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6 星の日

 楽しんで頂けたら幸いです。

 星が綺麗だった。

 見上げた空は雲一つなく、満天の星々が輝いている。

 この空を眺めていると、ちょっとした悩みなんてすぐにどうでもよくなってしまいそうだ。安心というかなんというか、表せれる言葉があるとすれば、それは多分「心が晴れやかになる」と言うことだろう。

 だが、すぐにどうでもよくなるはずの悩みはどうにもならなかった。

 俺は美鈴を背中の背負いながら、住宅街を歩いていた。背負っている美鈴は小さな寝息を立てて、寝てしまっている。

 なぜこうなってしまったかを説明するのは簡単だ。美鈴に代わってラーメン代を代りに払った後、美鈴を送って行こうとしていたらカウンターで寝ていた。

 もちろん何度も起こしてみたけど、ついには目覚めることはなかった。仕方がなく、俺は寝たままの美鈴を背負って歩いているという始末である。

 ちなみにコイツの家は、店長に調べてもらったので大丈夫だ。

 さて、ここまで来て思うことがあるとすれば一つだけある。

 正直、つらい。

 かれこれもう、三キロ近く歩いている。

いや、小学校からの単純な総合距離だが。

「それにしても……」

 見上げた空を見ながら思う。

「絶好の写真日和だよな」

 この分なら別に、星座を目的に撮らなくてもいい。この空を撮るだけでも十分題材になる。残念ならコイツを連れて帰ったら、今日は帰ることになりそうだ。さすがに歩いて小学校に戻るのはきつい。

 いやはや、それにしても。

名残惜しい。

「ねえ」

「わっ⁉」

 突然話し掛けられて驚いた。

 美鈴は背おられたまま、自分の細い腕で目をこする。そうしながらのんびりとした声で話し掛けてきた。

「うるさい」

「釈然としないんだけど、ごめん」

「うん」

「……、」

「……、」

 そのまま俺たちは黙り込んでしまった。

 また寝てしまったのかと思い、美鈴に向って声を掛ける。

「寝たか?」

「その質問はちょっとおかしい。寝ていることを前提に話しかけているのなら、返事があるはずない」

「確かに。普通なら、起きてるか? だもんな。つーか、お前起きてたんだな」

 こくりと頷く。

 立ち止まらせていた脚を再び動かし始める。

「そういえばさ、さっき何を言おうとしてたんだ?」

「……、」

「あの、黙らないで下さる⁉ すごく悲しいんだけど‼」

 そう叫んだものの無言を貫き通す。これ以上喚いても無駄だと思った俺は、それ以上追及することもせずにまた星空を眺めながら歩き出す。

 ああ、写真に撮りてえ。

 そういや、こいつをおんぶするために荷物もあそこに置いてきたんだよなあ。

「思い出した」

「さっきの事か?」

「うん。ねえ、君はどう思う? 『星の日』に関して宇宙人はいると思う?」

「……、」

 いろいろと言ってやりたい。

 さてはて、まずは何処から言えばいいのか分からない。

 とりあえず指摘するところは、

「まず始めに言っておくが、何可笑しなことを聞いて来てんだ!」

「そうだね。可笑しいね」

「自覚があるのは大変よろしいことだが、ならなぜ尋ねる!」

 うーん、と美鈴は俺の背中の中で唸り出す。そのままフリーズ状態に陥り、再び沈黙が支配しだした。

 そうしてまた、先程と同じようにしばらくたってから答えた。

「それは多分――君とさっき会った時、普通に受け入れてくれたからだと思う」

 すまん、それは気のせいだ。

 態度はお前が思うようなものだったかもしれない。だけど、内心ではとても驚いていたわけだが、こいつは気が付いていないらしい。

 まあ、驚いてはいたが、普通の人が考える以上には驚いていない。普段から、ある枠から外れた者に対しての耐性は出来ている。

 それに『星の日』の影響もあるのだろう。

「そっか。そうだよな、普通の奴が見たなら驚くよな」

「うん。で、どう思う? 宇宙人はいると思う?」

「んーっとだな、あのさ? これから俺が言うことは全部仮説なんだけど、それでもいいなら聞くか」

 写真にしか興味のないことだが、あの『星の日』の出来事以来、俺もあれこれ調べていたりする。

 いや、俺だけじゃない。

 この街のほとんどの人はだろう。

 あの一件は単なる科学的に説明できることなのか、超常現象なのかどうかと思いながら。

「うん」

 返事があったので俺は淡々と語り出した。

「俺はだな、アレは恒星の活動が活発で起こったものだと思ってる」

「どういうこと?」

「ほら、太陽でも活発になると不思議な現象が起こるだろ。太陽嵐とかさ」

「うん」

「だからさ、活動が活発になる他にそれ以外の何かしらの原因で起こったもんだと思う」

「……、」

 俺は小さくため息を吐く。

 またか。

 美鈴は黙り込んでしまった。

 ここまで会話してきて分かるが、美鈴はどうやら自分の意見を言う時は長く考えるらしい。普通の会話が早いのは多分『はい』か『いいえ』で済むからだと思う。

 でも、こうやって深く考えているということは、いろんなパターンから考えているのだろう。

 だから、それなりの返事をしてくると思った。

「つまらない」

「なっ⁉」

 予想に反しての簡素で質素な答えだった。

 えーっと、それだけなら考える必要はなかったのでは、と考えてしまうがそれは本当に多方面から考えた末の結論なのだろう。

 しかし、関心はしていられない。

 どうしてあっさりと『つまらない』と言えたのかが気になる。

「おい、真面目に答えたのに『つまらない』ってどういうことだ?」

「君の答えにはロマンがない」

「ロマン……?」

 そう言われれば、現実味がある方向に考えすぎていたような気がする。もっと砕けて、色んな方向から思考すればよかった。

 ならば、ずっとひそかに考えていたことを言った方が良いなと思う。

「じゃあさ、かなりSFな話になるけどいいか」

「うん、良いよ」

 かつて思い描いた夢想を俺は語り出す。

「一つとしては、あの『星の日』の出来事は未来人が現れたんじゃないのかな」

「未来人?」

「そう。あの光については、まず時間を超えるにはそれだけたくさんのエネルギーが必要だ。例えば、太陽は最終的にはブラックホールになるっていうけど、あれも俺たちの銀河系にある大きさじゃなくて、何百倍も大きい太陽じゃないとブラックホールにならないんだ。だからさ、時間を飛び越えるにはそれくらいのエネルギーが必要だと思うんだ」

 だけど、と付け足す。

「ブラックホールの場合は空間だけだろ。時間自体を飛び越えようと思ったら、もっと力が必要になると思うんだ」

「どういうこと?」

 首を傾げてた尋ねてくる。

 声音からして興味を持ってくれているようだ。

「だって、時間を超えて別の時間軸に跳ぶってことは、空間も作用してくるはずなんた」

「あ、そっか」

 美鈴が気が付いた世に声を上げた。

 どうやら俺が何を言いたいのかが分かってきているようだ。

「そういうこと。時間だけを歪めてもそれはただ単に、時間を速めるか遅めるだけだ。別の時間軸に行こうと思ったら、空間も歪めないといけない」

「なるほど。これは夢がある」

 かなり恥ずかしいことを話しているはずだが、お褒めの言葉を頂けたので一安心する。

「じゃあ次にだけど、これはもうオーソドックスにブラックホールの向こう側にあるであろう平行世界から来た人たちかな」

「パラレルワールド」

「そうそう。けど、これは問題が一つあるんだよな」

 背中越しに美鈴が尋ねてくる。

「ねえ、それってなに?」

 俺はその質問にそくとうした。

「だってさ、ブラックホールってさすごく圧力がかけられるんだよな。地球だって、豆粒ほどになっちまうんだ」

「つまり、移動しようにも圧縮に耐えられないってこと?」

「そういうこと」

「で、光の説明を付け加えると、それに耐えられるだけのエネルギーを使っているためにあれだけ輝いたんじゃないかと思うんだ」

 返事はいつものようにしばらくたってから返ってきた。

「これも面白い」

「そうか。じゃあ最後にだけど、周波数論って知ってるか?」

「この世界にある物にはすべて周波数があるっていう仮定論だよね」

 肯定のために頷いて見せる。

 そこで俺は話を再開した。

「俺はさ、時間や空間にも周波数があると思うんだ」

「時間や空間にも?」

「おう。ただ、周波数はその時間その場所で違ってくるんだ。物質も周波数がその時々で変動すると思うんだ」

「変動。うん、そうだね」

 納得してくれたように頷く。

「だからさ、最初の考えと同じようになるけど自分が行きたい時間と空間の周波数をどうにか合わせれば、俺たちのいるこの場所に来られると思うんだ。あの光は、その時に発生したエネルギーだと考えられる」

「うん、独創的で良いと思う」

「お褒めいただき歓迎だよ」

「君の言っていることは、答えに近い気がするよ。私も同じようなことを考えていたし」

「そうか。参考になってくれればいいと思うよ」

「うん、なるよ」

 そのまま俺はいろんな話をしながら歩き続けた。

 不思議な子だけど面白い奴だと思った。


 読んで頂きありがとうございました。

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