第4話
本来であればリオンのような子供はダンジョンに入る事は許されていない。それにダンジョン探索には最低でもパーティーメンバーが4人必要で、冒険者ギルドからの許可が必要だ。
私は無資格なので関係はないが、無資格故にダンジョンに足を踏み入れた時点で立派な犯罪者だ。
大陸で定められたギルド協定によれば、ダンジョン攻略する為には冒険者資格が必要だ。
だが資格保持者は様々な税金をギルドに収めなければならない。ダンジョンに入るための探索税、回収したアイテムの鑑定税。パーティー申請税とかなり搾り取られる。
更には装備のメンテナンス費に消耗品の補充……。資格保有者は諸々合わせても旨味がない。
かなり出費の方が嵩む仕事だ。故に冒険者は依頼の報酬額の高さで仕事を選ぶ。
私はこの窮屈さが気に入らない。
何をするにも税金が掛かる。故に行方不明者の救出がまともに行えず、善意で救出に向かっても金だけが吹っ飛び返ってくる報酬なんて無い。待っているのは破産だけだ。
そんなリスクを背負ってまで救出に向かうか? 答えは決まっている。誰もこんな仕事したがらない。
救出されるようなヘマする奴が悪い。
そう言われる程だ。ダンジョンで命を落とせば2度と地上には返ってこられない。それがここ数年の冒険者の常識だ。
だったら私は資格など取らない。救われるべき存在が中に居て、救える力が私にはある。
私を突き動かす理由はそれで十分だった。
***
ダンジョン攻略開始から15分。走りながら戦闘を回避し続けて中を進んでここまで来れたが、明らかに現れる竜の様子が変わった様に思える。今までの竜と違って皮膚が黄色く爪がより鋭い。しかも私達の姿を離れた場所から認識されることも増えてるあたり、嗅覚も視覚も敏感なのだろう。
となると先程まで相手していた下級竜と違ってこの辺りを徘徊するのは中級竜ってあたりか。
ここまでくると流石に戦闘を回避するのも難しくなってくる。ダンジョンの構造が基本細道なのだから確実に見つかる。
「シッ!」
竜とエンカウントした瞬間、腰のポーチから短剣を取り出し竜の喉目掛けて投擲する。
竜がブレスを吐くよりも前にその刃が喉元を突き刺し火炎で誘爆を起こしてやる。
鱗の薄い竜種は基本喉が弱点だ。
火炎袋が肺の近くにあり、酸素と結合して喉を通って吐き出されるのがブレスなのだから、ブレスの通り道である喉に穴を開けてやればこの通り、穴から炎が漏れ出て爆発するという仕組みだ。
「ナイフ残りは?」
「47!」
「数が惜しい。1エンカウントにつき消費を2までにする!」
「了解!」
それがどれだけの数が相手でもだ。基本消耗品はここぞという時にしか使わない方がいい。
最後の最後……ボスとの一騎打ちの時に手札が尽きた状態で挑むのはリスクが高すぎるからだ。
それにただ倒して終わりなわけでも無い。
生きて帰還する。それが当たり前の条件であり厳しい条件でもあった。
駆け抜けながら今度は中級6体が道を塞いでいるのが見えて来た。狭い通路によくもまあこんなに固まれるものだ。
ナイフを2本リオンから受け取り進む速度を落とさず前へ突っ込む。
竜が私達を視認したのか顔を向けて大口を開いた。
地面に転がっている石ころを竜一体の開いた口の中に蹴り入れる。石が竜の喉に入るや顔が膨れ上がり破裂した。
誘爆……。噴出するはずだった火球を体内で炸裂させる事さえできれば石ころ一つで事足りる。
ナイフを節約したいのなら周りにあるものを使え。そういう事だ。今の爆破に巻き込まれた隣の1体も倒れる。
残り4体。
私は走りナイフで2体の喉元を引き裂き、道を開ける。残った2体は無視だ。
奥へ進む私たちに竜も追っては来れないようだ。
「あー。竜の素材を売ればかなりの値段になるのになぁ」
リオンがさっきの戦闘地域を振り返りながら言った。
「そう言うな。素材にかまけてる暇なんて私たちにはない。どうせ税で半額以上は取られるんだ。だったら依頼を最速でこなして報酬を満額受け取った方が稼ぎはいいだろ?」
「そうだけど。そうだけどぉ」
リオンの言いたいこともわかる。魔物の素材は金にならなくとも装備の素材にはなる。
冒険者はランクが上がるにつれて自身のオーダーメイド装備を鍛冶屋に発注する事が多い。
その完成した装備がその冒険者の象徴となって名を轟かせると言うわけだ。
だが私にはそんな物は必要ない。
いつも使っている得意先の鍛冶屋で買った武具で事足りる。
正直、魔物と戦う分にはこれぐらいが丁度いい。強度が足りないのならエンチャント魔法で武器自体を強化すればいいだけのことなのだから。高性能な武具ほど管理に金が掛かるし、それを使うほど苦戦する相手などそうそう現れない。つまりオーバースペックだ。
リオンと言葉を交わし続けていると更に2体の竜がお出迎えだ。だがその2体の傍には4体の竜の死骸が転がっている……。よく見るとこの辺りには見覚えがある。さっき戦闘していた場所だ。
「来たな! 迷い道の結界だ。リオン!」
「準備おっけーだよ先生!」
温存していたナイフを投げて竜の喉に突き刺し2体をあっという間に殲滅する。
ここに来る直前の道は一本道だった。恐らく前の道と後ろの道が魔法で空間ごと繋ぎ合わせられている。空間の繋ぎ目を探して破壊する必要がある。
この問題を解決するために用意していたのがマーキング片だ。
外部から持ち込まれたアイテムは所有者の手を離れるとダンジョンに取り込まれる。
だがマーキング片はダンジョンにある宝箱を削って作った物。ダンジョンに元々あった物は取り込まれない。
それを活かした目標というわけだ。
リオンはマーキング片を等間隔に地面に落としていく。止まらず駆け進んでいると最初に落とした破片が見えた。
「ここだな! 【ラー・スラー・ガーター】」
詠唱……。魔力は温存したいところだが、迷い道の結界を解除するにはそれ専用の魔法をかける必要がある。
「【スルガ!】」
バキン!
空間が割れる。先に落ちていたマーキング片のあった空間が砕けて、散っていくと奥に正規のルートが現れた。
少々時間を食わされた。
「ロスは?」
「3分!」
「衰えた。もっと感覚を研ぎ澄まさないと」
結界の発見と詠唱に手間取られた。
詠唱はどれだけ口を早く動かせるかで変わる。最近魔法を使う事が少なかったからか、口が思った様に動いてくれなかった。
たまに思う。なぜ呪文はこんなにも唱えづらい物ばかりなのかと。
「でも先生。今の結界を抜けてから空気がまた変わったよ」
リオンが気付いた通り、辺りの空気がより熱く、じっとりしたものになり始めた。
出てくる竜は変わらずだが、中級よりも厄介そうな個体が増えた様に思える。まあ相手にはならないのだが――
***
駆け抜けること25分。ようやく私達は到達した。ダンジョンの最奥……死の扉の前に。
「到着だ。一度ここで体勢を立て直す。リオン荷物のチェックを」
「あいあい!」
どこで覚えたのか帝国式敬礼をリオンは私に向けてきた。張り詰めたダンジョンにほんの少しの癒し。私は思わず笑ってしまった。
そんな私をよそにリオンはリュックを地面に下ろして中身をゴソゴソと漁り始める。
「【竜の寝床】。思ったより道が単純な物ばかりで助かったな」
ここまでの道中を思い返せば最初は1本道。途中からY字路が多く、たまに三叉路があったぐらいで大したダンジョンの構造ではなかった。
だがリオンは――
「いやいやそれは先生の攻略が特殊だからじゃない? なんで分かれ道を迷わず突っ切れたのかなぁ?」
「なんだリオンは気付いてなかったのか?」
「ん?」
首を傾げるリオン。どうやら本当に気づいていないらしい。
「このダンジョンは竜種が多い。だから竜の火焔袋特有の空気が漂っているだろ?」
「うんうん。それは分かるけどそれとこれ何か関係ある?」
「あるさ。まず奥に進むごとに熱の強さが強くなる。それは奥の個体が強くなっているからだな」
「あー。確かにそうかも。ん? ってことは……」
ようやく気づいてくれたようだ。私はリオンの頭を撫でながら答える。
「その熱の違いを感じ分けて、より強い熱のある道を選べば迷わないってことだ」
「えー。それって先生しかできないんじゃない?」
「そんな事ないさ。やろうと思えば誰にだって出来る。だが普通の冒険者は魔物と戦闘で、探索を長引かせる所為で温度を上昇させてしまう。その所為で正しい道への見分けがつかなくなり到達まで時間がかかるんだろうな」
「じゃあ。僕たちみたいに素材も魔物もガン無視した進み方が1番楽な方法ってこと?」
「そう言う事だな」
「ほぼ無理じゃん!」
はっはっは。と笑いが溢れてしまった。リオンは感情豊かで面白いな。
リオンの頭をポンポンと叩いたが、鬱陶しかったのかその手を払い落とされた。
「もうっ! はい先生、荷物チェック終わったよ。消耗したのはマーキング片13個、ナイフ4本、小水瓶6個だけだね」
「なら物資は潤沢だな。一応生存者がいた時用の回復アイテムと食料、水を取り出しやすいところに置いておく様に」
「あいあいさー」
そうとなればいざ!
私はリオンと目の前に聳える大きな扉と向き合う。この奥にダンジョンのボス――竜討伐のプロが苦戦した竜が存在している。
手持ちの武器を見ながら考えに耽る。
竜討伐のプロの失敗。そしてこのダンジョンの攻略の単純さ。空を飛ぶ飛竜が存在せず地を這う竜のみだった。
まあ何かあるだろう。この先の何かがその答えを知っているはずなのだから。
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