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(0)プロローグ 「赤黒い檻」
籠目の檻
そこから見えるものだけが私のすべてで。
昔の記憶だけが私の救いだった。
私には役割があっても、意志はない。
全てを奪われてから私にあるのは、ただ茫漠と降り積もる時間だけだった。
私を崇める者も、慕うものも、畏れるものも、皆等しくどうでもよかった。
この籠目の小さな世界において、限りなく死は無意味だ。
永年に訪れることのない憧憬だ。
だって何百年経とうと私は死なないのだから。
だって何百年経とうと私は忘れられないのだから
ずっとあの苦しみを覚えているのだから。
意味のない繰り返しに答えなど在るのだろうか。
思うことすら無意味なのだろうか。
でも。
ただ一つこの生に意味を見いだせるのだとしたら。
もう一度、君に会いたい。
私は今も、君を愛しているよ。




