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第3話

【竜の寝床】ダンジョンを目指して私はリオンと共にグライカンを西口から王国領へと入った。

 リンスから聞いた通りダンジョンの周りは、木々が多い緑に溢れた森林地帯だった。

 リンス曰く【竜の寝床】に挑戦した冒険者は数多く存在するが、皆最後のボスを討伐せずに引き返すか挑戦して骸になっているかのどちらか殆どらしい。


 そんな場所に向かうリオンの姿は分厚めの長袖の上着にズボン。荷物をパンパンに詰め込んだリュックサックと、まるでハイキングに出掛けるような服装。

 私の方も軽装甲を手足に、プレートアーマーを胸部に着けている。これもまた軽装。

 リオンよりは多少耐久性があるが、まあこれには理由がある。

 装備が極端に薄い身軽な方が、動きを阻害せず短い時間で奥へ進めるからという。それだけの理由。

 

 おそらく今回の救出対象は、ダンジョン最奥のボスの間にいる可能性が高い。王国貴族は見栄っ張りな上、退くことを嫌う者が多いと聞く。それに加えて三大貴族だ。如何に実力あるパーティーだとしても権力を前に逆らうことはできまい。

 

 さりとてお荷物の令嬢が付いて来ていたとしても【戦火の篝火】は竜討伐のプロだ。大陸に名を轟かせるほどに有名な。

 そう簡単にやられるはずがない。そんなパーティーが帰って来ないという事は……奥に潜む竜に何かあるのか。


「リオン。確か【戦火の篝火】が攻略を始めて3日だったか?」

「うん。それも午前中からの攻略だって言ってたよ」

「未踏破のダンジョンボスの討伐か……。普通ならかなり時間をかけて情報を集め攻略に臨むが鉄則なんだが……」


 ***

 

 到着した【竜の寝床】は一見ただの洞穴のように見える。辺りに木々が鬱蒼と立ち並ぶ中にドシリと構えるこのダンジョンを前に私は目を細め指を一つ立てる。


「奥から風が一切吹いてこない。かなり深いな」

「だね。相当道が複雑なんだと思うよ先生」


 急ぐ必要がある。消息を絶って3日と半日経っているのだ。死体になった人間が蘇生されたとして、記憶の消失は時間に換算して1年ぐらいか。

 

 記憶消去は最初は1分、3分程度だが、1日経ったあたりで加速度的に悪化する。5日もあれば、めでたく赤ん坊程度の記憶しか戻らないだろう。今救えば……まあ酷い記憶喪失程度で済むはずだ。とはいえ……。


「考えてる暇はないな」

「うん。先生。何から使う?」


 リオンが大きなリュックを開く。

 その中には私が選んだ消耗品に医療アイテム。それと予備の武器が入っている。私自身も少量のアイテムを持ってはいるが、武器の剣と短剣。あとは片手で扱えるボウガン程度だ。それ以上は動きに支障が出る。

 だからリオンに荷物の殆どを持たせているわけだ。


「そうだな。まずはマーキング片を出していてくれ。このダンジョン……迷い道の結界が貼られている可能性がある」

「あいあい! 先生」


 リオンはリュックのサイドポケットに木の破片を取り出し、外ポケットに突っ込んでいく。

 その破片はダンジョン内にある宝箱を削り取ったショッキングピンクでカラーリングされた私手作りのアイテム。

 こいつを作るのにそれなりの手間が掛かる。あまり消耗したくはないが……。


「使わなければただのゴミか……。では行くぞ」


 準備は整った。

 私が先頭に立ち中へと足を踏み入れる。

 足を踏み入れた瞬間、妙に生暖かい空気が体をじっとり包み込んだ。竜の火焔袋から発せられる独特な二酸化炭素だ。


「先生……これ」

「さすがパートナーを続けてるだけあって気付いたか。そうだ。これは竜が待ち伏せている気配だ。決して私の前に立つな? 常に後ろに立っていろ」

「う、うん!」


 ガクガク震えている分、リオンが前に出ることは決してないだろう。

 進む事数分――Y字路を塞ぐように下級竜が3匹徘徊しているのが見えた。

 奴らに気づかれる前に気づけて良かった。これで――先手が取れる。


 だがこうしてエンカウントするたび戦闘していては救出対象の記憶がどんどんすり減っていく。

 だから私はリオンに手を伸ばし言った。


「リオン。小水瓶を」

「はい先生」


 手渡されたのは小さな瓶。その中には黄色い液体が入っている。小水。その名の通り尿だ。

 魔物は人間の体を食糧として好む傾向がある。個体が弱ければ弱いほどに群がるのだ。

 そんな奴らは何で人間の強弱を判断しているかと言えば……匂いだ。


 魔物といっても結局は野生動物の一種。強い存在の匂いには萎縮するし、弱い存在の匂いには強く出る。

 だからこそこの小水瓶だ。

 中にはリオンの尿が入っている。子供の尿は奴らにとってご馳走の香りに他ならない。


 握った小水瓶をY字路の端に向かって投げつけた。パリン! と瓶の割れる音がダンジョン内に響き渡る。

 同時、辺りに尿臭が漂い始めた。これを嗅ぎつけた竜たちが一斉に小水瓶の割れた場所へ群がりはじめた。

 そこに子供の肉が転がっている。腹を満たせる。

 3匹は吾先にと尿溜まりに突撃し、何も無い地面を必死に探している。


「行くぞ」

「う、うん!」


 そんな竜の横を素早く通り過ぎる。

 リオンの顔が赤かった。

 恥ずかしいのだろう。だがこれが思いの外効果があるのだ。どんな種族であれこの様に一定、結果をもたらしてくれる。


「すまないなリオン」

「え?」

「お前を辱めるような物を作って……」


 リオンは小声で手を振って答えた。


「いやいやいいよ! 僕のおしっこで誰かを助けれるんだよ? だったらこれは恥ずかしい事じゃないよ」

「そういってくれて助かるよ」


 何はともあれ下級竜に小水瓶は効いた。序盤はこれで何とか凌げるだろう。まだ数もあるのだから。

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