二十七、彗星の年ー王妃ー
外から雲雀の鳴き声がしていた。
今年もこの時期がやってくると、若葉の新緑と一緒に、
あの日を思い出す。同じような晴天で雲がなくて眩しすぎるくらいの日だった。
目の前にいる天竺屋とあの時も話をしていた。
「和仁様。王妃様にはこちらのお色などが良いのでは?
初夏は若葉の色が映えまする。」
「そうだな。若葉に桃の花いろを添えるのはどうじゃ?」
「少し前の桃の季節なら良いかと思います。もう桃も桜も終わりがもう暑さに向かう季節。これから雨も多くなります。薄い青、水色などいかがでしょうか?」
天竺屋の意見を椅子に脇息にもたれて聞いていた王妃和仁のは、
満足そうに頷く。隣の侍従に目配せすると、
「では良しなに。」
「ありがとうござります。」
その一声で、天竺屋の供が二人、侍女の元へといく。
これから細部の衣装などうちあわせる。
天竺屋への支払いは最近は金が好まれる。
いったい何処へ使うのやら。支払いのことは侍女頭の時任に任せている。
外には天府は安泰だと思えるほどの建物群が見える。
「和仁様。本日は珍しいお菓子をお持ちしました。
如何で御座いましょうか。」
別室で話がしたい時はこの会話だ。
上手くいったと聞いていたが。少し間ををおいて、
「では彼方の部屋に。」
と隣の小部屋を指した。
離れの様な作りは元は織物小屋であった。
小屋に入ると、茶の用意をした侍女たちがそそと退出した。
見慣れない菓子が添えられている。
「それで?あの者達は?」
「はい。先に結論から。」
「於大様はこのクニにはおらず、今は行方不明としています。
赤子は追っ手が連れ去った従者を広川まで追い詰めましたが、
川を半分渡ったところで矢が当たり、
川に沈んだそうです。」
「本当か?良きやった!」
「しかし、この二人の遺体が上がっていないのです。」
「な。では生き延びていることも?」
「ありえます。広川は乾季でも水量はあまり減らない大川です。
夜でしたので流石に見えません。川音も凄く、日中でも確認は難しいです。
下流の里に渡りをつけていますがそれらしい遺体が上がった話が、
聞こえて来ません。」
「うむ。於大が亡くなったのは確実か?」
「天府には御身体はすでにございません。」
天竺屋は目に暗い光をともして
和仁を見上げた。
おそらく、亡き骸も手の内にあるのだ。
さすがの天竺屋も一呼吸おく。
「まず赤子を連れ去った従者ですが、阿太と言い、
於大様と同じ水の里出身ものです。
台所に鮎を納めており、私の店子が使っておりました。
もし、見かけることがあれば、生きていても誰かが知らせてくるかと。」
「外海のクニでもだな?」
「ええ。それならば尚更手の内のものがたくさんおります。」
天竺屋の瞳に強い光が戻る。
「御山と歌仙山向こうは力が及んでおりませんが。」
実際、天竺屋がどこから来たのか詳しいことは誰も知らないのだ。
彼国の文字を理解するから、彼国に所縁の出自だろう。
「まあ良い。於大を消してくれればそれで良い。」
「帝へはどの様に?」
「帝はご寵愛の数が多くありますれば、
特に気にされることはないでしょうな。
出産の時に亡くなったことに、医者と話を合わせてございます。
日嗣様は何もご存じありませんので。」
「うむ。妃は正直腐るほどいる。」
先日も鷹狩りに行った際に、給仕の女に手を出したらしい。
あまりに身分が低く、おそらく嬪にすらなれない。
於大も出自は姫でも何でもない。そこが気に入らなかった。大抵は圧力で
逃げ出す女ばかりなのに、静かにヒタヒタとそこにいた。
地味な堅実で賢そうな見かけも気に入らなかった。
懐妊と聞いて、男児だったら消してくれるように頼んだのだ。
天竺屋の丸顔見ながら言った。
「まあ良い。しばらくは安寧だ。」




