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5 ラーメンを食す電波少女

 楽しんで頂けたら幸いです。

「へい、ラーメンお待ち」

 本日二度目の声だった。

 まさかここに二度も来ることになろうとは思ってもみなかった。つい先程までラーメンを食していた店長の店に訪れている。

 いわずもがな、美鈴に食事を取らせるためだ。

 正直ここまで来ることが出来たのは良かったものの、夜中に少女を背中におんぶしたままだと言うのが恥ずかしかった。自転車で二人乗りをすればいいと考えたが、あれだけ衰弱されているととてもそんなことが出来そうにない。

 だから俺はここまで一人恥ずかしい思いをしながら戻ってきたのだ。

「これ、なに?」

 美鈴は不思議そうにラーメンを観察している。まるで、初めて見るかのようだ。

「なにって、ラーメンだよ」

 さも当然のように答える俺に、美鈴は「……ラーメン?」と呟きながら聞き返してくる。

 その反応に、俺の憶測が徐々に確信へと変化し始めていることに気が付いた。その疑問を確かめるために、眉を顰めながら尋ねる。

「お前、ラーメンを食べるのって初めてか?」

 小首を頷かせる。

 その行動がたまらないくらい可愛らしく、思わず直視できず目線を外した。ない。不思議な顔で見つめてきたことに、おかげで気がつかなかった。

「なーに、恥ずかしがってるんだ?」

 カウンターの向こう側で、雑誌を読んでいる店長が話し掛けてきた。腹が立つくらいのにやにや顔でだ。

 もう見るからにおちょくる気満々だ。

「別に何でもありませんよ」

「そうか。で、その子は一体誰なんだ? お前、海岸沿いの小学校に、写真を撮りに行ったんじゃないのか?」

 声自体はどうでもよさそうに尋ねてきているが、表情は真剣そのものだった。もちろん、何かあればおちょくる気な方向で。

 まあ、その時は適当にあしらえばいいのだが。

「川から流れているところを助けたとか」

「なわけあるか! 小学校でたまたま出会ったんですよ!」

 考え抜いた揚句、余計な部分をそぎ落とした簡潔な答えを返した。正直、それ以上のことを尋ねられてこないかどうか不安だったが、店長はそれ以上の追及はしないでくれた。

 そのかわりに、ラーメンを食べている美鈴がことのすべてを明かしてくれた。

「宇宙人と交信してた」

「へーそうか。面白いことやっているんだな」

「なに、普通に受け入れてんすか⁉」

 そこは普通、理解に苦しむリアクションを取るものだ。実際に俺もそんな風だったのだから。

 いや、まだマシだ。俺は美鈴にいきなり「宇宙人?」と尋ねられたのだから、店長に向けられた言葉は理解できる。

「いやいや、別に不思議なことじゃないぞ。そういうことをやっている人たちがいるからな」

「詳しい」

「感心すんな‼」

 あまりに普通に受け入れてしまう店長に驚く。それに、以外にも博識ぶりを見せる店長に興味を示す美鈴にもだ。

 店長がSFに詳しいとは思いもしなかった。

 今までそう言う話をする機会もなかったし、何より大人相手に子供の夢想を語るのはどこか抵抗感があったのかもしれない。

「そう意外そうな顔をするな。これも、アイツの受け売りなんだからな」

「アイツって誰ですか?」

 ラーメンを再び食べ始めた美鈴の代わりに、店長は俺に話し掛けてきた。

 店長の言う『アイツ』というのは、とぼけたふりをしていても気が付いた。俺の友人の中にそんなことを趣味している奴がいる。

「集だよ」

「でしょうね」

 短く帰ってきた言葉に、俺も短く答える。

 巻尾集まきびしゅうは俺の古くからの友人、つまり幼馴染だ。俺も昔から写真に凝っていたが、修もまた幼い頃からSFチックな方向に興味を持っていた。

だからだろう、お互いに情熱を掛けられるものがある同士が集まり、こうやって長く付き合っていられるのは。

「そういや集がさっき来て、お前に伝言を頼まれてるんだったな」

 店長は顎に手を置いて、今思い出したように呟く。

 俺はお冷を口含んでから聞き返す。

「どういった風な言伝ですか?」

「明日ここで来月の祭りに出し物の話をするから、十時にここ集合な――だってさ」

「えらく急だな。というより、俺がここに来なきゃ話が伝わっていないじゃん」

 今は午後の九時位だ。一時間ほど前にここで食べていたから、その後に来たことになる。ということは、俺が八時以降になってもここに来ると思っていたのか。

 ずいぶんと信頼されていると思う。

「ほら、一応伝えたからな」

「ええ、ありがとうございます」

 ぺこりと頭を下げて、大きく伸びをした。

 そういえば、美鈴をずっとおんぶしてきたので大分肩もこっている。明日行かなければいけないのに、多分少し筋肉痛になってるな。

「しっかし、ここを自分ら用のフリースペースだと思ってるのか」

壁に背を預け、腕組みしながら呟く台詞はどうも俺の心にぐさりと刺さる。べつに好きでここを使っているわけではないが、他に気楽に話し合える場所がないのだ。

集と他の友人たちが加われば確実に、会議ではなく別の物にへと変貌するからだ。いわゆる乱闘にへと。

その理由はおいおい説明することにしておこう。ここで話すとかなり長くなるからだ。

「そういえば、準備はどうなんだ? ちゃんと進んでるか?」

「どちらだと思います?」

 声の端々に「触れるな!」と言う意志を込めた言葉に、店長は苦く笑った。そのままの表情で、言葉を返した。

「当日までに間に合うのか?」

 その問いに難しい顔で答える。

「まあ、なんとか。本番で使う資料だけは、もう渡してあるんでどうにかなると思います。俺が今やっているのは、プレゼン用の写真集めだけですよ。けど修の奴は、写真が集まるまでは作らないらしいですよ」

「大変そうだな」

「集以外ですけどね」

 ここで話は打ち切りとばかりに俺は黙り込んだ。そして、話す相手を店長から美鈴に変更する。

 今は美鈴の問題だ。

「なあ、お前これからどうするんだ?」

「なに?」

 反問されると困るのだが。

 前置きがなかったので、分からなくて仕方がないな。

「だから、家に帰るのかってことだよ」

「君が?」

「美鈴がだ!」

「なるほど」

 理解した美鈴はしばし黙り込んだまま考え始める。

 俺はじっと美鈴の顔を眺める。先程は視線を外してしまったが今の真剣な顔なら耐えられる。

「帰る」

「そうか。なら、送っていくよ」

「男らしいな」

 店長の予想外な口出しに、一瞬言葉を詰まらせたが、悟られない程度にどうにか返答を出来た。

「単なる社交辞令ですよ」

「だろうな」

 いつもの他愛もないやり取りを止め、俺は立ち上がる。美鈴ものんびりとした動きで立ち上がった。

「店長、お勘定」

「あいよ。五百円な」

「だとよ、ほらさっさと払って行こうぜ」

 そう言って促すものの、美鈴は黙り込んだまま動こうとしない。

「おい」

 軽く肩を叩くと、今にも砕け散ってしまいそうなイメージが伝わる。

 儚い、とでも言えばいいのだろうか。ちゃんと表せそうな言葉がある気がするが、少ない知識ではどうしようもない。

 とそこで、俺はある視線を感じた。

 顔を動かすと、店長が今日何度目かのにやにや顔で見ている。俺はすぐに肩に置いてある手をどけ、美鈴に呼び掛ける。

「おい、お金を払えよ」

「持ってない」

「え?」

 今こいつはなんと言った。

 持ってない。

えーと、つまりお金を持参していないと言うことか。

「マジ?」

「マジ」

「……、」

 しばしの沈黙。

「どうして持っていないんだ? 外に出るときくらい持ってるだろ?」

「小学校の中」

「……、」

 額に手を置いて蹲る。

 ――えーと、俺が悪いのか?

「(ま、まあ、見かねて連れてきたのは俺だけどさ。けど、あそこで放っておくのはあれじゃん)」

 ぶつぶつと呟く俺を不審に思ったのか、店長はわざわざカウンターから出てきて声を掛ける。

「お、おい、大丈夫か⁉」

「大丈夫だと思いますか?」

「なんとなく常軌を逸した状況で、頭を抱えているとぐらいは分かる」

 苦く笑いながら呟く店長の、的を射た発言に俺は力強く頷く。良く除去ウを分析できていると思う。

「まあ、なんだ」

「店長?」

 真顔で差し出された右手には、しっかりと伝票が握られてあった。店長は肩をポンと叩く。

「お勘定よろしく」

 で、ですよね。

 結局俺がラーメン台を払うことになった。

 だが、この程度のハプニングなど序章だと言うことに俺はまだ気が付いていなかった。


 読んで頂きありがとうございました。

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