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第15話

 パーティーにおいて味方の存在が何よりも大事なのは理解している。皆が始めから全てを極めている訳じゃない。

 私も初めこそ人に頼る戦術を取っていた。だが戦術とは関係ない部分。教本にも載っていない脅威の一つ、それが味方なのだ。


 ダンジョンには魅力的な宝や武器…財宝が眠っている。冒険者はこれを求めて探索していると言っていい。いわば任務外報酬だ。

 持ち帰れば自分の物にしていいし、金にもなる……。まあその分税金をギルドに搾り取られるがな。


 だがこれが厄介なのだ。

 魅力的過ぎるが故に、信頼し背中を預けあった仲間が突然牙を剥き、仲間を殺して宝を奪う。

 持ち帰るのが1人であれば分ける必要がないからな。

 ダンジョンは狡猾だ。人間の欲を知り尽くしてるというのか……。宝を餌に人々を誘い心を惑わし殺し合わせる。


 これ以外にも味方が敵になる話もある。

 例えば恋愛だ。男女混成パーティにはよくあるのだ。

 1人の男を愛した女性2人が男を奪い合うために殺し合ったり、婚約しているのであればダンジョン内で仲間の目を欺き知らない場所で事故に見せかけ殺すなど。

 挙げればキリがないが、要はダンジョンでは人の持つ欲が牙を剥くのだ。


 その事を私が話すと、受講生の皆が俯いた。

 まるで信じられない話ではあるが、噂話はいくつか聞いたのだろう。この時代では良く出回るからな。

 テレビに新聞、ゴシップ雑誌など……。有名パーティーが原因不明の解散や有力な冒険者の突然死などなど……。


「これが私が仲間を敵だという理由だ。理解したか?」

「な、なら1人でダンジョンに潜れと? そんなの無理です! 最初に行った話を実行しようにも何年……いや何十年掛かるか!」


 最もな意見を受講生から投げかけられた。私はチョークを黒板に置いて、壇上に手をついて答えてやる。


「今言ったものの意見はもっともだ。だからこそ私はダンジョン内にある宝には手を出さない事。それと【契約魔術】の使用を推したいと思う」


 ダンジョン内の宝に手を出さなければ仲間割れは起きない。どうせダンジョン内の物資は転売され外に流れているのだ。報酬で金を貯めて後で買えば問題ない。

 それと男女間の乱れが崩壊を招くなら、探索中は仲間に手を出さないと魂に契約を結べばいい。

 

 前者はまだ楽だ。だが【契約魔術】に至っては、理解を得られなかった。【契約魔術】自体、奴隷を扱う【隷属魔術】から派生した物なのだから。


「理解できないのも分かるが、契約を結ばない時点でお前達は仲間を信頼できるか? その時点で何かしらの企みがあると見た方がいい。何もなければ【契約魔術】が発動することもなく、条件が満たされれば自然と消えるのだから」


 確かに……。そう受講生達が頷き始める。

 今まで刷り込まれてきたギルドの信頼が崩れ始めようとしているのだ。サリネルが私を睨んでいるが、依頼したのはそちらなのだ。文句は言わないでいただきたい。

 それとも私がギルドの馬鹿げた理論を信じ込ませると思っていたのか? 私は貴方から聞いた依頼では『新人冒険者が死なない様にレクチャーしてほしい』と言うのであって『ギルドの思想を叩きつけろ』と言うものではない。


「以上。私の講義を終える。信じるか信じないかはお前達の自由だ。それでは――」


 去ろうとしたその時、部屋の扉がバタン! と慌てた様子で開かれた。現れたのは1人のギルド職員の男だ。ここまで全力疾走してきたのだろう。足が震えて息が上がっている。


「ここにアイザック殿がいると聞きましたが……」

「私はここです。何か?」

「すみません……。実は昼間に中級ダンジョン攻略に出た【森の息吹】と言うパーティーの1人が大怪我をした状態で戻りまして……。仲間を中に置いてきてしまったと……」


 【森の息吹】……。昼間に出たと言うことは恐らく私が見たあのパーティーだろう。


「それが私と何の関係が?」

「お願いです……。救出を依頼したいのです」

「私に? ここはギルドだ。名のある冒険者がわんさか居るじゃないか。それに私は無資格ですぜ? そんな奴を頼らない方がギルドとしては良いのでは?」

「そ、それが向かったダンジョンが聞いていた話と違っていた様で……。その人によればダンジョン自体が生まれ変わったかもと……推定Aランク相当の……」

「ダンジョンが生まれ変わっただって!? そんな馬鹿な!」


 ダンジョンはより厄介に適応する。それは講義でも私自身が言った様に事実だ。だが、ダンジョンそのものが生まれ変わる事なんて聞いたことがない。

 もしそれが本当だとすれば、それは進化だ……。魔物がではなく、ダンジョンそのものの進化ということになる。


「それに今動ける冒険者は外に出ていてここを踏破できる存在は今や貴方しかいないのです! どうか……どうかお願いします!」

「そこまで必死になる必要もないでしょう。その名のある冒険者が帰るのを待つがよろしい。たかが何年かの記憶を失う程度……。私の出る幕ではありませんな」

「それが、今救出していただかなければ困るんです!」


 どういう事だ? たかがルーキーだぞ? ここまで職員が無資格の私に食い下がるのも不思議な話だ。


「何故です?」

「そのパーティーの中にいる男……。リーダーのキルラですが……。昨日ある政治家女性が殺害された事件があったのですが、どうやら彼が容疑者と会っていたという情報がありまして……」


 瞬間講義室が騒ぎになった。これ以上この話をここでするべきではないな。


「ジーナ。こっちに来い」

「ご、ご主人?」

「講義は終わりだ。行くぞ」


 私はジーナを連れて、ここから出ることにした。

 出る間際、サリネルに後の始末は任せることを伝えた。

 私は職員と少し離れた部屋に入り、詳しい話を聞くことになった。


 ***


 話は昨日夜にグライカン政府に勤めるアカザワ議員が殺害された時に遡る。

 その事件の容疑者としてある男が逮捕されたのだが、男が殺人を犯した証拠はなく、偶然アカザワ氏の邸宅前を通りかかっただけの存在らしい。だが、それ以外に容疑者らしい人物は居ないとの事で拘留されたようだ。


 その男曰く、昼間にダンジョンに向かった【森の息吹】リーダーと夜に会っていたと言う。それが事実なら殺害時刻と合わずアリバイが証明される。

 だが、その証人はダンジョン攻略に失敗した。帰ってきたのは仲間ただ1人。なんとも不幸の連続だ。


「どうか……どうか受けていただけませんか? これはギルドの威信にも関わる重大な任務なのです」


 だとしてもそれはそちらの都合だ。私には関係ない。

 

「お断りします」

「なぜ!?」

「何故だって? さっきも言ったが本来そちらの仕事のはずだ。私はただの市民ですぜ?」

「そんな、貴方はどんな依頼でも必ず達成させてきた探索者じゃないですか!」

「関係ありませんな。ただ……どうしてもと言うのであれば500万。それと私の無資格活動に今後目を瞑ると約束していただきたい。それが条件です」


 事あるごとにタダで働かせようとしてくるだけはやめて欲しいからな。

 

「5、500!? 高すぎます! それに無資格活動を認めるなんて……私の独断では……今すぐ上のものに確認を――」


 男は部屋から出ようとしたが――


「今決めなさい。ギルドの伝達の遅さは私も嫌と言うほど知っています。その確認で日が暮れる可能性もある。だから今ここで、貴方が決めなさい」

「わ、私が……」

「これは正義がかかっているのでしょう? ギルドの威信が掛かっているのでしょう? なら迷う必要はないはずだ。それともなんですか。今決断を逃して1人の無実の男の人生を終わらせるつもりですか?」


 男は唸る。そんな脅しとも見えるやり取りを見たジーナが私に耳打ちしてくる。


「受けてやるべきではないか?」

「馬鹿言え。こっちも商売でやってるんだ。タダ働きで命を賭けるなんざごめんだね」

「そ、そうか……。今の私は奴隷だ。ご主人の意見に従うほかない……」


 悔しそうなジーナ。貴族故正義感には人一倍厚いのだろう。だがこれは私の商売だ。私が決める事だ。

 それに500万と1人のモグリの活動に目を瞑るだけで1人の人生が救われるんだ。これほど安いものはないだろ?


「どうしますか? 私は別に構いませんよ? その人が処刑されようがね」

「か、彼は……同じギルドで働く同僚なんだ……見過ごす事なんて……出来ない!」

「随分とアットホームな職場ですな」


 ジーナ。そう睨まないでくれ。嫌味ではなく心からの言葉なんだ。


「わ、わかりました……。500万。それと貴方の活動をギルドは無関心を貫く事を約束しましょう。私が責任を持ちます! ですから――」

「ではお受け致しましょう」


 男が顔を見上げてくる。小さな声で「良かった……」とホッとしたように呟いていた。

 

「夜には貴方の同僚は娑婆の空気が吸える様になってますよ」

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