(1)風花雪月3
その夜、アクシーバ司祭との会談を終えた後からずっと。
シオンは自分の部屋の机に突っ伏していた。
「……あれは何だ!……あのリアクションはないだろう………」
アクシーバからもたらされた『青』の話題に対する反応を隠すためとはいえ、あれでは奇人変人ではないか。
シオンは自分のあまりの大根役者ぶりと、あの老人に対する別種の苦手意識に懊悩としていた。
あのあとアクシーバからは腫れ物に触るように「大丈夫か」「過去に何があったかは聞かぬが、おぬしとは縁もあるゆえ相談に乗るぞ」などと気遣われてしまった。
もう起きてしまったことは仕方がないと、割り切れるほどシオンは大人ではないが、考えても切りがないことに時間を使うほど怠け者でもない。立ち直るのに半日かかっているが。
「『青』か……」
ここには誰もいないため、シオンはその名に対する思いを素直に表情に表わす。
喜び、というのが一番近いのかもしれないが、どこかシオンの表情は儚く、戸惑いを含んでいた。
「君がこの世界に再び現れたことは、果たしてどんな意味があるのだろうね」
「もう、僕は世界のことを諦めてしまっているけど。君は……また……」
シオンは立ち上がる。
体からは光の粒が漏れ出す。
闇に浮かぶその色は「白」。
やがて少年だった体は丸みを帯びていく。
水仙色の髪は、闇に溶けるような黒髪に。
髪の隙間に隠れていた瞳は、光を放つ白眼に。
身長は少年の体であった時と変わっていない。
10歳にしか見えない容貌。
特別容姿に優れているわけではないが、子供らしい愛らしさがのぞく顔立ちをしている。
「『××××』を救おうとするのかな………」
シオンは呟きをもらし、一人、夜の闇を見つめていた。




