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蒼の誓約  作者: 毛井茂唯
第2章〈シオン〉
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(3)二つの塔2

 この世界に魔物という存在はいなかった。

 魔物が出没するようになったのは青歴前のこと。

 青歴前はまだ人と人の戦争が多くあり、地図が幾度となく書き換わるような時代だった。

 

 法術師はこの時代に存在していた。戦争の命運を左右する兵士として。

 

 異能者はこの時代には存在しない。認知されていなかったのか、本当にいなかったのかは定かではない。


 当時、ミニシーア大陸の統一支配を目論んだ国があった。

 その国の名はセントリア皇国という。

 セントリア皇国は強大な軍事力でもって各国を支配し、蹂躙した。

 セントリア皇国の兵士が強かったわけではない。

 国が富んでいたわけでもなけれ、技術が優れていたわけでもない。


 その国に属する二人の法術師があまりにも強かったのだ。


 一人は黒の法術師と呼ばれた守護の力を得意とする者。彼の者は戦場において、味方にただの一人の戦死者も出さなかったと言われている。


 一人は青の法術師と呼ばれた攻撃の力を得意とする者。

 破壊の化身であり、彼の者が現れた戦場では敵兵は全て塵に変わり、後には更地しか残らなかったという。


 二人はセントリア皇国では英雄としてもてはやされ、他国からは死神や悪魔として恐れられた。


 戦争は二人の法術師によるワンサイドゲームでしかなかった。

 大陸の半数の国はその力を恐れ、降伏した。

 残りの半数の国は連合を組み、二人の法術師の属するセントリア皇国に物量に任せて攻めいった。

 多くの法術師を投入したにも関わらず、二人はまるで意に介さずそれを圧倒した。

 同じ法術師でありながら、その力には余りに開きがあったのだ。

 黒の法術師はどんなものさえ寄せ付けない結界で国を覆った。

 青の法術師は天を覆い、地を割く雷を操った。

 黒の結界は何十人の法術師が同時に放った法術を受けても傷一つ付かず。

 青の雷は何十人の法術師が張った結界を紙のように引き裂き蹂躙した。



 ミニシーア大陸の明暗を分ける戦争は二人の法術師を有する国の勝利に思われた。

 誰もがそう思っていた。

 敵国の連合国でさえ。



 それは突如として現れた。

 赤い軍勢。

 赤い目。赤いマナを纏った獣たちと人型の生物。

 彼らはいずこより現れ、連合国を喰らった。

 始めは少数だったという。

 しかし赤い軍勢は恐ろしい勢いでその数を増やしていた。

 原因はすぐに判明した。

 昨日までただの獣や人であったものが赤いマナに覆われ、変質し、赤の軍勢の兵士へと変わっていったのだ。

 赤いマナはどんどんと感染していった。

 ミニシーア大陸の西側から始まった赤い脅威は生物を次々に吸収し、大陸の3割を埋め尽くした。

 

 

 連合国が壊滅したことを受け、大陸の支配を目前まで控えていたセントリア皇国は、赤い軍勢を「魔物」と呼称し、国の全戦力を投入して対処にあたった。

 黒の法術師は赤い軍勢の流入を防ぐため、大陸を両断する結界を張った。

 しかしいくら黒の法術師と言えど、何の準備もなくこの規模の結界を張ることはできない。

 セントリア皇国の国力にものを言わせても、準備に半年の時が必要だった。

 結界の準備の間、大陸西側が魔物に喰らわれていくのを見ていることしかできなかった。

 

 結界が用意されるまでの間、多くの兵士たちが赤い軍勢と戦い、犠牲となった。

 セントリア皇国の兵士と法術師は大陸の東側、セントリア皇国内に侵入した魔物の対処にあたった。

 青の法術師は大陸西側、最も苛烈な前線で赤い軍勢を押しとどめた。

 そればかりでなく、赤い軍勢を独力で西に押し返していった。

 人々は彼を英雄と称え、祈りを、願いを託した。

 

 

「青の法術師は魔物の元凶となるものを討伐した」

 黒の法術師の結界が完成した直後、セントリア皇国より発表がなされた。

 

 青の法術師は西より帰還することなく、自身の命と引き換えに討伐したのだと言われている。

 命と引き換えに多くの人を救った彼は救世の英雄、現人神とまで祀り上げられた。

 

 

 青の法術師が西に進む過程で、魔物はその数を著しく減らしたが全滅したわけではない。

 しかし魔物たちは赤いマナの媒介となる生物がいなければその数を増やすことが出来ない。

 黒の法術師はセントリア皇国と協力し三神教会を作り、魔物に対抗するための組織と結界維持のための施設を作った。

 やがて黒の法術師も人々の信仰を集め、黒の神子と呼ばれるようになった。

 

 魔物の出現の際、大陸西側の国に住んでいた人間の多くは東に避難した。

 セントリア皇国はそれを受け、赤の軍勢の終息後はこれまで吸収してきた国を解体し、それぞれに提供した。

 代わりに自身の国をセントリア教国と改名し、自国に三神教会の本部と黒の神子の住まうカタカネスの塔を置いた。

 年号は青歴に変わったのは、セントリア皇国が教国に変わった時期と同じであり、多くの国が建国された時期でもある。

 国の解体に時間が掛かったため正確には時期にズレはあるが、どの国も青歴元年を建国年としていた。

 

 

 青歴の始まりから今日までセントリア教国は表向き、塔は一つとしているが、実際にはもう一つの塔が存在している。

 

 カタカネスの塔は黒の神子が住まう塔であり、三夜月の守護結界の重要な役割を担う。

 人の領域と魔物の領域を分けるための役割を持つ「守護の塔」。

 

 

 もう一つの塔の名は、サクリフィシオ。

「導きの塔」と呼ばれ、「白の神子」が住まう塔。

 

 その役割は世界の秩序を保つこと。

 「赤」を封印すること。

 




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