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ぬば玉  作者: しんげつ
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三十ニ、巫女

少し遅い雨が降りこのまま降り続くかと思ったが、

直ぐに晴れ間がのぞいて、もう少し雨の恵みが必要だと

皆が思っていた。陽も大事だし、雨も大事なのだ。


雅は今日も踊りの稽古に余念がなかった。雨が降らなければ、

また、舞を奉納する。

小さな頃から仕込まれた藤見は

足捌きを少し注意されただけだったが、

凛は指先の使い方と、

腰の落とし方、腰を落としながらの回転を何度かやらされていた。


雅が三毛だからといって

贔屓していないのは誰の目にも見て取れる。


肩に掛けた布の靡かせ方を今は教えている。

凛は何度か試してひとまず了承をもらったとこで

練習は終了となった。


藤見は出口で横にきた凛に

「大変だね。」

と言った。


「ううん。教えてもらえて嬉しいと言うか。」

と言う。

裏を返せば熱心ということか。

藤見は、落ち着かない気分になった。


そのまま出ていく凛の先に

天文官の千明が立っていた。

「佐奈田先生の使いだが。」

「はい。すぐに伺います。」


千明は「では先生のお部屋に。」

と言って連れ立っていく。


藤見はそのやりとりをじっと見ていた。

最近やたらと占卜が的中する凛は佐奈田の力なのか?

何を教えているのだ一体。

ふと、あの娘、邪魔だ。

と思った。


占いが当たりすぎる。

垓月王の心を支えるものは

天の声を聞くことのできる巫女である

自分であるのだ。


種を撒く時期を当てられなかったのは致命的だった。

今年は雨の時期が遅かった。

そんなことは今までなかったことで、

稲の種を播く時期を春四月と、通例通りの

予言を奏上した。

そこに宰相の克勝から待ったがかかったのだ。


原因は、ある日突然やって来た、神祇家の三毛だった。


三毛は神祇家にとっては珍しいものではない。

しかしどこの家からも里からも生まれないし

男は聞いたことがなかった。

きっと伝手をあたって、探してきたのだろう。

三毛は御山に登る。

そうすれば日々の占卜に関わることは減る。

斎宮としては天府のクニとしての行方を占うことが

俄然多くなり、

日常の、しかも天府の属国でしかない月の根国の

暮らしを占うことはない。

わかってはいるが疎ましかった。


占卜で藤見は四月とし、凛は五月か六月とした。

垓月王は、天文官や宰相と談義をし、

半分の水田を四月として、もう半分を五月とした。

四月は雨に恵まれなかったのである。

四月に従った地域は枯らしてしまうところも多かった。

ただ、月の根国は広く、

宣下が行き渡らないところもある。

そのような土地は自分たちの天を見てく決めていたから逆に

苗は助かったのである。

全ての苗がダメになったのでは無くてよかった。が、それは同時に

垓月の命令の行き渡る範囲が行き届いていないことの裏返しでもあった。


政に携わるものたちはそちらに気をとられてくれたため

藤見はお咎めなしであった。

けれども占卜にかける思いを潰されて

挫くたる想いだった。


藤見は神祇家に拾われた赤子であった。

神祇家は女子が重宝されていて、

神への舞の奉納や占いは女子の役目だった。


捨て子や孤児は戦禍では多く、神祇家に集められて育てられた。

女は舞手、男は楽器と力仕事に回される。

藤見は感の良い子供で、何となく風の動きを読めた。


神祇家は宰相の妻、雅が取り仕切っていたが、

雅は藤見の才能を見出して

占卜を教えてくれたのだった。


雅は三毛であった。だから

凛は雅の血縁であることは絶対だった。

しかしなぜ今頃現れたのか、全くわからなかった。

わかっていることは、

凛の占トは正確で、

藤見と結果が異なった時、凛が当たっていることが多い。

それだけだった。


そして藤見がますます気に入らないのは

雅の関心が凛に移っていくことだった。


血縁なのだからある程度の思い入れもわかる。

しかし雅は基本、皆に平等に手厳しかった。

藤見が占卜に秀でていても特別な愛情も感じなかった。

舞が上手い同じ年頃の娘もいたが特に

肩入れするわけでもなく、固執という言葉からは

程遠いところの住人だと思う。

斎宮をしていた昔があるのは知っていた。

だから斎宮の過去がそうさせているのかと思っていたのだ。


その雅が肩入れをしている。凛と比べて、

出立も自分の方が背丈もあり、

髪も麗しい。

何より、垓月王を昔から見てきた自負がある。


あの自分の存在意義を悉く潰す

小娘は、何者で、どうしてくれようか。

火を焚きながらひたすらに心が騒ついた。


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