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魔人とドールの狂想曲  作者: 若桜モドキ
或る女優志願の少女
7/84

0.遠い日の思い出

「ボクと彼女の、縁の話をしようか」

 ぽつり、と彼が口を開く。

 それは出先での、ホテルに向かう帰路の途中だった。

 その筋では知らぬものがいない技術を持つ《魔人》の中では極めて若く、それ以上に幼さが残る少年セドリック・フラーチェは、隣を歩くカティという名のドールに視線を向ける。

 二人は、この町が誇る舞台女優ミスティ・ラディに会いにきていた。

 本名をミュイルという彼女は、セドリックの古い友人。ずっと交流が途絶えたままだったのだが、最近になって彼女が見事な女優になっていると知って、わざわざ尋ねたのだ。

「ミスティ……いや、ミュイルはね、ボクの恩人でもあるんだ。ある意味では、カティの母親と言えるのかもしれない。彼女と出会わなければ、ボクはカティを諦めていただろうから」

 当時、セドリックは己の身も省みず、ひたすらがむしゃらにやっていた。

 寝る間も食事も惜しんで、己のすべてをカティに注いでいた。

 にもかかわらず思ったように成果はでない。まるで前に進まない焦燥感。周囲の成果を妬む日々。それらに耐えられなくなったセドリックは、すべてを捨てて旅に出たのだと語る。

 そんな時に出会ったのが、女優になる夢を抱えていたミュイルだった。

 別れの日、彼女はセドリックに夢を語った。


  私ね、永遠がほしいのよ。

  ずっと美しいまま、演じ続けていたいのよ。

  永遠に舞台で、美しいままで、ずっと演じ続けていたいの。

  だから、永遠がほしいのよ。


 永遠を望んだ若き女優ミュイル・シルスヴァーナ。

 いつまでも演じ続けたいと願った少女に対し、ならば魔女になればいいと言ったのは、セドリックだった。夢を語る彼女に、とりあえず魔女になればいいと、そう言ったのだ。

 魔人――あるいは魔女。

 それは《叡智》の頂に手を伸ばし、そこに咲く高嶺の花の掴み取ったものに与えられる呼び名だ。彼らは何かしらに特化した類まれな技能を有し、数百年を超える有限の永遠を持つ。

 見た目は若いまま、数百年、いや数千年さえも生きられるのが彼らの最大の強み。神がこの世界に残していった恩恵の一つ。そう呼ばれる、意地の悪い神が残した『呪い』だ。

 セドリックもまた、若く見えて実年齢は数百を超えている。

 世界に数十人いるという魔人や魔女の中でも、極めて若くして《叡智》を手にした、そういう意味ではそれなりに名が知られている魔人の一人。世界でも指折りの《人形師》。

 何をするにも魔人や魔女の長寿は魅力的だ。

 セドリックの技術も、魔人になってから伸ばした部分が半分を占めている。有限とはいえ人間をはるかに凌ぐ『残り時間』は、常人では不可能であろう事象さえ可能にしてしまう。

 そのメリットを聞いたミュイルは、その赤い瞳を輝かせた。そして、いつか魔女になってセドリックのところに遊びに行くんだと笑った。それまでお互いにがんばろうと。

 彼女の勢いと約束に押され、セドリックもまた研究を再開したのだ。

「……だから、母ですか」

「そういうこと。だから……カティを見てほしかったんだよ」

 セドリックは赤い瞳を細め、遠くを見る。

 もう当事者しか知らない、出会いの日を眺めるように。

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