(5)急襲2
「はあ、さてどうしよかね。おれ、子どもは趣味じゃ無いんだが、姿を見られちまったしなあ……」
黒尽くめの男は腕を組んで考え出す。僕はそれを目の端で捉えながら、グレゴさんの様子を見る。
グレゴさんは、胸に硝子が刺さりそのまま仰向けに倒れた。息が上手く吸えないのか、呼吸が乱れている。意識はあるようだ。大きめの破片だけど、即死みたいなことは無いみたいだ。
早く医者に診せなくてはいけないが、打開策が思い浮かばない。
大声で叫んで助けを呼ぶことを考えたが却下した。
寝室には姉さんがいる。一番にこの部屋に辿り着く人間が、姉さんになるのは避けたい。だが助けを呼ばなければ、どうにもならない。
なら、正解は沈黙だ。黒尽くめの男は硝子を突き破った。誰も気が付かない訳がない。
「坊主、おじさんとちょっと出かけねえか?おれはおまえを殺したくないんだが、顔見られたら殺すっていう、おじさんの自分ルールがあるんだわ」
「どういうことですか……話が見えません」
「おれは殺せないから、別の人間に適当に頼もうと思ってるんだよ。賢そうに見えて察しの悪い坊主だな」
こいつ、何の気負い無く、人を殺す相談をその相手に求めるのか。
でも事態はもっと最悪に転がっていく。
「ユキト〜〜さっきの音、何……。硝子が割れたみたいに聞こえ……」
姉さんは気怠げに、寝室から出てきた。目を擦っていて周りが見えていない。
バン。爆竹の爆ぜた音がした。僕は慌て、黒尽くめの男に視線を向けるが奴はいなかった。
黒尽くめの男は、倒れた姉さんの後ろに立っていた。5エーデルの距離を一瞬で移動していた。
「危ねえ、危ねえ。またガキに、顔見られるところだったぜ。命拾いした嬢ちゃん……お、この嬢ちゃん異能封じの腕輪してるじゃねえか!まだ小っこいのに大変だな」
「この!姉さんに何をした!」
「気絶させただけだぜ。すぐ目が覚める。ふーん、坊主と嬢ちゃんは姉弟か。しかも異能者を身内にねえ」
黒尽くめの男は、どこまでも気の抜けた態度を崩さない。だが違う。男の瞳だけは怖いほど冷たい。だめだ、誰かが、もし両親が来たら、この男は殺す。躊躇無く。助けなんて期待できない。
男はふんふんと何かを考えだし、考えがまとまったのかこちらに笑みを浮かべた。口角を上げ、目だけはギラギラと輝かせて。
「坊主、てめえの死に方を決めてやったよ、安心しな。楽に死ねるからよ」
僕は、男が目の前から消えたと思った瞬間には、意識が途切れていた。




