表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔人とドールの狂想曲  作者: 若桜モドキ
不死を狩り取る黒影
18/84

5.友へ

 これはきっと愛でした。

 私は、彼女を間違いなく愛していました。

 ずっと笑っていてほしくて、それだけを望んでいました。彼女は、私にも幸せになって欲しいと苦笑しましたが、私にとっては彼女の幸せこそが幸せだったから……そう答えました。

 彼女がずっと、幸せでいられますように。

 笑っていてくれますように。

 私は、ずっとそんな祈りを抱えていました。

 それはきっと、わかっていたから、なのでしょう。彼女の身体は病魔に侵され、仮に私がただの人間であっても、彼女は私よりずっと早くいなくなってしまうことが。

 そして、人並みの幸せのほとんどを、得られないことが。

 私は彼女のためなら、何でも出来たのです。

 何でも、しようと思ったのです。

 幸いにも私には、それを叶えるだけの技術があって、そして仲間がいました。

 長らく顔を見ていない彼に、私は手紙をしたためました。この手紙が届く頃には、私は彼女と共にこの町を旅立っているかもしれません。他ならぬ、彼に会うために。

 彼に彼女を会わせたい。

 会って、一つ、やってみたいことがあるのです。

 あぁ、でもその前に、まずは彼女を救わなければいけません。


 ――アルヴェール・リータ。

 我が仲間にして友よ。


 未だ素直でないであろうあなたに、少しだけおせっかいを焼いてみたい。

 私にとっての彼女のような存在であるマルグリットを、どうせまだその腕にちゃんと抱けずにいるのでしょう。私の背をあなたが押したように、今度は私がその背を押して差し上げる。

 そのために、私は彼女と共に、あなたの屋敷を訪ねようと思います。

 では、またいずれ。



   ■  □  ■



 一通り手紙を書き終わり、私は大きく伸びをする。

 思えば長らくあっていない友人に、手紙を書くなど初めてだった。

 君は今頃……何をしているんだろう。私は君に憧れていた。君のように、大事なものを抱きしめられる日を望んでいた。彼女と共に永遠を、生きていたいと思っていたんだ。

 私の願いが叶ったら、もう一度君に――君とマルグリットに会いたい。

 そして、彼女を紹介したいんだ。大丈夫、彼女は君を知っている。誰よりも何よりも愛しているのに素直になれず、その本音を零せない純粋な男だと、ちゃんと説明してあるよ。

 彼女はきっと、そういう相手だと認識して君に接すると思う。

 君は困るだろうけど、抵抗も出来ないはずだ。

 彼女はそういう人だからね。

 私はね、君にも素直になって欲しいと願っているんだ。

 素直に一言を、愛していると、マルグリットに伝えるべきだ。彼女はどんな扱いでも静かに受け止めるだろうけど、きっと君から愛を囁かれるのを望んでいるはずだよ。

 なぜ言い切れるのかって?

 そりゃあ、私の最愛の彼女がそう言い切るんだから、そうなんだよ。

 だから今度会うときは、覚悟するといい。

 意地っ張りな君の仮面を、二人で一緒に剥がしてあげるからね。

 そして一緒に、最愛の人に骨抜きになってしまおう。

 きっとね……それは、すごく幸せなことだ。

 さて、今から最後の実験の準備をしよう。実験というより、処置だ。これで彼女は元気になれるはずだ。失敗なんてするわけがない。私は、彼女のためだけに存在する魔人なのだから。


「私だって《魔人》だ……やれるさ」


 誰に言うでもなくつぶやき、私は部屋を後にする。

 お前は優しすぎる、とぼやく彼の声が、どこからか聞こえたような気がした。

 私よりずっと、残酷なほどに優しい《魔人》の声が。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ