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蒼の誓約  作者: 毛井茂唯
第2章〈シオン〉
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(2)スター・アイドルの男塾3 追い求めた理想3

「マナの概念化……イデアというそうだ」

 カノンの言葉はやけに鮮明にユキトの耳へと届いていた。

 師匠の目指す到達点。その極致の存在をユキトは初めて知った。


「もしマナの概念化が行えればそれはもはや万能どころの話ではない。全能の力だ。その術者は神と同義と言っていい」

 ユキトはカノンの話を聞いて胸の鼓動が大きくなっていく。カノンの言葉が理解できない訳ではない。

 「蒼」によりマナを概念に変換することが出来るのは理解している。

 実際に「再生」と「浄化」の概念化を行っている。

 ただカノンが説明するほどの力とは認識していなかった。

 いや、それどころではない。

 師匠が目指すものの正体を知り、ユキトの頭は焦燥感に支配されていた。


「私はマナを概念化させられる法術師を知っている。しかし、あやつは特化した力の持ち主であるだけで万能ではない」

 カノンはいよいよ視線を強め、ユキトを見る。


「その法術師はその力を使い、死んだ。お前の使っている術は、人間の命を削る外法だぞ」


 師匠の目指す万能の力は。

 命を燃やして得られる。

 呪いの力だったのだと。



 二人の間には沈黙が流れ、僅かな音も聞こえてこない。あるのは二人の息遣いだけだった。

 カノンは語り終え、ユキトの言葉を待った。この少年がこの事実に対して何と答えるのか、カノンは試していた。返答次第では………。


 ユキトは黙ったまま下を向いた。キリエとディッケンはその場にいるが、困惑したようにユキトとカノンの顔を交互に見る。

「え、いったい二人は何を言っているの!」

「分かんねえよ。さっきから音が消えたみたいに何も聞こえねえ」

 カノンは音の隠蔽をユキトと自分との間で行っていた。

 カノンはキリエたちが術に対して正確な知識がないことを見て取り、会話を聞かせなかった。

 機密ということもあるが、話すかどうか判断するのはユキトの言葉を聞いてからでもいいと思ったからでもある。


「お前は自分の命を削っていることを理解しているのか?」

 ユキトは小さな拳を握りしめ、顔を上げた。

 息を吸い込み、自身の本音を飲み込んで。


「………僕は……あなたに全てを話せません。でも、一つだけ……言えることがあります」

 ユキトの視線を受けて、カノンは僅かに怯んだ。のみ込まれるような強くまっすぐな意思を宿した瞳。

 曲がることを知らない、強靭な意志の力を感じる。

 かつて見た、あの男と同種の瞳を。

「自分の命の使い方は自分で決めます。例え報われなくても、後悔だけはしたくないんです。僕がこの力を持って生まれたことに意味があるのなら、それが確かめられるまで力を使い続けます」

 カノンはユキトの言葉に寒気を覚えた。この子の言葉は重い。これ程までの決意をどうして幼子が示せるのか。

 命を削る行為を肯定するなどできていいはずがない。できてはいけない。


「それで……お前は死ぬというわけか……」

 カノンはどこか疲れた老人を思わせる表情を見せた。

「……僕自身が術を使って分かったことですが、マナの概念化は確かに生命力を削りますけど、そんなに急激な消耗でもないです。加減を間違えなければ、ちゃんと長生きできますよ」

 ユキトは少し影のある笑みを見せてそういった。

 ユキトの瞳に揺れ動く感情は複雑すぎて、カノンには読み取ることが出来なかった。

「ユキト、お前は私の知っている法術師に似ている。だからかね。お前のその言葉を私は信じることが出来ないよ」

 カノンはユキトの奥底に宿る意思を見ることを諦めた。だから一つだけ確かな形で言い聞かせることにした。

「一つ約束してくれ。むやみにその術を使うな。ベンジャミンもそう言うはずだ」

「……極力は」

「今は…それでいい」

 カノンはこの約束で、少年が力を使うことに対して僅かながらでも思慮が得られればと願った。

 

 

 カノンは未だ困惑しているキリエたちに目を向ける。

「こやつらには何も言はないのか?」

 ユキトはそれを聞いて首を横に振る。

「そんな恩着せがましいことしませんよ。僕が二人を助けたいから助けただけの話です」

 ユキトは少し思い出したように笑い「ほんの少ししか話してないですけど、何だかすごくいい人たちに思えてならないんです。そんな人たちに要らない負い目を与えるのは嫌ですから」と付け加えた。


「ユキトは、喋り方や言葉遣いもそうだが考え方も子供らしくないのう」

「よく言われます。というより今更ですね」

「私は頭に血が上りやすいのだ。さっき反省したばかりだというのにな」

 カノンは再び右手を振るい術を解いた。キリエとディッケンに会話が聞こえるようにした。

 キリエやディッケンが問い詰めてきたが、カノンがお茶を濁して誤魔化した。ユキトもそれに乗った。


 カノンとの会話のさなか、蒼の光はユキトの傍らに浮かんでいた。ユキトのことを見守るように。

 ユキトの思いを聞き、光は揺らぐ。

 蒼の光がユキトの周囲を飛び回る光景に、この場の誰一人、目を向けることはなかった。



「よし、私もベンジャミンに協力しようかの。ベンジャミンはユキトのために動いておるのだろう」

 キリエはカノンの言葉に頷く。

「ええ、そうです。その為に会議に出席しています」

 話は落ち着き、次のことを考えだした一行。

「私も乗ろう。ユキトの話を聞いて私もユキトを教会などに渡す気がなくなったわ。もちろん、国家も同様じゃ」

「ええ!本当ですか?」

「ああ、私に二言はない」

 カノンはユキトに視線を送る。

 あどけないように見えて強い意志を見せた少年。同時に危うく、簡単にその身を投げ出してしまいそうにも感じた。

 カノンは自分でも、ユキトを特別視しているように思う。

 ベンジャミンの弟子。法術師。イデアの使い手。決意を見せたあの瞳。

 自分とベンジャミンに深い後悔と大きな理想を押し付けていった、あのバカな男に、よく似ていた。

「見てくれは、全く違うんじゃがな……」

 4人は貴賓室から出て、会議の会場である大ホールに向かった。

 扉の騎士はカノンの「どけ」という言葉により、金縛りにかかり使い物にならなくなった。

 まったく、職務怠慢な騎士である。



 会議室の前の騎士はカノンの眼光を受けて、顔を蒼くさせるも道を譲らなかった。

「困ります、ユキト様。ここに立ち入られては……」

「どうしても中に入りたいんです。僕の話を聞いてほしいんです!」

「ユキト、下がっておれ」

 カノンはそういってユキトの体を自分の後ろへと移動させえる。カノンの手は刀にかかっていた。

「お前は、いったい誰だ!ユキト様の連れとは言え、武器を持ち出すなど」

「私も名が売れてないのう。やはりお嬢ちゃんは例外かね」

 カノンは鬼気を迸らせ問う。

「退け。二度目はない」

 騎士はカノンの実力と本気を感じ取ったが、引かなかった。

 カノンは温厚ではない。必要ならば、いや必要なくても死なない程度に人を痛めつけるような鬼のような性格をしている。そして頭に血が上りやすかった。

 もはやカノンの頭には、扉ごと騎士をボコボコにすることしか考えていなかった。反省はまるで生かされていない。

 そんな緊迫した状況の中、扉が開かれた。









 スター・アイドルの男塾4 片翼の法術師に続く…………三部構成とでも思ったかい。ふっ、それはボクの妄想だったのさ! byベンジャミン



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