第8話
窓から木々が靡き春の穏やかな風がカーテンを揺らしていた。実に心地いい日だ。こんな日は窓際でコーヒーを飲みながら読書に耽りたいと思う。
そんな私は今、ベッドで寝息を立てる5人に目を移す。
この中の誰がジークリンデかは一目瞭然だった。
なにせ、綺麗に整った顔で傷一つないのだから。それに比べて【戦火の篝火】メンバーは女性でもそれなりに目立つ傷を顔に負っている。これまで多くの修羅場を潜り抜けてきたからだろう。
だが今回は運が悪かったな。あの竜の初見殺しと猛攻を足手纏いを守りながらの攻略は流石に無理があっただろうに。
「ん……」
時間だ。ハンナから聞いた時間通り皆が同時に目を覚まし始めた。
「ここは……」
「どこかの部屋? もしかして天国……」
まだ意識がはっきりしていないようだ。さて……問題は記憶がどのあたりまで遡っているかだな。
「天国じゃないぞ。現世だ」
「あ、あんたは?」
こいつは戦士の……名を確かバギルと言ったか。
「私はアイザック。君達の死体を回収した探索者だ」
「アイザック……。アイザックッ!? その白い髪……、無駄に高い背……。あの【屍食鬼】のアイザックか!?」
グール……。人々の屍で飯を食う私らしい名前だな。ギルドの中では私はそのように呼ばれているのか? 随分と嫌われた存在みたいだ。
「グールがなんだか分からんが、この街にいるアイザックは私だけだ」
「!? そうか……つまり、俺達は死んだのか……」
どうやら私が何をする人間かと言う記憶は残っているらしい。まあ赤ん坊まで落ちていないだけ好都合だ。
「今は何年だ? 308年か?」
「大陸歴か? 309年の4月だ」
目覚めて時間を確認するのは冒険者の知恵だ。この確認をしないと今持ってる記憶と擦り合わせが難しいからな。
「お前達はそこのジークリンデ様と共にダンジョン【竜の寝床】に潜りボス討伐に向かったが敢えなく全滅。私が彼女の執事から依頼され救助したわけだが……理解したか?」
「俺達が……失敗……。そうか失敗して死んだのか」
ふむ。まともに考えるだけの記憶は残ってるみたいだ。これなら同じ時期に死んだ他のメンバーも安心できるレベルだろう。
まあ、現実を受け入れないみたいだが? ダンジョン内で何が合って死んだかは記憶から失ったわけだ。頑張って飲み込むしかないさ。
「私から言えることは以上だ。せっかく帰って来れたんだ。仲間達との再会を喜んでおくんだな」
「あ……おい――うわぁ!?」
バギルが私を止めようとしたらしいが、体がベッドから転げ落ちた。蘇生直後は体がうまく動かせない物だ
仲間達も心配して彼の名を呼ぶが、駆けつけることもできないだろう。
「リオン。手伝ってあげなさい」
「あいあい! ほら。しっかり」
「あ、ありがとう……」
立ち上がらせ、ベッドに移乗させるリオン。彼らの相手はリオンに任せるとしよう。
リオンなら持ち前の人懐っこさで話に花をいくつも咲かせてくれるだろうしな。
私は――仕事といこうか。
「もし……あなたがグラリューゼ侯爵のご息女……。ジークリンデ・グラリューゼですかな?」
「あ、ああ。如何にも私がジークリンデ・グラリューゼ。王国三大貴族で最も権威のある騎士だが? 貴様は?」
「申し遅れました。私はアイザック・ニュートリウス。ただの屍拾い専門の探索者でございます」
「アイザック……。探索者……?」
聞き馴染みないだろう。探索者は無資格でダンジョンに潜る者達の総称だからな。だが今はそれよりも――
「私は貴方の執事から救助を依頼されましてな。お目覚めのところ申し訳ありませんが身分を証明する何か御座いませんか?」
身分を証明せずに依頼主に届けると厄介な事になるケースがあるからこの確認は必要だ。
たまに、蘇生した輩が『私は〇〇家の者だ!』と嘘をついて権力に近づこうとする存在がいる。それだけは頂けない。
どれだけ不快に思われようがこれには応じて貰わなければ困る。
「証明か……。すまない。今私は身に付けていたものがない丸裸な状態なのだ。恐らく死んだと言われるダンジョンにでも落としたんだろう……」
「良くあるケースですな。では血を少し取っても?」
「血か? そんなのどう証明になると言うのだ」
私は血が入った小瓶を取り出す。
「ここに父君の血がございます。これと貴方の血を混ぜ私が魔法を掛けて鑑定します。もし血縁であれば血が光ります。これで貴方が本人であると証明できる。お願い出来ますか?」
「おお! それはありがたいな! では遠慮なくやってくれ」
ジークリンデが腕を差し出し、私は持っていた注射器で彼女の血液を採取した。血が管を通り、小瓶に落ちていく。赤い……。それに健康的な血だ。よほど育ちがいいのだろう。普通ここまでサラサラな血液には中々出会えない。良い物を食べてるのだな。
血がある程度瓶に溜まるや私は彼女の腕から針を抜く。
「これだけで良いのか?」
「はい。十分ですよ」
私はジークリンデの血を、グラリューゼ侯爵の血が入った瓶に注ぎ入れる。
二つの血が混ざり、濁った赤を更に黒く染め上げていく。
「【マーシ・ゴライアム・ヤトシャ】」
詠唱すると血が白く眩い光を放ち始めた。ジークリンデに【戦火の篝火】メンバーがその輝きに目を覆っている。
「成功か?」
「はい。これで貴方がジークリンデ・グラリューゼ様本人であると証明されました」
「良かった……では私はこれからどうしたら?」
「はい。あと10分ほどで体の硬直は取れると思います。その後身支度をしていただき、侯爵様のお屋敷へ向かう事になっております」
「そうか。委細承知。ではそれまで待っていてくれ」
私は一礼したのち部屋から出る事にした。リオンを呼ぶが、この短時間で【戦火の篝火】とかなり距離を縮めたらしく、笑い合っていた。
流石リオンだな。この才能は私にはない素晴らしい物だ。
故にリオンには頼らせてもらっている。この愛らしい笑顔に私自身も何度か救われているのだから。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら
評価とブックマークをして頂けると励みになります。
よろしくお願いします!




