4 腹ペコな電波少女
楽しんで頂けたら幸いです。
……はい?
宇宙人?
どういうことだ。
理解が追いつかず目をパチクリさせる。その間も少女は、淡々と自分の思うままに語り出す。
「グレイ型だと思っていたけど、形状は私たちと同じか。それにしても、同じ言語を喋れるなんて驚き」
「……、」
「はじめまして。私は青葉美鈴」
とそこまで会話が進んだ時点で、俺は完全に我に返った。
「ちょっと待った! 俺は宇宙人じゃない!」
「……宇宙人じゃない?」
小首を傾げ、長い髪が揺れる。
「じゃあ、地底人?」
「ちゃうわ! れっきとした地球人だ!」
「からのー」
「初対面の奴に無茶ぶりをさせんな!」
さっきまで静寂が支配していた教室は、すっかり騒がしいものと変わっていた。まったくなんなんだこの少女は。
「君は誰?」
「その言葉をそのまま返してやりたいんだけど?」
「……、」
またまた黙り込んでしまった。
仕方がなく俺は自分から語り始めることにした。
「俺は山野亮吾。ここには写真を撮りに来たんだけど、君――じゃなくて美鈴は何してんの?」
「……、」
少女は依然無言だ。
だが、人差し指で自分の周囲に置いてある物を指す。
「なんだこれ?」
目を大きく見開いた。
きっと瞳には疑問の色が映っているだろう。
美鈴と呼ばれる少女は何とか見えたものの、周囲の物は暗くて気がつかなった。美鈴の周りに置かれているのは、パソコンだろうか? ただし、画面にはよく分からないグラフの様なものが表示されている。
――そうか、あの荷車を引いたような跡はこれか……。
「パソコン」
「いや、それは分かるけどさ。何やってるんだこんなのを持ち込んで?」
「通信」
「通信?」
理解できず眉を顰める。
もう一度パソコンの方を見た。
グラフが波を描きながら動いている。そう言えば宇宙に向って電波を飛ばして、宇宙人とコンタクトを取ろうしている学者がいたことを思い出す。
「なるほどな。でもさ、ここ廃校されていて電気が通っていないんじゃないか」
「大丈夫。ブレーカーを上げればつくようになっているから」
普通なら電源は止めておくはずなんだけどな、と思ったが今はどうでもいい。とりあえずこの場をどうするのかが問題だ。
「でもって、なんでコンタクトを取るようなことをやってんだ? 宇宙人なんて、いるのかいないのか分からないのに」
「いるよ」
即答だった。
少女の顔を真っ直ぐと見ると、どこを見ているのか分からなかった瞳に確かな光が宿っていた。
「いるに決まってる。君はこの町の人だよね」
「ああ」
「なら、知ってるはずだよね? 『星の日』のこと」
「まあ、一応は」
俺の生返事で返しながらあの日のことを思い出した。
『星の日』と言うのは十年前に起きたある現象のことを指す。いつもと変わらないよ空が空を支配していた時に、小さな光点が徐々に大きく光りだし、街を明るく照らしこめた。その日から町は大騒ぎになった。
いろんな学者や調べに来たり、テレビ局の人が取材に来たりなど、さびれた町が一気に活気づいた。
まだ、幼かったとはいえあの出来事は鮮明に覚えている。
「私はね、あの光は宇宙人が作り出したものだと思ってるの」
美鈴は真顔でそう語ってくる。
俺はどうしても否定できず聞き返すにとどまってしまう。
「どうして、また?」
「だって、流星が降り注ぐにしてもあんなに光はしない。それに、流星群ならある位置で固定されることはない」
まあ、降り注ぐものだしな。
ふとそこで、俺は我に返った。自分でも気が付かないうちに、美鈴の話に本気で耳を傾けている。
俺はそんなことをしに来たわけでもないのに、すっかり調子を崩されてしまっていた。
「お前が言ってることはそれはそれとして、こんなとこで勝手に電気使ってると捕まるぞ」
「……じゃあ、君は?」
「な――ッ⁉」
思わぬ発言に俺は言葉を詰まらせた。た、たしかに廃校の小学校にいる俺も十分可笑しい。
いや、待てよ。俺がここに訪れていることは可笑しいかもしれないが、こいつみたいに電気を泥棒使用だなんてことはしていない。
そうだ! まだ、俺の方に分がある。
「別になんだっていいだろ。俺はここに写真を撮りに来ただけで、電気を盗みに来たわけじゃない」
「じゃあ、何を盗みに来たの?」
「ちゃんと話を聞いてる⁉ 俺はここに写真を撮りに来ただけだって‼」
「……じゃあ――」
「違うからね‼」
「にゃっ⁉」
また同じことを言い出しそうだったので、口だけではなく手までも出してしまった。いやはや、空手チョップを見舞ってしまうとは俺もなかなか古風な技を使う。
――そもそも問題として考えることが違う。焦点が合っていない。
「なにをするの?」
頭を押さえ、目尻に涙を滲ませながら睨みつけてくる。
そう俺が今やるべきことは、手まで出してしまったことだ。
「すまん、お前が可笑しなことばっかいうから」
「何が可笑しいの?」
「写真を撮りに来たと話しているのに、何を盗みに来たとばかりのたまう所だよ」
「ああ……」
ポンと右拳で掌を叩いて見せる。
――今ので分かったんかい!
ちくしょう奇想天外すぎる。
「まあ、そんなことは些細なこと」
「さっきまで犯罪の方向に話が持ってかれてたけどね」
「些細なこと。それよりも――」
「それよりも? なんだよ?」
急に美鈴は黙り込んでしまった。
それに、お腹を押さえて蹲っていて様子がおかしい。どうしたのだろう、どこか具合でも悪くなったのだろうか?
先程から可笑しなことばかり口にしている奴だが、体調不良となるとまた別の話だ。俺はすぐさま駆け寄り、肩に手を置く。
「おい、大丈夫か⁉」
「うう……」
「おい!」
必死に呼びかけるが、うめき声しか洩らさない。
次の瞬間。
か細い声で彼女は洋装外の一言を口にした。
「……おなかへった」
はい?
こんなこと思うの、本日二回目だよ。
え、こいつ今なんて言った?
おなかへっただって。
「おい?」
「なに?」
「腹空かして蹲まってんのか?」
「うん。はい。イエス」
「ふざけてるだろ」
もう驚くことはないだろうと思っていたが、大いに唖然とさせられる。いや、させられてしまう。
「動けるか?」
「無理」
即答だった。
「最後にご飯を食べたのは何時だ?」
「朝」
なら動けなくても無理はない。
いくらここで動かずにいたとしても、エネルギーは消費してしまう。それは避けようのないことだ。
しかし、俺はすぐに自分の考えの甘さに行きつくことになる。
「今日の朝ごはんだけ食べたんだったら動けなくても無理はないか」
「違う。昨日の朝」
「飯ぐらいちゃんと食べろよ!」
もう、着いて行けない。
この子は規格外すぎる。
「動くのが面倒だった」
「それでも食べろ!」
「動くの――」
「わかったから、もう言わなくて良い」
俺は疲れたように大きく息を吸い込み、深いため息を吐いた。そして、動くことが出来ない美鈴を背中におんぶをする。
「あっ!」
一瞬、美鈴が頬を赤らめたように見えたが気のせいだろう。
そのまま、俺は美鈴を背中に乗せたまま歩き出した。
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