を傾け、目に暗い光を宿そうとしていた。
「また襲ってくるかも知れない。別の誰かかもしれない。シオンには敵が多いのよ。人間の敵が」
アイから感情が漏れ出しているかのように薄紅色の光が漏れ出す。
「人間がシオンを殺すの。誰かがシオンを守るために戦わないといけない。いいえ、誰かではないわ」
アイの手にはいつの間にかガラス片のように物質化されたマナの刃が握られていた。
「ワタシガ、シオンヲマモルノ。ダレニモキズツケサセナイ」
この部屋には眠る二人とアイしかいない。
この部屋で、一人会話を繰り返していた人物はアイしかいなかった。
初めから彼女は一人、自問自答していたにすぎない。
アイは握られたマナの刃で老人の胸に深々と突き刺した。
瞳は暗い喜びに潤み、口角は楽しげに歪み、乾いた高い笑い声をあげながら何度もそれを繰り返した。




