5.友へ
これはきっと愛でした。
私は、彼女を間違いなく愛していました。
ずっと笑っていてほしくて、それだけを望んでいました。彼女は、私にも幸せになって欲しいと苦笑しましたが、私にとっては彼女の幸せこそが幸せだったから……そう答えました。
彼女がずっと、幸せでいられますように。
笑っていてくれますように。
私は、ずっとそんな祈りを抱えていました。
それはきっと、わかっていたから、なのでしょう。彼女の身体は病魔に侵され、仮に私がただの人間であっても、彼女は私よりずっと早くいなくなってしまうことが。
そして、人並みの幸せのほとんどを、得られないことが。
私は彼女のためなら、何でも出来たのです。
何でも、しようと思ったのです。
幸いにも私には、それを叶えるだけの技術があって、そして仲間がいました。
長らく顔を見ていない彼に、私は手紙をしたためました。この手紙が届く頃には、私は彼女と共にこの町を旅立っているかもしれません。他ならぬ、彼に会うために。
彼に彼女を会わせたい。
会って、一つ、やってみたいことがあるのです。
あぁ、でもその前に、まずは彼女を救わなければいけません。
――アルヴェール・リータ。
我が仲間にして友よ。
未だ素直でないであろうあなたに、少しだけおせっかいを焼いてみたい。
私にとっての彼女のような存在であるマルグリットを、どうせまだその腕にちゃんと抱けずにいるのでしょう。私の背をあなたが押したように、今度は私がその背を押して差し上げる。
そのために、私は彼女と共に、あなたの屋敷を訪ねようと思います。
では、またいずれ。
■ □ ■
一通り手紙を書き終わり、私は大きく伸びをする。
思えば長らくあっていない友人に、手紙を書くなど初めてだった。
君は今頃……何をしているんだろう。私は君に憧れていた。君のように、大事なものを抱きしめられる日を望んでいた。彼女と共に永遠を、生きていたいと思っていたんだ。
私の願いが叶ったら、もう一度君に――君とマルグリットに会いたい。
そして、彼女を紹介したいんだ。大丈夫、彼女は君を知っている。誰よりも何よりも愛しているのに素直になれず、その本音を零せない純粋な男だと、ちゃんと説明してあるよ。
彼女はきっと、そういう相手だと認識して君に接すると思う。
君は困るだろうけど、抵抗も出来ないはずだ。
彼女はそういう人だからね。
私はね、君にも素直になって欲しいと願っているんだ。
素直に一言を、愛していると、マルグリットに伝えるべきだ。彼女はどんな扱いでも静かに受け止めるだろうけど、きっと君から愛を囁かれるのを望んでいるはずだよ。
なぜ言い切れるのかって?
そりゃあ、私の最愛の彼女がそう言い切るんだから、そうなんだよ。
だから今度会うときは、覚悟するといい。
意地っ張りな君の仮面を、二人で一緒に剥がしてあげるからね。
そして一緒に、最愛の人に骨抜きになってしまおう。
きっとね……それは、すごく幸せなことだ。
さて、今から最後の実験の準備をしよう。実験というより、処置だ。これで彼女は元気になれるはずだ。失敗なんてするわけがない。私は、彼女のためだけに存在する魔人なのだから。
「私だって《魔人》だ……やれるさ」
誰に言うでもなくつぶやき、私は部屋を後にする。
お前は優しすぎる、とぼやく彼の声が、どこからか聞こえたような気がした。
私よりずっと、残酷なほどに優しい《魔人》の声が。




