(10)エピローグ 約束したよね
駅を出発したばかりの、揺れる鉄道の車内。
行きとは真逆の方向へ流れる風景を不安そうに眺める少女がいた。
学府の兵科に通う中等部2年生、リミリル・パセットだ。
同じボックス席に座る友人たちは、暗い顔の彼女を励ましたが、効果はなかった。
リミは開拓村カナベリタで行われていた訓練演習を切り上げ、コバルティア首国への帰路についていた。
魔物の領域で異常事態が発生したらしく、訓練演習どころではなくなったためだ。
リミたち学生は詳しい話を聞かされないまま荷物をまとめさせられ、鉄道に乗せられている。
開拓村の人々の噂によれば魔物の大規模氾濫が起きたためと言われているが、どうにも様子がおかしかった。
確かにそれならば前線に向かった学生は魔物の領域行きは中止になるかもしれないが、後方の自分たちが即時帰還となるのはおかしい。
不安だけが胸の中に溜まり、表情は暗くなる。
「約束したよね、ナディア。……ちゃんと、帰ってくるよね……」
無事であるかさえ分からない友人を思い、リミは去りゆく西の空をただ眺めた。
彼女の心情を映したかのように、空には暗く、重い色合いの巨大な雲が湧き上がっていた。




