第7話
大陸聖堂教会は大陸各地に点在する女神――リールシアを信仰する宗教組織だ。人々の繁栄と導きの神として崇められる為に建てられた礼拝堂。グライカン中央支部に私たちは足を踏み入れた。
中は広く、神秘的な彫刻やらステンドグラスで彩られている。この規模なら観光名所と言えるほどの物だろう。だけどここに足を運ぶ人はあまりいないようで、10人ほどが祈りを捧げているぐらいだ。
数10年までは冒険者の蘇生で人でごった返していたのだが……。ギルドが税を徴収し始めてからはこの通り閑散としたものとなった。
ギルドが設けた多額の税は、冒険者の死体回収を生業とする人の儲けを消したも同然だからな。
ダンジョンで死ねば死体回収専業の冒険者が、千切れた肉体やら骨を教会に持ち帰り蘇生。
生き返った人から報酬を得るというなんとも有難い仕事だったのが、今ではこんなの誰がやるんだ? と言われる程に廃れた仕事に成り下がった。
「ハンナ。今回も頼む」
そんな誰もやりたがらない死体回収を終えた私は台座の上に骨と千切れた腕を置いた。
乱雑に置かれたそれを引き気味に見つめる女性。丸メガネが特徴の柔らかな印象を受けるシスター・ハンナだ。
「うわぁ……。今度は随分と数が多いんですね〜」
「まあな。1パーティー分の死体なんだが……。今からやれるか?」
「勿論やれますよ〜。バリバリあの世から引っ張ってきちゃいますよ〜。でも……その前に〜」
ニヤニヤしながら手を差し出してくる。
片方の手には指で丸を作っている……。金か……。
シスターというのに呆れたものだ。
懐からゴールドがたんまり入った小袋を取り出しハンナの小さな手に置いてやると、ニッコリ微笑み返された。
「毎度あり〜。汝、神から祝福が与えられますよう〜」
「相変わらずな守銭奴シスター様だ。下心が表に出過ぎて清貧とはかけ離れて見えるぞ? そんなんで大丈夫なのかい?」
「な〜に言っちゃってるんですか〜。大丈夫ですよ〜。これは大事なお布施ですよ? 言わばあの世に立ち入った愚か者どもを返してもらう為の迷惑料なんです。如何に寛大な神様だって自分の庭に無断で入ってきた団体をタダで現世に送り返すなんて優しさは持ち合わせてませ〜ん」
ブッブーと腕で大きなペケを作り答えたハンナ。
「随分とちゃっかりした神様だな」
「そんな神を貴方も信仰しているじゃありませんか〜」
「確かにそうだが……」
この大陸にはここの神しか居ないのだからな。それに蘇生という奇跡をお与えになられたんだ。信仰しない方が無理だろう。
っと……これ以上ハンナと話をしていたら、金を更にせびられそうだ。
「払うもんは払っただろ。早くやってくれ。それともまずは金が足りてるか確認でもするか?」
「いーや。アイザックさんの事ですから。きっちり人数分のお金を入れてくれてるんですよね〜?」
「まあな」
信頼はしてくれてるようだ。まあ死体を持ち運んで安くない蘇生料を支払う人間は私ぐらいだからな。ハンナ達から見れば太客以外何者でもないだろう。
「だったら大丈夫です。さっそく蘇生してきますね〜」
そんなハンナはグロテスクな腕と骨を両手いっぱいに抱えて奥の部屋へ持ち去った。
奥の間には死者蘇生を行う儀式の為の祭壇があるらしい。らしいと言うのは私自身見た事がないからだ。
噂では動物の血で描かれた魔法陣の上で肉が再生していくんだとかなんとか……。まあ噂は噂だ。それにこれは神の奇跡なのだから何も怪しいものはないはず。
しばしの暇を持て余した私は礼拝堂に構えられた神像の前で祈りを捧げるリオンに目を向けた。
随分と熱心に祈ってるな……。
「なにか大事な祈りでもあったのか?」
「ひゃあっ!?」
そんなに驚く事ないだろう……。だがいきなり声を掛けた私に非がある。
「すまんすまん。集中してたんだな」
「い、いや……先生は何も悪くないよ」
シュンとしたリオンに屈んで目を合わせる。どこか不安そうに震えているな……。
「なにか悩みが?」
「いや……あー……」
「歯切れが悪いな。それにリオンは隠し事が苦手だからすぐに分かる。長い付き合いじゃないか、話してみろ」
かれこれ出会って5年か……。随分と時の流れが早いもんだ。
ふと昔を懐かしんでいるとリオンが、おずおず話しだした。
「街で聞いたんだけど、この先戦争が起きるの?」
なるほど……そう来たか。テレビやら新聞に載るほどだからな。街の人間が話していたのを買い物の途中にでも聞いたんだろう。
「王国と帝国が最近仲悪いのも知ってるよ? でもそうなったらまた人が……」
リオンは王国と帝国の間で起きた小競り合いに巻き込まれた村の出だ。小競り合いで片付けるにはあまりにも残酷……。王国が帝国の侵攻を受けたと報復として砲撃を放った流れ弾がリオンの村を焼いた。
そのせいでリオンは家族と住む場所、財産全てを失って奴隷に落ちた……。
そんな彼が戦争という言葉に不安がるのも無理はない。
「大丈夫だ。お前は何も考えなくていい」
「でも!――」
その時、ハンナが向かった扉がバタンと開いた。随分と派手に開けたな……。おかげで祈りを捧げていた人たちが皆飛び跳ねたぞ。
「は〜い! アイザックさ〜ん蘇生が終わりましたよ……ってあれ? お取り込み中でしたか?」
おまけに声までデカいと来た。まあ、お陰でリオンに余計な不安を与えなくて済んだな。
「問題ない。で? どうだった?」
「はい。アイザックさんの言ってた通り、【戦火の篝火】4人とジークリンデ・グラリューゼ様本人でしたよ〜」
「良かった。拾って来たのが別の人間だったらどうしようかとヒヤヒヤしてたんだ」
「またまた〜。アイザックさんはいつもそう言いますけどこれまで違った事ないじゃありませんか〜」
そうは言うが、本当に不安だったんだ。ある程度リサーチしてどこまで救出対象が潜ったか目星はつけてるが、確実って程じゃない。
万が一同じ場所に埋まってた別人という可能性だって考えられるからな。
「まあ何にせよ助かったよ。それで、どれぐらいで目覚める?」
「え〜っとですね〜。30分後くらいですね〜。あっ! あとジークリンデ様にはアイザックさんが申し付けたようにアレ……施しておきましたから〜」
「何から何まで助かるよ。ならこれはその礼だ」
私はハンナに金のたんまり入った小袋を手渡した。
これは蘇生とは別のハンナへの礼だ。
「まいどあり〜。ではまたのご利用をお待ちしてま〜す」
手を振り立ち去るハンナを見送る。そんな私にリオンが不思議といった様子で声を掛けてきた。
「なんで2回も支払いをしたの?」
当然の疑問だな。だが今それをここで話すわけにはいかない。
「まあちょっとした保険だな。保険」
「?」
分からないなら分からないでいいんだ。
そうして私達は救助した5人の眠る医務室へと向かう事にした。
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