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蒼の誓約  作者: 毛井茂唯
第1章〈ユキト〉
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(0.1)どんな者も等しく2

 帰り道で蛍を見た次の日、体に異変が起きていた。

 体が重い。体を起こそうとするだけでかなりの労力が必要だった。

 まさか、風邪を引いたのだろうか。心当たりはなかったけど、引くときは引くものだろう。

 正直いって、今までの風邪とは比べものにならないくらい体がしんどい。自分の部屋からリビングまで行き、母さんに事情を話さなくてはいけない。いけないのだが……。


「ぐ、くっ〜〜〜〜、ふんぬおぉぉ〜〜、ぐえっ」

 ベッドから降りて立ち上がろうとしても、まるで足に力が入らず、ずっこける。

 長時間正座させられた後の、リアクションを素でやってしまった。無様だ。

 仕方ないので這いつくばって行く。幸い僕の部屋は1階なので、同じ1階のリビングに辿り着くまでに段差はほとんどない。


 部屋を這いつくばって何とか出ることに成功した僕は、ちょうど早朝ランニングから帰ってきた兄に会った。

 何この男前、と思わず言いたくなるような男、それが兄だ。僕はそんなこと思ったこと無いがね。

 身長は僕と対して変わらないが、体はかなり鍛えている。社会人になってスポーツの楽しさに目覚め、今では部活をしている僕以上に体を鍛えるのに熱心だ。

 髪は基本黒髪だが、髪型は良く変わり、今は少し伸ばした髪にパーマを軽く掛けている。

 いつも彼女がいる。僕に喧嘩売っている。………爪の垢いただけますか?

 ところで、そこのお兄さん?とんでもないほどの労力を振り絞り、芋虫上等で移動する弟をそんな冷たい目で見ないで欲しい。

「お前、何をやってんだ。踏むぞ、こら」

 兄と僕の会話は基本短く、高校生になってもよく兄は僕に、ボディランゲージを敢行する。今も蹴り転されている。

 おおっ、先ほどとは比べものにならないスピードを得た。

「計画どおぶっ!」喋っているから蹴らないで欲しい、舌を噛み切るところだったよ、全く。


 リビングの少し手前で蹴りがやむ。ここまで転がされたがあんまり痛くなかった。実際に蹴られた訳じゃなく、足で押されていただけだしね。

「……どうした、さっきからじっとして」

 さすがの兄も何の抵抗のない僕を訝しく思い、転がすのを止めた。

「いや、朝起きたら調子悪くて、足腰も立たないから這っていこうかと」

「それ、本当なのか?」

 兄は眉を寄せる。足が立たないから這っていこうとした、天性の閃きに感動したわけではなく、体の調子のことを聞いているのだろう。僕は頭を縦に振る。

「しゃーねぇなあ」

 いかにもだるく聞こえるよう言ってから、兄は後ろから僕の両脇に腕を差し込んで持ち上げた。

 えっちら、おっちらと、僕をリビングのソファーまで運んでくれた。僕は体重が65キロはある上、体の力が抜けているからかなり重く感じるはずだが、さすがマッチョメン兄さん、そこに痺れる、憧れない。

 無事ソファーに座ることできたが、体の重さはさらに増したような気がする。ぐったりと深く腰かけて、動く気が起きない。

「お前マジに体調悪そうだな、救急車呼ぶか?」

「その前に母さん呼んで」

 自分がどの程度悪いのか分からないが、病院には行かないといけないだろう。とりあえず母さんに相談しよう。

「おはよう、どうしたの?ぐったりして」

 母さんは台所から出てきた。女性としては高身長だけど僕や兄より低い。黒髪を少し染めていて、身嗜みに気を遣っている。

 結婚が遅く、兄も成人しており同級生の親とは年に開きがあるが、いつも若くて綺麗と同級生には言われていた。

 母さんに事情を説明すると母さんはすぐに119番に電話した。

 兄と父は仕事があったため母さんが付き添い、救急車に乗って病院へ。

 元々掛かり付けの病院もなかったため、救急を呼ぶことに躊躇いがなかったようだ。

 兄が仕事を休んで付いて来てくれたとしても、担架なしに人一人を移動するのは難しかっただろう。

 

 結果として僕は即入院、即検査することになった。今更だが、風邪ではなかった。

 幸い体が全く動かせないわけでもなく、意識もはっきりしていた。入院中は色々な場面で看護師さんが助けてくれるため何とかなっているが、この状態で家の中で生活するのはとてもじゃないが無理だ。


 一週間が経ち、全ての検査結果がそろっても、原因は不明のまま。

 僕は先の見えない不安と、暫くすれば良くなるのではという安易な考えを持っていた。

 暇だからと言って、勉強するぜ!と思えるほどまじめでもないので、入院中に訪ねて来てくれた妹さんが持ってきた小説を読んでいる。どうやら彼女の姉の好きな小説だそうだ。グッジョブ、妹さん。

 でも入院中に読む本が、シェイクスピアっていうのはどうなのだろう?妹さん。

 そして好きな女子では無く、その妹の方と仲がいいのはどうなのだろう?僕。

 まあ、悪いよりはいいだろうけど、彼女が妹さんに「あれ、彼氏が出来たの、おめでとう」などという言葉を、彼女の口から聞いてしまう事態になれば、失意のあまり妹さんにプロポーズして、盗んだワイフとハネムーンしてしまうかもしれない。

 そういえば妹さんは今日も来てくれるらしい。

 ええ妹さんや。姉さんも大層ええ人なのでしょう?

当たり前でしょう、わての好きな人やで。



 ……ああ、暇だ。

 


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