第5話
扉を開いた時。死の風が奥の間から吹き抜けるたび私は思う。この感覚こそが冒険者として1番血が湧く瞬間だと。
だが、今は闘争を楽しんでる暇ではない。一刻も早く救出対象を探し出して回収し、ボスを討伐しなければならない。
「リオン。いつも通りお前は死体の捜索だ」
「もうやってるよ先生!」
最奥の魔の全貌が見えてくる。リオンは辺りに目を凝らし始めていた。
広い、とても広い空間だ。薄暗く、天には鍾乳洞のような岩の柱が幾つも垂れ下がっている。
足を踏み入れるとジトッとした土が足にまとわりつく。
湿気が高い。そんなフロアの奥には羽のない太った地龍が伏せて眠っていた。
「あれが……ボスか」
竜にしてはあまりにも不細工。だがダンジョンの名称からしてあれが竜種であるのは確定だ。だが何故だろうか。
違和感を感じる。目の前の存在は竜だと頭では理解しているのだが、直感が違うと告げている。
「先生! あったよ!」
リオンはフロアの端で小さな骨を見つけていた。
「数は?」
私の声にリオンは拾った骨の数を数えだした。
「1、2、3――4つ!」
1つ足りない。ここに来たメンバー全員分拾わないと蘇生した時に目的の人物がいないという最悪の事態も考えられる。
「探し続けろ。見つけるまでこのダンジョンから帰れないと思え!」
「ひ、ひいい!!」
リオンの必死な捜索から目を離すと奥の竜がゆっくりと動き始めた。腫れぼったい目がバクリと開く。
まるでデメキンのような竜だ。
ゴテっとした短腕が地面を踏み締めた途端、振動が私の元まで響く。
重量はなかなかなものだな。だがその分動きはノロそうだが。
ふと奥を見れば竜の尾が地面の中に突き刺さったままだ――不思議とそこに違和感を抱いてしまう。
なんだ? あの尾は。あんなのは竜種にない特徴だぞ。
ダンジョンのボスの正体は地上の魔物と違って特殊な個体が多い。恐らくこいつも例外ではないと思うのだが――
「ギシャアアアアアアアーー!!」
「グッドモーニングだ。おデブさん」
竜の咆哮が空間を轟かせたと同時に私は肉薄する。
お手並み拝見。
手始めにナイフを首元に投擲する。
真っ直ぐ飛んで向かったナイフは竜の喉に到達るとガチンと弾かれてしまった。
音から察するに鱗はかなり発達しているようだ。
こうなるとナイフは意味無いな。
腰に下げた剣を引き抜く。温存していた体力で奴の鱗を砕き肉を絶つ。もしくは逆鱗を砕くのみだ。
ボッボッボッ!
奴の口から巨大な火球が放たれた。この場にいるリオンよりも私を標的と捉えたようだ。
火球を剣で引き裂き、割れて散った火球が後方で爆発する。
竜は追加で火球を放とうとしている。この位置ではリオンへの被害も考えられる。
更に加速し一気に間合いを詰める。
火球が放たれる瞬間に肉薄した私はその喉元に剣を突き立てた。
ガチッ!
「硬いッ!」
全力の攻撃ですら鱗を砕けないか。なら!
強引に剣を突き刺し、小さな傷を作った。そこに私は手を当て唱える。
「【リーア・カッファールタ】」
竜がドシンドシンと手足をバタつかせて暴れ始めたが。遅い――
「【ルフラ!】」
瞬間斬りつけた小さな傷が大きく開き、中から血が溢れた。【裂傷魔法】だ。
どんなに硬かろうが傷をつけることが出来ればその傷口を更に大きく引き裂く魔法。
血の量からかなり体力を削ったはず――
そう思った瞬間、まさかの竜の片腕が私の横から薙ぎ払われ吹っ飛ばされてしまう!
「先生ッ!」
「大事ない!」
それだけリオンに告げて、受け身を取った。腰のポーチから回復薬を取り出す。親指で蓋を砕き取り横腹にぶっかけると傷んでいた腹から痛みが引いていく……。これで私が持つ回復薬の残りは4つ……。まあ安い勉強代だ。
だが、不思議だ。あれだけの出血ならどんな魔物であれ怯むはず……。少なくとも今まで相手してきたどの魔物も怯むか倒れ込んでいた。
こいつの体力が特別高いのか?
「ギシャアアアアアアア!!」
にしては元気過ぎる……。それに地面に突き刺さった尻尾はまだ地上に出てこない。だからか、あの場から一切動こうとしない……。何故だ。
地面が揺れる。ほんの僅かだけ……。そうか!? 私はリオンに叫んだ!
「今すぐそこから離れろリオンッ!」
「え……」
私はリオンに向かって駆け出した!
足元から小さく感じる振動――竜の突き刺さった尾――。そこから導き出される想像が体を突き動かす!
「ちぃ! 【シルファ・ニーフル】」
間に合えッ――
「【ザッファ!】」
足の裏の空気が破裂し、私の体が音を置き去りにした!
瞬時に駆け抜け、私はリオンを抱き抱え彼のいた場所から離れる!
すると、地中から翼の生えた蛇のような竜がリオンのいた場所を突き抜け土ごと飲み込んだ!
「やはりな!」
感じた違和感は正しかった。今現れた竜こそが本体! そしてあそこで鎮座する竜は本体ではなく尻尾が発達した姿だ。どうりで傷つけても倒れないはずだ!
現れた細い竜……いや蛇は、洞窟の中を滞空している。地中で繋がっていた尾が地を割って顕になる。
見た目は2体の竜。だが尾で繋がった1体の竜だ。
恐らくこの奇襲で【戦火の篝火】はやられたんだろう。あまりにも初見殺しが過ぎるからな。
「だが、タネが割れれば対処は容易い……」
あれが尻尾なら真ん中で切れば少なくとも不細工の方は動きを止めるはず。だったらいくらでもやりようはある。
舌で乾いた唇を舐めて目を細める。
攻略まであと5分と言ったところだな。
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