第14話
扉の先にいた新人は10代から20代までの男女が階段上の机を埋め尽くす程集まっていた。
私が入室したと言うのにペチャクチャと会話を続けている。ここを公民館か何かと勘違いしているのか?
「先生が来られました。皆さん静粛に、静粛に!」
サリネルが手を叩くと皆が一斉に私に目を向けてきた。だが……チラホラとまだ会話を続けている馬鹿共もいるな。
「サリネルさん。あそことあそこ。それからそこの4人は出て行ってもらうように伝えなさい」
「せ、先生!?」
今の私の一言で場が凍りついた。サリネルは驚きつつも、指定した受講生の元へ向かう。
この依頼を受けるにあたり条件として私の言う事には絶対従ってもらうよう伝えてある。ギルド職員としては複雑かもしれないが、素養がない者には出て行ってもらうほかない。
「て、テメェ! 俺達を追い出すたぁどう言う了見だ! あぁん!?」
サリネルの言葉を聞いたのか、1人の男が私に怒鳴り階段を捲し立てながら降りてきた。馬鹿馬鹿しい。
「ジーナ。お前は席に着きなさい。お前にも講義を受けてもらう」
「本当か! ではよろしく頼む!」
そんな男を無視して、ジーナを席に促すと意気揚々と開いた席に向かわせると、入れ違いに男が私の前までやって来ては「あぁん!?」と威嚇しながら顔を覗き込んできた。
「俺を無視するなっ! 大体お前は誰なんだ! 何の権利があって俺たちを追い出すんだ?」
権利もなにも今話してたろ……。今回の講師だと。つまりお前たちの上官に当たるというのに……。
「私か? 私はアイザック。訳あって今回お前達の講師をすることになった者だ。まあ、お前はもう生徒ではないがな」
「な、ななな……ふざけんなっ!」
納得できないと見るや、男が私の胸ぐらを掴もうと手を伸ばしてきた。
話は聞かない、講師に対して反抗的な態度、理解力の低さ。どれを取っても基準以下だ。自分でやっていて素質がないと気づいていない。重症だな。
「講師がなんだ! 俺はギルドからスカウトを受けて冒険者になろうってんだ! いわば逸材だとよ! それをお前は出て行けだと?」
「お前さんが逸材だって? ははは。それならお前さんをスカウトした職員の目が腐っていたんだなぁ。お気の毒に」
「お前ぇっ!!」
胸ぐらを掴もうとした男の手を捻り、ひっくり返してやった。男は見事に一回転して講義室の冷たい床に背中をぶつけた。勢いが良過ぎたのかかなり痛みがあるらしく背中を摩りながら痛みに呻いている。
「まじかよ……。新人とはいえ一瞬で片しちまった……」
「今の見えた? ぐるんって回ってたけど風の魔法か何かかしら……」
どうやら今の一幕が私の信頼を勝ち取るデモンストレーションになったようだ。
この点に関してだけはこの馬鹿に感謝だな。
「いちち……」
「分からないようだから言ってやる。お前さんは向いてないんだよ。指示を聞かない、講師である上官に反抗的、更には自分の考えが通せないと見るやすぐに手を出す。これはギルドが定めるパーティー戦術論から見ても論外だ。いずれお前さんはトラブルを起こす。それも壊滅的なレベルのな」
「く、くそぉ……」
ここまで言って理解しない奴はいないだろう。男も言い返す余裕がないのか、項垂れるだけだった。
「だからお前はいらん。それとさっき言った奴らも同様だ。さっさと出て行ってもらおう。それとも何か? こいつと同じ様に冷たい床を舐めたいと?」
「「い、いえ! 失礼します!」」
素直に今度は出て行ってくれた。殴りかかってきたこの男はサリネルが無線で呼びつけた職員2人に連行されて部屋から追い出されていく。
この一幕が終わるや、受講生達が拍手し始めた。
私はため息を吐いて手でそれを止める。
どうやら残った奴らはまだ私の指示を聞く最低限の知能は備えているらしい。
「見苦しいところを見せたな。先ほど言ったが私が訳あってお前達にダンジョンで生き抜く術を叩き込むことになった講師、アイザック・ニュートリウスだ。よろしく」
名乗ると受講生がざわつき始めた。私の名を聞いたものが何人かいるらしく、小声で話し始めているのが聞こえてくる。
「ア、アイザックだと? それって確か……」
「ええ。【屍食鬼】の……確か無資格なんじゃ……」
おほん! と咳払いをしてやると皆黙り込んだ。
「色々思うところはあるだろうが、時間が惜しい。早速始めるぞ」
黒板に置かれたチョークを手に持つ。
まずは戦術論から入るか。そう思い4人1組の図形を描いていく。
そうして私は私の持つ経験と知識を新人どもに話し始めるのだった。
***
パーティー戦術論――ギルドが定めた4から5人で編成されるパーティーが各々役目を分担して展開する戦術だ。
基本は前衛近接職2、中衛シューター1、後衛1から2のヒーラー、魔術師の割合で編成する。
前衛が敵の動きを止めつつ、攻撃。
シューターがパーティー全体の指示役。
後衛が回復に敵の妨害、もしくは攻撃に参加。
1人の人間では大した力にはならない。だが連携することでより強力な力を生み出す事ができる……と言った理論だ。
これを新人に教え込んだところで――
「こんな理論はクソだ。馬鹿げている」
「なっ!?」
「先生なにを!?」
私は否定してやった。
受講生だけでなく、サリネルまでもが仰天した。
それもそうだろう。この理論が世に広まって何十年と経つ。冒険者の皆がこの理論を実践し結果を残しているのだから。それを真っ向から否定した私が理解できないだろう。
「話は最後まで聞く様に。この理論だが確かに理には適っている。前衛は得意な体術で敵を固め、中衛が戦況をコントロール。後衛は安全圏からのんびり詠唱すればいいのだからな。まあ適材適所と言ったものだろう」
だが――と私は続ける。
「もし前衛が崩壊したら? 背後からの奇襲で後衛から崩壊したら? その場合途端にこの理論は破綻する」
「な、ならどうすれば良いのだ?」
ジーナが口を開いた。瞬間しまったと口を閉じていたが、別にここで追い出すつもりはない。それにその疑問はもっともだからな。
「皆が全てを扱える様になればいい。前衛は魔法も使えて、後衛も同様に体を鍛えれば良い。ただそれだけのことだ」
「で、でも先生……私達は初めに就いた職を極める様にと先輩から教えられたのですが……」
「そうだぜ? 全部を会得しようとした結果中途半端な戦いしかできないって俺も聞いたぞ?」
極めるに中途半端ね……。ギルドが押し付けそうな誤った情報だ。
「なら中途半端を超えるレベルまで鍛えれば良い。全てを極めればいいだけではないか? お前達はギルドの掲げた馬鹿な理論を信じ過ぎている。ハッキリ言おう。古過ぎる!」
私は手に握ったギルド教本を床に叩きつけ踏み躙った。これにはサリネルもムッとした様子だが、私には関係ない。なにせギルドの人間でもなければ指示を受けた冒険者でもないのだからな。
「いいか? お前達がこれから立ち向かうダンジョンは生きているんだ。冒険者という異物が侵入すればどんな手を使ってでも殺しに掛かってくる! 魔物は倒される度に適応し進化する。トラップはより巧妙なものへと昇華し、お前達の信じる理論が通じなくなっていく」
だから全てを身に付けるべきだ。人に頼り切らない1人で完結した戦術を構築する必要がある。それに何より――
「そしてダンジョンで1番厄介な敵……それは味方だ!」
「なっ!」
「何ですって!?」
皆が驚くの何度目だ? まあこれまで話した私の言葉は、お前達が身に付けようと開いた教本に書かれている全て否定するものばかりだからな。
ここまで読んで頂きありがとうございます!
もし面白いと思って頂けたら
評価とブックマークをして頂けると励みになります。
よろしくお願いします!




