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蒼の誓約  作者: 毛井茂唯
第1章〈ユキト〉
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(4)広がる世界

「まずは、ホテルの部屋に荷物を預けに行こうか」

 お父さまの発案で、一時ホテルを目指す。もしものときの集合場所になるな。しっかり道順を覚えよう。


 そう思っていました。最初はね。

 州都すごいぜ!本当に色んなものがある。

食べ物だけでも結構おかしなものがあるのに、なんだよあれ、すごく怪しげな液体の硝子瓶とか売ってる店があるよ。

あの骨でか!何の生き物だ、いったい。

おお、昼間から樽ごとお酒飲んでるおじさんがいるよ。もしかしてこの世界には急性アルコール中毒なんて存在しないのか?……あ、倒れた。

 もの凄い勢いで樽に向かって口から液体を噴射してるよ。マーライオンみたい。

 周りの人拍手してるし、マジックみたいだなあ。種も仕掛けも何にもないマジックだけど、一応おじさんは大丈夫そうだ。

 そうやってあっちこっちに目を奪われてしまい、いつの間にかホテルに着いていた。

 道は覚えていません。だが、後悔はしていない。


 ホテルもいいところを取ったようで、一泊の値段は怖くて聞けない。そして聞いても、金銭感覚のない僕には分からない。

 一応今回はお小遣いを貰い、買い物を体験することになっている。その場で教えてくれるそうだ。

 なかなか理にかなった、勉強方法だ。おかげで飴が買える。


 荷物を預けた後はお父さまとは別行動。従者も二手に分かれる。

 茶色の短髪をしたがたいのいいおじさんが、お父さまについて行く。名前はグレゴ。名前もごっつい。この人は初めて見た知らない人。


 もう1人はもはや熊そのものと言っていい、2メートル(この世界の単位だと2エーデルもないくらい)を超える上背を持つおじさん。

 何のことはない屋敷の庭師のジアードだ。とても気のいい人だが、本業はホーエイの警備官だ。

 屋敷の警備の片手間で非番に庭いじりをしている。僕も姉さんもずっと庭師が本業と思っていたため、今日引き合わされたときはかなり驚いた。

 僕は正直この熊みたいなジアードに肩車してもらって、州都を練り歩きたいが、さすがに許してもらえないかな。諦めてお母さまと手を繋いで歩く。

 なんだかお母さまは楽しそうだね。


 僕とお母さま、姉さんとジアードの4人で学園見学へ向かうが、僕はちらちらと物欲しそうにジアードを見てしまう。

 ああ、乗りたい。ジアードに乗りたい。

「奥方、坊ちゃまが少しお疲れのようですよ」

「え、そうなの、ユキト?」

 学園に向かう途中でジアードがお母さまに話しかけた。ジアードは僕にしか見えないで位置で、こちらに視線を寄越す。これはもしや……。

「はい、少し疲れてきました。まだ平気だけど……」

「では少し休憩しましょうか。ユキトも鉄道で疲れちゃったのね」

「いいえお母さま、私に任せて!ユキトをおぶっていくわ!」

 おっと意外な伏兵の登場だ。それは僕の姉だった。

 ジアードが何か言う前に思いっきり遮っちゃったよ。ジアードも困った顔で姉さんに声をかける。

「お嬢様。自分にお任せください。力には自信がありますし、背も高いから肩車すれば、街が良く見て回れますよ」

 ジアード痺れる、憧れるー!いいぞ、もっとやれ。

 そしてお母さま。「肩車……」と呟いて、肩の調子を確かめないでください。

 いくら5歳児でもお母さまには重いです。

 姉さんは色んな意味で論外だ。プリーズ・ギブ・ミー・ジアード。

「うう…。そうだ!ユキトはどうしたいの」

「ジアードの肩車がいいです」

 もちろん即答だよ。迷う余地なく。姉さんは落ち込んだ。なぜさっきの質問で天啓が下りたみたいな顔が出来たんですか、あなたは。

 100歩譲ってお母さまを選んでも、一万歩譲ったって、姉さんは選ばないよ。前にとんでもないトラウマを植え付けられたからね。


 おかしなやり取りはあったが僕は特等席を手に入れた。ジアードにはちゃんと「ありがとう」とお礼を言った。

 ジアード「お気になさらず」と笑みを浮かべ返事を返してきた。かっこいいぜ、ジアード。もう好感度はお父さまを遙かに抜き去ったな。

 

 今、駅から続く州都の大通りを歩いているが、背の低い僕はいまいち景色を楽しめなかった。だがそれも今、このときから変わる!

 ジアードは僕の両脇を掴んで、軽く持ち上げて肩車をしてくれた。

 僕はそのため周りの人たちより、頭三つ分以上高い視点を得た。

 やばい。これはすごい、楽しい。

 大通りに面した建物は、すべて石積みやレンガ、漆喰の建物ばかりで木造は目に付かなかった。

 僕は前世で、外国に旅行に行ったことがなかったため、異国の街を本格的に歩き回るのはこれが初めてだ。

 ホーエイの街だって異国の街だが、悲しいかな、乗り物での素通りしかしてなかった。

 しかもこの超高層ジアードの肩の上だ。絶景かな、絶景かな。

 高すぎておっしりがピリピリするけどね。

 姉さんもこちらをジッと見てくる。

 肩車が羨ましいのか。後で変わってあげようかな。独り占めしても悪いし。

 そうやって大通りを歩きながら、一番目立つ建物に目を向けた。


 王城。

 この国で一番偉い人が住んでいる場所。白亜の外壁が見える。

 某テーマパークのような尖った形ではなく、タージ・マハルに近い見かけだ。屋根はドーム型ではなく平らで、左右対称でもないが、この城の色を見てそれを連想した。

 というか前世の建物の名前を覚えていたことに驚いた。どうなっているんだろう、僕の記憶。

 大切な記憶はごっそりなくしたと思っていたが、本当にどうでもいいことを覚えていたりする。

 いや、あまり深く考えるのはよそう。折角の楽しい時間がもったいない。

 それから少し歩いてから大通りを外れ、学園へと向かった。



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